京都第一

弁護士ファイル

弁護士ファイル

渡辺 馨
弁護士:Watanabe Kaoru

後期高齢者医療制度の廃止を!!

本年9月までに衆議院の解散・総選挙がおこなわれます。この4年間で自民党の4人の総理大臣が誕生しましたが、国民のくらし、生活は一層苦しくなってきており、医療制度の改悪はこれ以上放置できないところまできています。

昨年4月1日から差別的医療である「後期高齢者医療制度」が強行されています。1300万人を超す75才以上の高齢者が強制的に従前の保険から脱退させられてこの制度に加入させられました。従前は被扶養者として保険料が免除されていた人も支払いが義務づけられ、しかも800万人の人々は2ヶ月に一度の割合で年金から天引きされています。

私はこの制度への強制加入が憲法に違反することを理由に加入の取消を求めて「審査請求」をしました。しかしこの申立は「却下」されましたので、現在はこの制度の廃止を求めて「請願署名」に取り組んでいます。全国的な国民の意思が反映して参議院ではこの制度の廃止法案が可決され、衆議院に送付されていますが、衆議院では審議されることなく解散によって廃案になります。

そこで衆議院の総選挙ですが、自民・公明の過半数割れが指摘されています。これが実現できれば衆・参両院で廃止法案を可決することができます。私は現在「中・右京健康友の会」(会員9000名)の会長をしていますが、先日開催の本年度の総会決議でこの制度の廃止のために頑張ることを確認しました。

最後に皆様方のご協力をお願いする次第です。

荒川英幸
弁護士:Arakawa Hideyuki

カルテに隠された真実―医師への反対尋問を闘う

訴訟技術の中でも反対尋問は難しいと言われています。ある事実が存在したと当方が主張し、相手が否認しているとき、「ありましたね」と正面から聞いて「ないです」と答えさせても仕方がないからです。まして、医療過誤訴訟における医師への反対尋問など、専門家に対する尋問ではもっと困難で、安易に質問すると、専門用語を並べ立てられて煙に巻かれかねません。

そこで、専門訴訟を担当する弁護士は、様々な技術を駆使しながら、尋問事項を練り上げます。その1つには、その信頼性を相手方も否定できない文献などの資料を調査・整理して、相手方に確認させることがあります。これによって、医師が行った処置などが、その資料に反していることを浮き彫りにします。また、「カルテや相手方の主張には真実が隠されている」という確信に立って、様々な角度からの追及を行います。苦しげな弁解の中から新たな手がかりが得られたり、時には予想もしない真実が語られたりします。先日も、ある事件で、これまでの主張とは全く異なる事実(それは当方の主張する事実に符合します)を発言し始め、法廷に驚きが走って空気が一変しました。裁判所も、予定時間を延長して、真実に迫ろうとしました。

このように、カルテだけで事件を判断することはできません。真実に一歩でも迫り続けるのが弁護士の役割であることを、今後も心がけたいと思います。

水野彰子
弁護士:Mizuno Akiko

少年と向き合う

汗ばむ陽気になりました。盛夏ももう間近です。そんな中、私の扱っていたひとつの少年事件が終結を迎えました。

少年事件は、当該少年を保護して矯正教育を施す必要があるかどうかという観点が重要視されるため、成人事件に比べて「事実認定」(少年が本当に非行行為を行ったかどうか、という認定)が非常に緩やかになされがちです。

今回の少年は、「自分は非行行為をしていない」と主張していたにもかかわらず、少年が非行行為を行ったことを当然の前提として手続を進めようとする裁判所の態度に、付添人として愕然とすることが多々ありましたし、少年自身も、そうした警察や裁判所の態度に、半ば投げ遣りな気持ちになっていました。私は、「とにかく付添人だけは君の味方である」「君を信じている」という態度で何度も接見を重ね、また裁判所に対しても何通もの意見書や報告書を提出しました。

その少年は結局、少年院に収容されることなく、家族のもとに戻ることができました。その決定を聞いた時の少年の笑顔を嬉しく思うと共に、今後も付添人として、こうした少年たちの力になっていかなければならないという思いを、あらためて強くしました。

森川 明
弁護士:Morikawa Akira

憲法9条と25条を守る府政を実現しよう!

この間、世界の歴史上も希な「派遣村」が日本の各地に生まれました。これまで為政者の側では、我が国には貧困問題はない、などとうそぶいていましたが、この取り組みによって、この問題の深刻さが初めて多くの国民に「可視化」され、また、この国のセーフティーネットの脆弱さという問題点も浮き彫りにされました。結局、雇用保険制度は有効に機能しておらず、生活保護制度しかないという状況にありますが、その最後の制度も各自治体の「水際作戦」によって、生活保護申請資格があっても受給できている世帯の率が極端に低いという実情が明らかとなりました。憲法25条で保障された生存権が、ここまで侵害されているのです。国政に問題があることは勿論ですが、まずは住民の生命と健康、くらしに直接責任を負う自治体が本来の役割を果たすように変わらなければなりません。国や厚労省の出先機関のような府政から、府民のいのちとくらしを守る府政への転換が強く求められています。

府民の側ではこの間、炊き出し相談会などの活動で新たな連帯をつくり、9条の会の運動はさらに前進しています。ものごとを決めるのはあくまでも主権者である住民の多数の意思です。来春の知事選挙は憲法 25条と9条を守る府政を建設するためにとても重要な機会となるでしょう。

村井豊明
弁護士:Murai Toyoaki

京都弁護士会の活動紹介

4月1日から京都弁護士会の会長(2009年度)として様々な会務や活動を行っています。昨年来の経済的不況による格差と貧困の拡大、派遣切りなどの解雇、中小企業の経営難などに対応するため、弁護士会は「雇用と生活110番」「クレジット・サラ金無料相談会」「中小企業相談会」等の様々な相談活動を行っています。

5月21日から裁判員制度が始まりましたが、この制度は戦後初めて国民が裁判員として刑事裁判に参加する制度です。これまでの刑事裁判の問題点を抜本的に改革できる契機をもっており、これを十分生かしていくために弁護士会は万全の体制で取り組んでいます。

賃金請求については、残業代や深夜勤務手当を計算するパソコンのファイル(エクセルのシート)を自作しました。事件を重ねる毎に精度が上がっており、それなりに信頼できるものになっていると思っています。このエクセルシートを使って事件を解決した例も出ています。今後も使いやすく改良して、未払賃金の請求を嵐のように行うのが目標です。行動を起こせば、 賃金未払も減っていくかも、と思いつつ……。

弁護士会は憲法9条を守るための活動もしています。毎年「憲法と人権を考える集い」を開催していますが、今年は「世界平和と子どもたちの未来」をテーマにして、12月6日に益川敏英さん(ノーベル物理学賞受賞)を招いて記念講演会(国立京都国際会館)を開催します。皆さん、多数のご来場をお願いします。

大河原壽貴
弁護士:Ookawara Toshitaka

インターネット上でのトラブルが増えています

ここ数年でインターネットが広く普及してきました。高速回線による常時接続が一般的に用いられるようになり、携帯電話からも簡単にアクセスすることができます。そのような状況の中で、インターネット上での名誉毀損やプライバシー侵害といった相談や依頼を受ける機会も増えてきています。

そのような依頼をお受けした場合、多くは、発信者情報開示請求という手続を取ることになります。インターネット上では、書き込みや記事の発信の多くは匿名でなされますので、発信者を特定することが必要です。掲示板への書き込みの場合などは、まず、掲示板やサーバーの管理者に対して、当該書き込みをした者の IPアドレスや発信時刻等の情報の開示を求め、発信者が経由しているプロバイダーを特定します。その上で、プロバイダーに対して発信者の住所、氏名、メールアドレス等の情報の開示を求め、発信者を特定します。

インターネットをめぐる事件では、一見匿名のように見えることもあり、被害を受けてもあきらめているケースも少なくないと想像します。しかしながら、加害者を特定して、その責任を追及することは決して不可能ではありません。他方で、それほど重大な認識のないまま他者の権利を侵害している事案も散見されます。気づかないうちに加害者になっていたということのないようにしていきたいものです。

岩橋多恵
弁護士:Iwahashi Tae

平和と私の近況

最近、女性の間で「歴史小説」ブームだそうです。女性が居酒屋などで直江兼続や篤姫の話をネタにお酒を飲んだり、お茶したりで盛り上がったりしているとか。このような女性たちを「歴女」(レキジョ)というらしいのです。かくいう私も韓国歴史ドラマに始まり、友人の「レッドクリフ」話題に誘われて「三国志」に少しはまりました。

ところで、最近仕事に追われているうちに、平和がますます危うくなる法案(海賊対処法案など)が成立してしまい、憲法9条破壊が更に一歩進もうとしていることに懸念を抱いています。こんな中、世の「歴女」には、明治以前の歴史だけでなく、是非、日本の近代、現代史にも目を向けて「日本が何故に侵略戦争を引き起こし、多くの犠牲を生み出したのか」ということも知って平和運動に目を向けて欲しいと思う今日このごろです。

なお、私について言えば、小説ばかり読んでいるわけではございません。仕事については、労働事件も他の弁護士がご紹介している事件でも弁護団として頑張っています。また労働審判事件も今年に入り、既に3件申立、2、3ヶ月程度で解決させていますのでご安心下さい。

村山 晃
弁護士:Murayama Akira

奪われた人権の回復に時の壁はない

最近「時の壁」を越えて多くの事件が闘われるようになりました。戦後補償問題は、その大きな一つです。私は、この3月まで日弁連の副会長を務めていましたが、そこで扱った最大の人権課題の一つが、やがて60年近くになるレッドパージについての日弁連の人権救済勧告でした。思想を理由とした大量解雇であるレッドパージは、当時、生まれたばかりの戦後民主主義を根底から破壊しかねない暴挙でした。「奪われた人権の回復に時の壁はない」「思想信条の自由への侵害は最大の人権侵害の一つ」日弁連は、そんなスタンスで、国と企業に「救済措置を取るよう」勧告したのです。こうした勧告を受けとめられるような国や企業であって欲しいと願っています。

今も国内外の多くの戦争被害者が裁判を争っています。残念ながら、その殆どが「時の壁(時効)」で請求を排斥されています。正義の実現が「時の壁」で遮られることがあってはなりません。今年も終戦記念日がやってきます。戦前・戦中そして戦後も、様々な形で侵害が繰り返されてきた人間の尊厳を、過去の問題の解決を問いかけるなかで、二度と侵犯を許さない社会作りにつなげていければと思っています。

日弁連では、そんな思いで人権活動に関与できたことが幸いでした。

大島麻子
弁護士:Ooshima Asako

定額給付金と児童手当の支給

定額給付金の案内が届いています。定額給付金自体、様々な批判がありますが、世帯主にまとめて給付されるという手続きがとられているため、配偶者の暴力により、住民票を移せないまま別居を余儀なくされている被害者らが、定額給付金を受け取れないという問題が起こっています。

実は、児童手当も同様の問題があります。例えば、父親が世帯主の場合、母親が子を連れて別居したとしても、児童手当は父親に支給され続けてしまうのです。それでは困るので、まず、母親本人に児童手当の仮の申し込みをしてもらいます。その上で、行政の担当者に対し、調停の申立書の写しなどを送付して、実際には子を養育していない世帯主への給付をストップするよう交渉します。給付がストップできれば、離婚が成立した後、ご本人がこれまでの分もまとめて児童手当を受け取ることができます。しかし、こういった方法をとっても、給付を受けられるのは離婚後になってしまい、日々生活している子らへの現実の援助にはならないのです。児童手当の取り扱いについては、離婚に取り組む弁護士は常々頭を悩ませており、京都弁護士会の委員会でも対策を検討しているところです。

飯田 昭
弁護士:Iida Akira

東京と丹後―都市計画法改正と弁護士偏在問題の取組

このところ日弁連公害対策・環境保全委員会の関係などで月に2回は東京に行きます。また、丹後法律相談センターなどの弁護士偏在問題に取り組んでいる関係や事件の関係で丹後(京都北部)にもそれくらいの割合で出かけています。

電車に乗っている時間はほぼ同じで、私にとっては貴重な書面作成の時間なのですが、夜9時を過ぎてから行き帰りできる東京と、午後6時台を過ぎると事実上帰れない丹後との間では、距離とは逆転したアクセスの格差が存在しています。

さて、東京行きの主たる理由は、都市計画法の抜本的改正の第1弾が2010年通常国会で予定されている中での日弁連としての取組です。京都での新景観政策の実現はこの20年以上の住民運動の大きな成果ですが、全国的な開発・マンション紛争による景観・住環境の破壊は、都市計画法の抜本的改正によって、初めてストップさせることができます。

ここでのキーワードは「持続可能な都市」の実現です。無秩序な開発・建築から「建築調和の原則」への転換を実現することができるかで、これからせめぎあいが始まります。

奥村一彦
弁護士:Okumura Kazuhiko

医療事件の取り組み

いくつかの医療事件を解決することができました。悪性高熱症で手術中に亡くなられた男子高校生、分娩後の処置の不十分さにより障害が残ったお母さん、採血の注射針による予想もしない痛みが残ったおばあさん、このような突然の被害に遭われた方の無念や悔しさはいかばかりかと思います。

ところで、医療機関が事故後、真実を隠し、虚偽の説明で、自らの過失を免れようとする姿勢が輪をかけて苦しみを倍加させています。確かに、事故原因を解明するとなると相当の時間が必要です。しかし、あり得る原因はすべて説明すべきです。ところが、病院に最も有利な、責任を回避しうる原因のみを取り出して説明をすることがあります。例えば、悪性高熱症で亡くなられた高校生の方のケースでは、悪性高熱症の可能性を否定し、交通事故による肺梗塞が原因であると説明しました。しかし、母親は納得せず何度も病院に説明を求めました。X線写真に肺梗塞の所見がなかったからです。一方、悪性高熱症は発症しても処置により必ず回復することは医学上の常識です。病院は、判断ミスを隠したかったのです。裁判の結果、病院は、原因が悪性高熱症であることと判断の不適切さを認めました。病院の説明の虚偽がなければ苦しみはもっと少なかったと強く思いました。

秋山健司
弁護士:Akiyama Kenji

立証が困難なれど、ひたむきに―ある交通事故裁判奮戦記

交通事故に遭い、他人の目からはわからない痛みがいつまでも続く、それなのに賠償してもらえない。こういうお話は実に沢山あります。今回報告する事件もこのようなケースでした。

依頼者は、赤信号で停車中、自動車に追突され、首を痛めました。事故後数ヶ月を経ても痛みが止まらないのに、加害者側から「そんなに痛いはずがない。もう治療費は負担しない」と通告されました。そこで依頼者は自賠責保険に治療費等の請求を行ったのですが、事故の態様は軽微で治療費との因果関係がないという結論を出されてしまいました。そこで訴訟を提起しましたが、因果関係や損害を証明する責任は被害者に負わされている上に、自賠責で因果関係を否定されていたため、大変苦労しました。治療の必要性、後遺障害の存在については当方でカルテを取り寄せ、翻訳を行って裁判所に提出しました。当事者本人尋問の時には、カルテに現れる当方に有利な事情、事故の状況についての加害者の説明が信用できないことを示す証拠写真等をフル活用し、当方の主張に合理性があることを可能な限りアピールしました。その結果、裁判所から和解勧告があり、100万円を超える和解金を受領できる結果となりました。

どんな事件でもあきらめずに取り組むことが大事であることを再確認しました。

「京都第一」2009年夏号