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自民党改憲草案 緊急事態条項って?

自民党改憲草案 緊急事態条項って?

2016年7月19日
弁護士 高木 野衣

1 「緊急事態条項」?

緊急事態条項をご存じですか?戦争や大規模災害、テロなどの非常事態が起きたときに、内閣が緊急事態を宣言すれば、内閣の一存で、法律と同じ効力を持つ政令を出し、財産上の処分を行うことができ、誰もがその内閣の政令に従わなければならないというものです。

自民党は、「大災害やテロの時に、国民を守るための規定がないのは、憲法の欠陥だ!」と言って、「自民党改憲草案(2012年)」の中に、この緊急事態条項を盛り込んでいます。しかし、本当にそうなのでしょうか?

2 災害対策に必要なのは「適切な現場判断」と「周到な事前準備」

東日本大震災によって大津波が福島第一原発を襲い、原発が爆発して放射性物質が大気中に放出された時、政府は被災地や原発の状況を把握することができず、なかなか避難指示を出すことができませんでした。最初に避難指示を出したのは、福島県です。

さらに、政府の出す避難指示は二転三転し、被災地の人々を混乱させました。大規模災害が起きた時、内閣が現場の状況を把握できないまま不適切な指示をすれば、かえって現場の混乱が拡大することにもなりかねないのです。

大規模災害時に必要なのは、混乱した状況を目の当たりにしている現場に対して、権限を委任したりすることです。そして、そのための法律は既に整備されています(例:災害対策基本法、災害救助法等)。それが不十分だというならば、憲法改正ではなく、法律改正で対応すればよいだけの話です。

今、大規模災害対策として不十分なのは、事前の計画と準備と訓練です。東日本大震災では、たくさんの人が、原発や放射性物質の飛散状況について十分な情報を得られない中、逃げ惑い、被ばくしました。避難計画の整備や周知、避難訓練の実施、食料や燃料の備蓄など、事前の備えを万全にしておかないと、いざという時、対応できないのは当たり前です。過去の災害時に生じた混乱や被害状況から教訓を引き出し、事前の個別具体的な備えをすることが非常に大切なのです。

3 権力者に都合よく使われてきたのが緊急事態条項

たとえば、ドイツのワイマール憲法では、緊急事態条項と同じような権限が規定されていました。「大統領非常権限」というものです。ナチスは、国会議事堂を放火させて、国会議事堂が反社会的勢力によって放火されたとのデマを流して、緊急大統領令を出し、逮捕状なしにナチスを批判する政治家たちを次々と逮捕しました。そして、ナチスとその補完勢力だけになった国会で、全権委任法を成立させて、ナチス独裁政権を作ったのです。

戦前の日本でも、大日本帝国憲法の中で、天皇の緊急勅令や非常大権など、緊急事態条項にあたる規定がたくさん設けられていました。たとえば、治安維持法が天皇の緊急勅令によって厳罰化され、戦争に反対した人など数十万人が「治安を害する」として逮捕されるという歴史もありました。

このような犠牲を生んだ過去を反省し、戦後新たに作られた日本国憲法からは、緊急事態条項があえて削除されたのです。

4 緊急事態条項は立憲主義を壊すもの

憲法と言えば、「最高法規」ですよね。そんなこと言われると、私たちが守らなくてはいけない決まりのように思えますが、実はそうではありません。 

憲法を守らなくてはならないとされているのは、「天皇、摂政、国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」すなわち「国家権力」です。つまり、憲法は、国民が国家権力に対して、「戦争してはいけません」「国民の権利を守りなさい」と命令するものなのです。そして、国家権力は、国民が作った憲法を守って政治をしなければならない、それが「立憲主義」というものです。

しかし、緊急事態条項は、国家権力が憲法を停止して、国民に対して「非常事態なので国民は国家権力の指示に従いなさい」と命令するものです。明らかに「立憲主義」とは逆方向です。国家権力は暴走し、私たち国民の権利を制限してしまう危険性が高まってしまいます。

5 主権者である国民がなすべきこと

憲法は、国家権力が守らなければならないルールです。しかし、国家権力がきちんと憲法を守って政治をしてくれるとは限りません。

憲法12条には、「この憲法が国民に保証する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とあります。国家権力がきちんと憲法を守って政治をするよう、目を光らせて、声を上げるのが国民の仕事です。

自民党政権が続く限り、改憲の問題は必ずついてきます。気付いたら憲法が変わっちゃっていた!なんてことにならないよう、しっかりと国家権力を監視し、声を上げていきましょう!