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安倍政権の労働法制の大改悪に立ち向かう

安倍政権の労働法制の大改悪に立ち向かう

2015年4月27日
弁護士 渡辺 輝人

1 日本の労働時間規制の概要

日本の労働時間制度は、週40時間労働制、一日8時間労働制(法定労働時間制)です。これとは別に週休制(週に一度の法定休日)もあります。

労基法では法定時間外労働、法定休日労働は犯罪行為とされます。罰則を回避できるのは使用者が過半数組合または労働者の過半数代表と三六協定を締結した場合にその範囲内のみです。ただ、三六協定の上限を定めた「告示」に強制力がないため、大企業が率先して告示の上限を超える長時間の三六協定を締結しています。

そして、使用者は労働者の残業に対して時給制の残業代(時間外、法定休日、深夜早朝労働の割増賃金)の支払いを強制されます。使用者に残業代の支払いを強制することで(1)使用者に対する制裁、(2)労働者に対する補償の二つを同時に実現し、残業そのものを抑制するのです。残業代の不払いが訴訟に発展した場合は付加金による最高で倍額の制裁金(付加金)が課されます。

このように、民事的には残業代が適正に支払われることで初めて労働時間規制が機能するのです。

2 ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)法案の概要

今国会に提出されるともされるホワイトカラーエグゼンプション法案(残業代ゼロ法案=過労死促進法案。政府は「高度プロフェッショナル制」などと言います。)は、年収1075万円以上の労働者(法律では「平均年収の3倍超」を基準と記載する模様)について、労働時間規制をすべて撤廃するものです。対象業種は金融ディーラー、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務などです。

また、「1075万円以上」の宣伝の陰で、政府は「企画業務型裁量労働制」を一部の営業職や「事業の運営に関する事項の企画立案調査分析を一体的に行う業務」に「裁量労働制」を拡大しようとしています。裁量労働制は労働時間のみなし制度で、半ば残業代ゼロ制度です。現在でもシステムエンジニアという名目で実態はただのプログラマーに導入したり、裁量労働と言いながら出退勤時刻が決まっていたりと、本来は導入できない労働者に対して脱法的に裁量労働制が導入されている疑いがあります。営業職や定義自体が曖昧な職種に導入を許せば、年収300万円~400万円台の半ば残業代ゼロの労働者が続出するでしょう。

3 問題点

現状では上記年収要件について法律に書き込まれるか不透明で、省令で後付けで要件を緩和できる可能性があります。また、賃金が高ければ過労死してもよいことにはなりません。

政府は「時間ではなく成果に基づく賃金」という宣伝をしており、新聞各紙もこれに習った報道をしていますが、法案には成果で賃金を支払うことに何も触れておらずウソです。

「成果で報酬が決まるので早く仕事を片付けて早く家に帰れる」とまるで労働者の利益になるかのような宣伝もされていますが、業務の量を決めるのは使用者です。例えば、公立小中高の教員は法律でエグゼンプション制度が導入されているところ、様々な業務を押しつけられ、超長時間労働と過労死やメンタル疾患の多発が繰り返し報道され社会問題化しています。残業代という長時間労働の歯止めを失うことで労働時間が短くなることはないのです。逆に教員のような働き方が全産業に広がるでしょう。

「長時間労働防止措置」を導入するので大丈夫、という議論もありますが、①労働時間のインターバル規制、②月の残業時間の上限設定、③年間104日の休日の付与のどれかを実施すればよく、とても過労死を防止できるようなものではない上、使用者が定めを破っても罰則がありません。

4 運動の展望

第一次安倍政権はこの問題で躓いたため、慎重にことを運ばざるを得ない側面もあります。この法案の過労死促進法という本質を徹底的に広めれば、与党が動揺し始める可能性が高いと言えます。大いに危険性を語り、廃案に追い込みましょう。

5 そこで本を書きました

また、すでに述べたように、日本の労働時間規制は残業代の支払いとセットになっています。制度の仕組みをよく知って、労働現場で権利主張を積極的にしていくこともとても重要です。弱い権利は権力者が簡単にひっくり返せますが、国民に定着した権利を覆すのは困難です。残業代の請求を確固として行っていることが結局労働時間抑制やさらなる前進につながります。

そこで、この度、労働時間と残業代について分かりやすく解説した『ワタミの初任給はなぜ日銀より高いのか?』という本を出版しました。以前から、労働現場で違法な「名ばかり管理職」が導入され、昇格すると途端に残業代が1円も支払われなくなり、かえって賃金が下がる話はあります。近年はさらに様々な制度が脱法的に導入されて新卒の従業員まで残業代が支払われない風潮が広がっています。

これが端的に表れるのがワタミ(の子会社のワタミフードサービス)の大卒初任給です。同社の大卒初任給は24万2326円で、これはなんと日本銀行の総合職の大卒初任給20万5410円よりも高額ですが、その裏にはカラクリが潜んでいます。

この本は、この話題を皮切りにして、残業代をめぐる社会の情勢(未払残業があるのに請求できないのはなぜなのか、公務員バッシングと残業代の関係、過労死と残業代の関係など)を分析します。

その後、公表されている企業の募集要項を基に、残業代を軸にしながら年間の労働日数(従って休日数)の大小、所定労働時間数の大小、残業代の単価の大小などを分析していき、ワタミの高額初任給のカラクリを解き明かします。

そこからさらに年俸制、固定残業代制、変形労働時間制、事業場外みなし労働時間制、名ばかり管理職など、残業代を払わない言い訳とされる様々な制度について解説し、実は多くの場合残業代請求をできる違法な制度であることを解明します。

そして、残業代を請求するための証拠集めの方法、残業代の計算方法まで詳しく解説し、最後に具体的に権利行使する方法までカバーします。

ひと言で言うなら「残業代を軸に会社と社会を分析し、権利行使するための本」という、今までありそうでなかった本です。当事務所でもお近くの書店でも購入できます。是非お手にとって頂ければと存じます。