弁護士コラム

国会議員の比例定数削減に反対!

国会議員の比例定数削減に反対!

国会議員の定数削減問題

2009年夏の衆議院選挙では、民主党が衆議院の比例定数を現行の180から100に削減(80削減)することを公約し、2010年の参議院選挙でも衆参両方の議員定数削減を公約しました。菅直人首相は10月1日の臨時国会開会の際の所信表明でも、衆参の議員定数削減について、年内に民主党内での取りまとめする旨言及しました。このように、ここ数年、政権与党である民主党でも、最大野党である自民党でも、選挙の度にマニフェストに明記して選挙公約としています。

比例定数削減の「黒い未来予想図」

「議員定数」削減と言いながら、実際には比例区定数の削減が狙われていると言われます。国会の比例定数を削減すると、国会内の議席に占める小選挙区の比率が増大し、今でも、民主党、自民党が実力以上に大幅に上積みされた議席を得ているのに、さらに、投票に現れた国民の意思と実際の議席配分の間のゆがみが増大します。8月14日の京都新聞の記事(共同通信配信記事)によると、直近の選挙での得票をもとに民主党が掲げる衆議院80、参議院40の比例定数が削減された場合の各党の議席を試算すると以下のようになります。民主党や自民党の議席は余り減らないのに対して、公明党以下の政党の議席が激減し、特に共産党や社民党の国会の議席はほとんど無くなってしまうことが分かります。

衆議院参議院
現行削減現行削減
議員定数480400242202
民主党30827510490
自民党119948878
公明党23101813
共産党9464
みんなの党54107
社民党7342
国民新党3321
新党日本1110

現在の国会は、投票に現れた国民の意思からかけ離れた民主、自民の二大政党が低レベルな「いさかい」を続けています。その一方で、「年越し派遣村」に象徴され、あれだけ世論から批判を浴びた労働者派遣法の改正議論はなかなか進まず、大手企業には行き先のない巨額な内部留保がたまり続けています。むしろ、法人税減税と消費税の増税がセットになった激しい庶民いじめが公然と語られる始末です。武器輸出三原則を緩和し、自衛隊の海外派兵を増大させ、憲法9条の改憲を目指す動きも顕著です。比例定数の削減は、そのような民主党、自民党にさらに実力以上の議席を与え、このような私たちの「痛み」や「願い」に鈍感な政治をさらに進める結果になります。

国会議員は無駄?

現在、昨今の公務員バッシングや無駄削減論と結びついた国会議員削減論がさかんに言われます。しかし、人口10万人あたりの国会議員数の諸外国との比較は次のとおりです。

イタリア1.07人
イギリス1.06人
フランス0.93人
カナダ0.93人
ドイツ0.74人
日本0.38人
アメリカ0.14人

連邦制をとり、州の権限が強いアメリカを除くと、日本の国会議員が多いとは到底言えない状況です。議員削減は国民の声を国会に届ける「窓」を減らすことですから、安易な議員削減は極めて危険です。

一方、主要国の政党助成金の額を比べると日本319億円、イギリス2億9200万円、ドイツ174億円、フランス98億円となっており、日本では議員定数とは関わりのないところで突出して多大な出費が行われている状況が分かります。「無駄」というなら削るべき部分はあるのです。

議員が居眠りをしている、というのもよく見聞きする話ですが、筆者の見たところ、居眠りをしている議員は民主党や自民党の議員に多いように思います。そのような政党が「定数削減」を口にするのもおかしな話です。

比例定数の削減を止めさせよう

小選挙区制の母国であるイギリスでは、2011年5月に国会の小選挙区制度の廃止を問う国民投票が行われる予定です。今、国会の比例区選挙の定数を削減して小選挙区選挙の比重を高めるのは国際的にも道理がないことです。

夏の参議院選挙後に「言論NPO」が行った学者・企業経営者アンケートでは「二大政党制は日本の政治が目指すべき政治なのか」の質問に対して「そう思わない」が46.2%、「そう思う」が27.5%という結果が出るなど、比例定数削減に疑問を唱える声も出始めていいます。そもそも、夏の参議院選挙では、自民、民主を合計した得票率が09衆院選挙の69.14%から55.63%に急落しています。国民の支持を得られない二大政党ばかりが実力以上の議席を得る小選挙区制度には根本的な欠陥があります。比例定数削減の動きを止めさせましょう。