活動紹介
第3回「市民のための法律セミナー」レジュメ 老後の備えは万全ですか?
*1.相続、遺産分割、遺留分、寄与分
弁護士 渡辺 輝人事例1
Aが8000万円の財産を残して死亡した。
Aには妻のBと息子のCがいる。Cには妻のDがいる。
ところが、Aが亡くなってから、遺産分割のために戸籍を調べてみると、AにはEという子がいることが分かった。AはBと結婚する前に結婚していたFがおり、EはFとAの間に生まれた子どもだった。その後、AはFと離婚し、Bと結婚していた。

問題1 この事案で、関係者にはそれぞれどのような権利があるか?
(資料 「法定相続分」参照)
- 相続分 妻…2分の1
Fは既に離婚しているので「妻」ではない。従ってAの相続について相続権はない。「妻」はBのみ。 - 子…2分の1
CとEはいずれもAの「子」であり、相続分は平等。従って、2分の1を半分ずつに分けることになるので、結局、C4分の1、E4分の1ずつとなる。 - 子の妻…相続権なし
Dは「子」の妻であり、相続権はない。 - 具体的相続分は…
B…8000万円×1/2=4000万円
C…8000万円×1/4=2000万円
E…8000万円×1/4=2000万円
※財産が不動産だった場合は「共有」の状態になります。
問題2 Aは、亡くなる前5年間は倒れて寝たきりの状態であり、介護が必要な状況であったが、C の妻であるDが毎日看護をしていた。また、Aは店舗を経営しているところ、Aが倒れてからはCが切り盛りして、店も少ないながら利益を上げていた。DがAの看護をしていたこと、Cが和食店を切り盛りしたことはどのように扱われるのか。
(民法904条の2)
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別 の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみ なし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
実際に看護をしたのは相続人ではないD。しかし、DをC の履行補助者として見てC の寄与分として考慮することが出来る。そして、介護をすることによってAが出費を免れた介護料の分については「財産の維持」に該当しうる。
また、Cが店舗の切り盛りをしていたことは「労務の提供」に当たる。
いずれも寄与分として考慮できることになる。
実際には、寄与分の額を計算するのは非常に困難。色々な計算をしていくことになる。これらの寄与の金額が合計で800万円だとすると、具体的な相続分は次のとおりとなる。
(基準額)8000万円―800万円=7200万円
B…7200万円×1/2=3600万円
C…7200万円×1/4=1800万円
+800万円=2600万円
E…7200万円×1/4=1800万円
問題3 Cが自宅を建てるにあたり、Aから1000万円の援助を受けていた場合は考慮されるか。
(民法903条)
同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者 があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中 からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
1000万円の援助は特別受益に該当する。この場合の具体的な相続分は次のとおりとなる。
(基準額)8000万円+1000万円=9000万円
B…9000万円×1/2=4500万円
C…9000万円×1/4=2250万円
-1000万円=1250万円
E…9000万円×1/4=2250万円
問題4 Aが死亡する前に「全財産をCに相続させる」という遺言を書いていた場合、Eには何も権利がないのか
(民法1028条)
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一
(1029条)
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
(1030条)
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
本件の場合、1028条二号の場合なので、8000万円の2分の1である4000万円が遺留分になる。Eはこの4000万円に自分の相続分である4分の1を掛けた1000万円の遺留分を有することになる。
問3のように、Cが1000万円の特別受益を受けた板場合、9000万円×2分の1×4分の1=1125万円が遺留分となる可能性がある。
最高裁判例平成10年3月24日
「民法903条1項に定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前になされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済情勢や相続人など関係者の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる」
【資料】
法定相続分
子どもがいる場合
- 子ども(孫)と配偶者がいる場合 ・・・ 配偶者 2分の1、子ども(孫) 2分の1
- 子ども(孫)だけがいる場合 ・・・ 子ども(孫)のみ
子ども(孫)がいない場合
- 子ども(孫)がいない場合 ・・・ 配偶者 3分の2、親 3分の1
- 子ども(孫)がいなくて、親もいない場合 ・・・ 配偶者 4分の3、兄弟(甥、姪) 4分の1
- 子ども(孫)がいなくて、配偶者もいない場合 ・・・ 親のみ
- 子ども(孫)がいなくて、配偶者、親もいない場合 ・・・ 兄弟(甥、姪)のみ
- 子ども(孫)がいなくて、親、兄弟(甥、姪)もいない場合 ・・・ 配偶者のみ
※子どもが複数の場合は、子どもの数で頭割りします(親、兄弟の場合も、頭割りになります)。夫婦に子どもが生まれれば、その夫婦の親には相続権がなくなります。
*2.遺言、遺留分、税金
弁護士 飯田 昭事例2~高齢のAの相談~
妻は既に亡くなり、子どもはいない。養子Bあり。兄弟2人C、Dあり。Cは粗暴で財産を狙っている。財産は居住不動産(甲)と賃貸しているアパート(乙)、それに預貯金(丙銀行、丁銀行)が合計約2000万円位。居住不動産はBに、アパートはD、預貯金はBとDに半分ずつわけたい。

〔回答〕
―遺言を作成することによって、実現することができます
- 何も遺言をしないと、この場合には財産は全て養子Bに相続されることになります。
―よく使われる遺言とその説明をします
(1)自筆証書遺言〔資料〕
- 自筆証書遺言の要件は一枚もしくは一綴りの書面に遺言の内容、日付けを自書し、署名、押印することです。
- ワープロではダメです。その他形式にミスがあれば無効になることに注意→間違いがないか、弁護士に相談してください。
- 遺言者が死亡したとき、相続人は家庭裁判所に「検認」を求めなければなりません。
(2)公正証書遺言
- 公正証書遺言は公証人が作成し、その原本は公証人役場に保管されますので、自筆証書遺言のような問題はありません。
- 相続人など利害関係の無い証人2人の立会い、署名、押印が必要です。→公正証書遺言の証人になることも弁護士の仕事の一つです。作成援助、証人、保管、遺言執行者も含めてトータルに弁護士に依頼しておけば、なお安心です。
(秘密証書遺言)
- 自筆証書遺言でも、公正証書遺言でも、遺言の内容を秘密にしておきたい場合には、公証人及び証人2人の立ち会いのもと、秘密証書遺言を作成することができます。この場合の証人や遺言保管者も弁護士に依頼しておけば安心です。
―亡くなった後、確実に遺言が実現できるようにするには…
- 遺言執行者を指定しておくことができます。弁護士を指定しておけば安心です。
―Cが要求してくることはないか?
- これは遺留分の問題です。
遺留分とは、相続人に残さなければならない割合で、兄弟姉妹には遺留分はありません。その割合は父母等の直系尊属のみが相続人である場合には相続分の3分の1、配偶者・子の場合は相続分の2分の1が遺留分となります。
※(事例2-2)Cが兄弟姉妹ではなく、実子であった場合はどうか
- この場合には、Cには相続分の半分の遺留分があります(2分の1×2分の1=4分の1)。
死後1年以内に遺留分減殺請求権が行使されれば、B、Dは遺留分の範囲で支払う必要があります。
―これを避けるにはどうしたらよいのか
- 予め遺言において、4分の1相当額はCに取得させる内容の遺言を作成することが考えられます。弁護士とよく相談してください。
―Cは親である私に暴力を振い、生活に困ると金をせびるなどしてきた。Cには一円も渡したくない
- 「排除」の意思を遺言に記載して、弁護士を遺言執行者に指定しておく方法をとれば、死後、弁護士が「排除」の申立てをします。但し、「虐待または重大な侮辱」、「著しい非行」に該当することが必要ですので、弁護士とよく相談してください。
- 遺留分減殺ができるのは、相続時の遺産と死亡前1年間の贈与ですから、生前にできるだけ贈与しておくことも考えられますが、贈与税は相続税と比較してはるかに高額になります〔資料〕。但し、B(子)については「相続時精算課税制度」〔資料〕の適用が考えられます。また、双方(A、D)が遺留分権利者に損害を与えることを知っていたときは1年に限られないとされています。
―弁護士に依頼するとき、セットで依頼すれば安心です
- 口でいくら言っていても、あるいはテープやメモ書きがあったとしても、正式な遺言がなければ法的には無効です。遺言がなかったり、不完全であったりして、相続人間の紛争になると、そのコストも時間も大きなものになりかねません。そう考えると、「転ばぬ先の杖」として、遺言書作成だけでなく、公正証書遺言の証人、遺言執行者、遺言書の保管など弁護士にセットで依頼しておけば安心です。
【資料】
自筆証書遺言の記載例
(自分で遺言の内容の全文と日付を書いて、署名・押印しなければなりません)
相続税と贈与税の基礎控除額と税率

※1 基礎控除額として5000万円+(1000万円×相続人の数)は控除する。
事例2のケースでは5000万円+1000万円=6000万円が、事例2-2のケースでは、5000万円+(1000万円×2)=7000万円が基礎控除額となる。
※2 その年の1月1日~12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた額。
*3.成年後見、任意後見
弁護士 渡辺 馨事例3
Aさん(66歳の女性)は、夫と5年前に死別、子どもなし。
数年前から物忘れが激しく、医者からは近々「認知症」の診断が出ると言われている。
財産は、不動産が土地建物各2筆で数千万円、生命保険の積立金1億円、預貯金4000万円、年金は夫の2分の1を含め33万円、介護認定は第4級、日常的には近所に住む妹さん(48歳)が世話をしてくれている。
本人の意向は、妹さんに財産管理、身上監護をして貰い、全財産を妹に相続させたい。
第1.成年後見制度
| 旧制度 | 禁治産、準禁治産制度 | |
|---|---|---|
| 新制度 | 成年後見制度 | |
| 法定後見制度 | 補助人、保佐人、後見人の選任 | |
| 任意後見制度 | 公正証書による任意後見契約書の作成 任意後見監督人の選任 | |
第2.任意後見制度の手続
- 公証人役場でAさんは妹さんを任意後見人として財産管理と身上監護についての代理権を付与する委任契約書を作成する。
- 公証人は、東京法務局に任意後見契約を登記する。
- 登記後、任意後見人が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てる。
- 任意後見監督人の選任により任意後見契約の効力が発生し、妹さんがAさんの財産を管理し、身上監護をおこなう。
第3.Aさんに任意後見人が選任されて遺言書を作成する方式
- 医師2人以上が立会すること
- 医師は「Aさんが精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった」旨を付記し、署名、押印する
- 公正証書遺言が相当
- 遺言書の効力
兄弟姉妹の遺留分について
第4.成年後見制度
- 旧制度の禁治産、準禁治産制度は、明治憲法下の「家」制度における「財産保全」を目的としたもの、昭和54年までは「聾者、亜者、盲者」は準禁治産者、禁治産者の行為は一切取消の対象であった。
- 新制度:平成16年民法総則が全面改正。差別的規程の削除と「自己決定権の尊重」として、禁治産者の日常生活に関する行為は取消権の対象から除外され、新しく任意後見制度が導入された。併せ、従前の財産管理に加えて身上監護が入った。
- 法定後見〔資料 診断書参照〕
- (1) 補助(民法15条)
本人の判断能力が不十分な場合→補助人の選任
民法13条の行為の一部につき補助人の同意が必要 - (2) 保佐(民法11条)
本人の判断能力が著しく不十分な場合→保佐人の選任
民法13条の行為につき保佐人の同意が必要
イ 貸した土地、建物、お金を返して貰ったり、これらを他人に貸したりすること
ロ 金を借りたり保証人になること
ハ 不動産や高価な財産の売買、貸与、担保の設定
ニ 訴訟行為をすること
ホ 贈与、和解、仲裁契約をすること
へ 相続を承認、放棄したり、遺産分割をすること
ト 贈与や遺贈を断ったり、負担付贈与、遺贈を受けること
チ 新築、改築、増築、大修繕をすること
リ 山林を10年以上、宅地を5年以上、建物を3年以上、動産を6ヶ月以上にわたって賃貸借すること - 後見(民法7条) 本人の判断能力が全くない場合→後見人の選任
本人の日用品の購入その他日常生活に関する行為以外は後見人が代理して法律行為をおこなう。
- (1) 補助(民法15条)
以上
【資料】
診断書










