弁護士コラム

子どもを親の虐待から守るために ~ 民法・児童福祉法の改正

子どもを親の虐待から守るために ~ 民法・児童福祉法の改正 ~

子どもを親の虐待から守るために、民法および児童福祉法が改正されることとなりました。改正法は2012年4月から施行される見通しです。現行制度の問題点と民法・児童福祉法の改正点をご紹介します。

【親権とは】

未成年の子を養育・監護する親の権利及び義務を「親権」と言います。民法上、原則として親権は父母の婚姻中は父母が共同して行うとされています。

親権を持つ親は、子を監護教育し、懲戒し、その居所を指定することができます。そのため、児童虐待の現場で、児童相談所が子どもを一時的に親から引き離そうとしても、親がその親権を根拠に無理やり連れ帰ってしまうケースが増えています。

また、懲戒権、すなわち躾け(しつけ)と称して子を虐待するケースも多くあります。

こうした現行の親権制度の問題点を改善し、子ども達を親の虐待から守るために、民法及び児童福祉法が改正されることとなりました。改正法は2012年4月から施行される見通しです。以下、主な改正点を順に見ていくこととします。

親権停止制度の創設

これまで未成年の子どもの親権を親から取り上げるためには、「親権喪失」の制度を使うより他に手段がありませんでした。しかし、親権喪失制度は親の親権を期間の定めなく喪失させるものであるため、児童相談所が申し立てをためらうケースが多く見られました。そのため、虐待されている子どもを一時的に避難させることができるよう、新たに「親権停止」の制度が作られることとなりました。親権停止制度では、「親権の行使が困難または不適当で、子の利益を害する場合」に、親権を最長で2年間停止させることができます。親権停止の期間は、家庭裁判所の審判により、子の身体や生活状況などを考慮して定められます。

親権喪失条件を明確化

従来からある「親権喪失」の制度についてもその条件が明確化されました。

「虐待または悪意の遺棄がある」場合や、「子の利益を著しく害する」場合に親の親権を喪失させることができます。これらの改正により、子の状況に応じて、親権の停止及び、喪失の制度がより柔軟に運用されることが期待されています。

親権制限の請求者を拡大

これまで、親権喪失の審判を家庭裁判所に請求できるのは、子の親族、検察官、児童相談所の所長だけでした。これを改正法では、虐待された子ども本人や未成年後見人にも親権喪失・停止の申し立てをすることができるものとしました。

親権の内容を修正

改正法では、親の監護や教育は「子の利益のため」に行うものと明記されています。そして、懲戒権については「監護および教育に必要な範囲内で」行うものとされました。従来の規定では、親の懲戒権は「必要な範囲内で自ら子を懲戒できる」と定められており、規定の曖昧さから虐待の口実とされることもありました。改正法では、親は子の利益のために親権を行使することが明らかにされました。

児童養護施設長らの権限強化

虐待された児童が入所する児童養護施設などの施設長の権限についても強化されることとなりました。従来は「必要な措置をとれる」という規定しかなかったものが、施設長が子どもの福祉のために必要な措置をとる場合に「親が不当に妨げてはならない」と明記されました。また、子の生命や安全を守る緊急時には、親の意に反しても必要な対応がとれるようになりました。児童相談所の所長についても同様の権限が与えられています。

未成年後見人の拡大

未成年後見人とは、未成年者に親権を行使する者がいない場合に、その世話をするために定められます。これまで未成年後見人は、「個人で1人だけ」と決められていました。改正法ではこの規定を削除し、複数の個人や法人も未成年後見人になれるようになりました。これにより未成年後見人の担い手不足を解消し、施設退所後の子どものケアも充実させることが期待されています。

おわりに

これらの法改正によって、従来の制度よりも柔軟に個別のケースに合わせて親の虐待から子どもを守ることが出来るようになります。今も虐待に悩んでいる子どもたちを救える場面が少しでも増えて欲しいと切に望みます。そのためには、子どもの周りにいる大人たちが制度を理解し適切に活用していくことが不可欠です。

我々弁護士も、子どもの幸せを守るために何が重要なのか、法律家として何をすべきなのかをしっかりと見極め、法改正によって新設された制度を有効に活用していきたいと思います。

2011年10月