弁護士コラム

大阪高裁で逆転勝訴判決 中学校教員の過労死事件

大阪高裁で逆転勝訴判決!中学校教員の過労死事件で、公務災害と認められました。

事件の内容

S先生は、数学の教師として、1978年4月から京都市の中学校に勤務していました。S先生は生徒指導に実績を有し、また、バスケットボールの指導にも力を発揮し、指導校を全国大会に導いたこともありました。1998年、S先生は生徒指導の実績を買われ、問題行動が目立っていた生徒のいる学級の担任となりました。また生徒らからの要望によりバスケットボール同好会の指導を引き受け、正式の部への昇格をめざすことになりました。ところが、同年10月末、S先生は抑うつ状態であるとの診断を受けて休職・療養することになりました。しかし、症状は改善せず、同年12月12日午前6時、自死されました。まだ46歳でした。

提訴へ

S先生の妻のNさんは、S先生がうつ病に罹患し、自殺するに至ったのは、長時間労働や学級運営のストレスといった公務が原因であるとして、2002年8月1日、公務災害認定請求書を提出しました。しかしながら、審査請求、再審請求を経ても、公務災害であるとは認められませんでした。

そこで、妻のNさんは、2007年6月28日、地方公務員災害補償基金が行った公務外災害認定の取り消しを求め、京都地方裁判所に対し、訴訟を起こしました。その後、2004年の行政事件訴訟法改正によって新設された義務づけ訴訟を活用することを弁護団で検討し、認定の義務づけを求める訴えを追加しました。

公務災害と認めなかった京都地方裁判所判決

京都地裁では、妻のNさん、長女、元教え子2人、元同僚の教員4人の尋問を行い、S先生の担当学級で学級運営上の問題が発生していたこと、バスケットボール同好会の指導のために休日がとれないほどの長時間労働を余儀なくされていたこと、2学期に入り、学校行事などで立て続けにトラブルが発生したことを主張・立証しました。

2011年2月1日、京都地裁は、原告主張の事実関係をほぼ認める判決を出しました。ところが、京都地方裁判所は、これらの出来事を個々別々に評価し、単独では過重なストレスになっていないとしました。また、長時間労働を認めながら、それはS先生が生き甲斐をもって取り組んでいたバスケットボール同好会の指導のためのものが大半であるから、これもストレスにはなっていないとしました。その上で、当時は軽快していた長男の病気や、具体的な事実としては何ら認定されていない家庭の事情、さらには、几帳面でまじめな本人の性格まで持ち出し、公務がうつ病発症の一要因であったことは否定できないとしながら、結論としては公務災害と認めなかったのです。

大阪高裁で逆転勝訴!

京都地方裁判所の判決は、家族やご本人の性格にうつ病発症の原因を押しつけるという、遺族にとって二重の苦しみを与えるに等しいものでした。妻のNさんは、大阪高等裁判所に控訴しました。

2012年2月23日、大阪高裁は、公務外災害認定処分を取り消し、義務づけも認める逆転勝訴判決を言い渡しました。

大阪高裁が認めた事実関係や長時間労働の実態は、ほぼ原審と同じでした。しかしながら、大阪高裁は、複数の出来事を総合的に評価し、長時間労働の大きな原因となったバスケットボール同好会の業務も過重なストレスであったと判断し、原審とは全く逆の結論を出しました。ベテラン教員であっても、また、一つ一つは大きなストレスをもたらす公務ではなくても、複数の出来事が同時期に連続して発生すれば、それらがあわさって過重なストレスとなり、うつ病発症となることが認められたのです。また、高裁判決は、長男の病気などの家庭の事情、本人の性格については、うつ病発症の要因になっていないことを明言しました。

最後に

逆転勝訴を得ることができましたが、それでも、ご遺族の悲しみは消えるものではありません。過労死を生まない社会をめざして、当事務所もいっそうの取り組みを進めていきたいと思います。

当事務所の担当弁護士 岩橋多恵、大島麻子
公務災害認定裁判勝利報告集会
2012年2月