まきえや

借家人に大変不利、定期借家制度にご注意を!!

借家人に大変不利、定期借家制度にご注意を!!

1.借家人の皆さん、新規に借家を借りようとしている皆さん、注意して下さい

2000年3月1日から、定期借家契約が認められるようになりました。借家契約については、今後、巻末掲載の「緊急ニュース」を頭にたたき込んで、賃貸借契約の締結にあたって下さい。この「緊急ニュース」が何故大切かを、以下、ご説明します。

2.借家人の猛反対がありながらも「定期借家制度」が導入されました

これまでにも、定期借家制度(明け渡しに正当事由がいらず、簡単に明け渡しが認められる制度)の導入を意図する経済界の根強い動きがありました。バブルの時期に「正当事由」がネックになって簡単に地上げができないことがその背景にあったからです。しかしながら、1992年8月1日から施行された「改正」借地借家法でも国民の反対で財界のねらいは実現されなかったのです。

しかし、財界は着実に、そのねらいを巧妙な形で自・自・公政権の下で導入したのです。

「良質な賃貸住宅等の供給促進に関する特別措置法」という一見、国や地方公共団体の賃貸住宅供給立法の体裁をとって、定期借家権の導入に伴う住宅弱者のためのセーフティ・ネットの整備をするとして、提案されたわけです。しかも消極意見の多い法務委員会は回避され、なんと建設委員会で論議されるという形で国民への目くらましがなされました。

3.定期借家制度の特徴定期借家制度にご注意を!!借家人に大変不利

(1) 改正前では、「建物賃貸借につき、期間を定めて、さらに更新がない旨」の特約をしても借り主に不利な約束ごとということでその特約は、無効でした。 ただし、極めて限定的に厳格な条件の下「期限付きの借家契約」も例外的に認められていましたが。

(2) 改正法は、より緩やかで極めてあいまいな要件の下で「契約の更新がなく、約束の期限が来れば家を必ず明け渡さねばならないという定期借家契約」を締結できるようにしたのです。したがって、借家人の地位が極めてあやうい事態になることが心配されています。

4.家主が定期借家制度を導入しようとする時の要件

定期借家制度を家主が導入する際は、「(1)公正証書等の書面によること(2)期間を定めること(3)更新がないことを明記すること(4)貸主は事前の説明義務、説明文書の交付義務を尽くすこと」が条件になっています。

  • (1) 公正証書等の書面によることとされていますが、契約書は「書面」でさえあればよいとされています。したがって、借家人の皆さんは、「公正証書でないから定期借家ではないのだ」と思ってはいけません。普通の契約書でも慎重に内容を読みましょう。
  • (2) 「期間の定めがあること」については、これまでの借家法では1年未満の契約は、許されず、事実上、1年以上の契約として借りられるようになっていましたが、定期借家では、6月の契約であれば、必ず、6月で明け渡さなければならなくなりますので注意しましょう。
  • (3) 貸主には「書面による事前説明義務・交付義務」があります。

貸主が書面による説明をし、当該説明の書面の交付を事前にしていなければ、「契約更新しない旨の特約」は、特約部分が無効になって、従来の普通借家契約とされ、定期借家契約ではなくなります。したがって、既に、定期借家契約らしきものを2000年3月1日以降に結んでしまった人で、説明文書と思われる文書を契約した日より後に貸主から渡されそうになったら受け取りを拒否して下さい。「事前」ではないから、受け取る必要はありません。そうすれば、うっかり結んでしまった「定期借家契約」が定期借家契約ではないものとして対応できます。

5.借家人を追い出す悪法の特徴

定期借家契約は、借り主は慎重に締結する必要があります。なぜならば、

  • (1) 期間満了で必ず終了。
    26条(更新拒絶)、二八条(正当事由)の適用排除。すなわち、正当事由、法定更新の適用がありません。
  • (2) 賃料改定特約がある場合に賃料増減額請求制度が適用されないので、必ず、特約どおりに賃料の値上げに応じなければならなくなります。
  • (3) 貸主は、期間が1年以上の場合、「1年前から6月前までの間の終了の通知」をするだけで明け渡し理由が正当であろうがなかろうが、期間満了時に明け渡し請求をすることができるのです。したがって、借家人は、必ず期間満了時に明け渡さねばなりません。貸主がこの通知を怠ったとしても、怠ったときから6月経過すれば、必ず借家人は明け渡さねばなりません。
  • (4) 定期借家契約には、借り主には原則として中途解約する権利はありません。
    極めて例外的に200平方メートル以下の居住用借家で転勤・療養・介護その他のやむを得ない事情ある場合にのみ法律で認めていますが、これは、右線部分の厳格な場合のみです。したがって、事業用の借家には、一切、中途解約権はないことになります。
    商売されている方は、後に述べるように悲惨なことになります。

6.定期借家契約は、借家人を、悲惨な結果に追い込みます

たとえば、
a 契約書で店舗の賃貸借契約をし、b 期間(さしあたり、5年を決めて)、c 「更新しない」と記載し、d 当初家賃10万円が毎年1万円ずつ上がると決め、e 借主の解約権が契約書中に記載されていない、というような契約を締結した場合、次のような結果となります。

  •  (1)5年経ったら、「商売が軌道にのってきたと思っても」、必ず、明け渡さねばなりません(貸主の通知は必要だが。しかし、これをしなかったからといって、法定更新するわけではないのです)。
  •  (2)契約2年目で借家人が「商売がうまくいかない」とか、「賃料が高いから」明け渡そうと思っても、明け渡すことができず、結局は、残り3年分の家賃も払わざるを得なくなります(店舗などの居住用でない定期賃貸借には、中途解約権が合意解約権を留保していなければ中途解約できないから)。
  •  (3)周辺家賃が下がっても減額請求はできなくなります。

7.定期借家契約は、既存契約(2000年2月29日以前の賃貸借契約)の更新には導入できません。

5 に述べたように借家人にとって大変不利益な契約ですから、さすがに政府与党(自・自・公)も、既存の契約にまで適用させることは断念しました。

従って、既存の賃貸借契約を締結していた人が本年3月1日以降、更新するときに、貸主に定期借家契約の内容で更新させられそうになったら、「定期借家契約にはできないはずだ」と抗議しましょう。

また、居住用建物には、「合意終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借」には、当分の間、定期借家契約には、切り替えられません。営業など非居住目的でも「居住」も兼ねていれば、「居住用建物」となりますので定期借家契約には、切り替えられません。この点では、非居住用(営業用、事務所など)の既存契約の借主は、更新時や、様々な口実をもうけての貸主の「合意終了、再契約」の動きには最大の注意を払う必要があります。貸し主が契約書の書き換えを言ってきた場合は、安易に署名せず、まずは、弁護士に相談して下さい。

緊急ニュース

借家人の皆さん。新規に借家(アパート、マンション含めて)を借りようとしている皆さん。1999年の12月9日、定期借家契約、が認められる法律が2000年の3月1日から施行されます。

新規の賃貸契約につき

この法律によれば、書面に「契約の更新はしない」旨の記載をし、契約時に説明しておけば、契約期間がくれば無条件で借家人が追い出されることになります。

従って、「約束の期間以上に長く、借りる必要のある人は、」この1項は、必ず削除してもらって下さい。

☆今までは、「更新しない旨」の記載は、借家人に不利なので、無効とされ「正当な事由(理由)」がなければ、契約が更新されることになっていました。

既存の契約を更新する人の場合も注意が必要です。

居住用については、既存の契約を合意で終了させて定期借家契約に切り替えることは、当分の間できない。とされていますが、営業用賃貸借の場合については、既存の契約を合意解約して新たな定期借家契約に切り替えることは自由にできるということになっています。

契約の更新をする際、新しい契約書に「契約の更新をしない」旨の記載がされている場合はこれにすぐ応じず、信頼できる弁護士に相談するなりして、うっかりこれに応ずることのないよう厳重な注意が必要です。

(自由法曹団京都支部作成)
「まきえや」2000年春号