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和解で円満解決 ~京都の洋菓子店での障害者に対する雇い止め事件

和解で円満解決 ~京都の洋菓子店での障害者に対する雇い止め事件

2017年2月8日
弁護士 大島 麻子

「マールブランシュ」のブランド名で洋菓子の製造販売等を行う株式会社ロマンライフは、2014年(平成26年)9月12日、京都労働局などが主催する京都障害者ワークフェアにおいて、障害者への雇用に取り組む企業として「努力賞」の表彰を受けました。ところが、そのわずか1カ月半前の同年7月31日、ロマンライフは、障害者雇用として雇い入れた原告(当時19歳)に対し、業務とは直接関係のない理由で雇い止めを行っていたのです。

原告は、2014年(平成26年)4月、滋賀県にあるロマンライフの湖南スタジオの製造ラインのパート社員として新卒採用されました。原告は軽度の知的障害があるものの、日常生活においては問題なく自立しており、3度にわたる「就労体験」を経ての正式採用でした。最初の雇用期間は同年7月末までの有期雇用でしたが、よほどのことがない限り雇用は継続するとの約束を信じ、原告は求人に応じました。採用後は、原告は熱心に仕事に励み、ロマンライフもその働きぶりを評価していました。

雇い止めのきっかけとなったのは、同年5月19日、何者かが更衣室にあった男性アルバイトのスマホを使い、いたずらメッセージを送ったという「事件」でした。男性の自己申告によって「事件」を知ったロマンライフは、更衣室前に設置した防犯ビデオの映像で原告が更衣室に入室したのを確認し、それだけで原告が犯人だと即決してしまいます。不幸なことに、「事件」発生時刻は、たまたま原告の休憩時間終了間際であり、かつロマンライフは防犯ビデオの時刻の正確性には全く注意を払わかなかったのです。6月5日、ロマンライフは原告と保護者を呼び出し、はじめて「事件」のことを告げたのですが、その時点で、既にロマンライフは契約の更新拒絶と、契約勤務時間の短縮を伴う清掃業務への配置転換を決定していました。原告は、「事件」への関与を否定しましたが、ロマンライフははじめから原告の弁解など聞くつもりはなく、配置転換は強行されてしまいました。

原告はストレスからチック症状を悪化させながらも、真面目に清掃業務に従事しました。その間、原告の保護者、卒業校の教員、障害者支援団体の職員、障害者雇用を担当したハローワークの職員らが、何度もロマンライフと面談を重ね、原告への濡れ衣を晴らそうとしました。最後には滋賀労働局が、障害者虐待の疑いがあるとして指導に入り、7月中旬、ロマンライフはいったんは雇い止めを撤回しました。しかしながら、引き続き原告を「事件」の犯人として扱ったため、納得のいかない原告の保護者が謝罪と事実経緯の説明を求めたところ、ロマンライフは再度雇い止めを通告し、7月末をもって雇い止めを強行しました。

その年の10月、原告と保護者は、不当な雇い止めや配置転換に対する慰謝料を求め、大津地方裁判所に提訴しました。

当初から、アルバイト男性の「事件」の申告には不自然なところがあり、「狂言」ではないのかとの疑いがありました。しかしながら、裁判でも、アルバイト男性の氏名は明かされず、陳述書の提出も証人としての出頭もなく、疑問は解消されないままでした。また、原告側の求めで証拠提出された「事件」当時の防犯ビデオには、十数回にわたって更衣室への出入りを繰り返す別の男性パート社員の姿が映っていましたが、この男性パート社員も含め、ロマンライフは、原告以外の社員に対する聞き取り調査を一切行っていないことも明らかになりました。

ロマンライフの障害者雇用の責任者は、証言台で、障害者雇用への積極的な取り組みを強調する一方、まじめに働いていた原告を犯人と疑ったのはなぜかという質問に対して、「何かが突発的に起こったんではないかなというふうに、ひとつは思いました。」「特に様子がおかしくなかったので、余計怖いなというふうに。」と、驚くような証言をしたのです。まじめに見えても、障害者は突然何をしでかすか分からないと言わんばかりでした。そして、今でも原告を犯人だと考えており、謝罪するつもりはないと言い切りました。

2016年(平成28年)9月、大津地裁の判決は、原告の請求を棄却するというものでした。判決は、契約更新の期待権は認めながら、ロマンライフが更新拒絶を行ったのは、原告の保護者が謝罪や事実経緯の説明を「更新の条件」としたことから、ロマンライフがこれを困難と判断したためであって、その判断は違法とはいえないとしたのです。また、判決は、ロマンライフが「事件」発生を確信し、原告を犯人と疑ったことは不合理ではないとする一方で、両当事者間で何ら争いのない原告の真面目な勤務態度や、原告が一貫して「事件」への関与を否定し、法廷でもその旨証言した事実には一切言及しませんでした。

地裁の判断は、障害者は、不当な扱いをされても、雇い続けて欲しければ文句を言わずに黙って働けというに等しいものでした。そこで、原告は大阪高裁に控訴しました。 そして、2017年(平成29年)1月末、高裁で和解が成立しました。和解条項として、ロマンライフが原告に対し、雇用継続の打ち切りを通告せざるを得なくなったことについて遺憾の意を表すること、解決金として170万円を支払うことが盛り込まれました。なお、原告の雇用契約上の1カ月の給与額は約13万円です。

2016年(平成28年)4月、障害者雇用促進法が改正され、また障害者差別解消法が施行される一方、同年夏には、障害者への差別を動機とする痛ましい事件も起こっています。本件の和解が、障害者への不当な差別を解消する一契機になることを願っています。