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危機にさらされる憲法

危機にさらされる憲法

奥村 一彦弁護士 奥村 一彦

有事法制関連3法案を上程

先の通常国会の後半、小泉内閣は有事法制関連3法案を唐突に上程しました。国会での審議の経過はご存じの通りだと思いますが、概略列挙しますと、(1)法案中で最も重要な、他国による我が国への「武力攻撃事態」の「おそれ」と「予測」の定義が政府答弁の混乱もあり、不明確さを露呈し、法案を維持できなくなったこと、(2)首相の権力が短期間に集中される一方で、地方自治体やその長の権限との関係がはっきりしないこと、(3)一旦対処措置が発動されると国民の自由や人権を相当程度制限するが、適用範囲、程度、限界については法案は2年以内の整備としか触れておらず、ことに対処措置を遂行する政府方針の批判の自由は保障されるのかどうかは、政府答弁では制限するとの発言もあり、極めて危険な国家体制が予測されること、(4)国会のコントロールが現実には及ばないこと、など法案そのものの不備が国民の不安を呼び起こし、広範な反対運動により成立せず継続審議となりました。

反対の共同行動の広がり

野党は4党合意を形成し、この法案には反対という一致点で共同行動をとりました。この意義は大変重要で、これまで共闘ができなかった野党間において戦争法に反対という一致点で平和運動が実現しました。地方での集会においてもこれまでにない政党間の協力がみられました。さらに、国民運動レベルではもっと共同行動が広がり、政府を批判する立場をとる団体は有事法制反対の一致点で共同行動が各地で実現しました。

さて、有事法制に反対するに際して一応の見解を持っていなければならない問題として、有事法制は一定の場合に必要なのではないか、あるいは有事法制は危機管理法制のひとつとして国家は整備しておくべきではないかという意見についての見解です。

確かに有事法制をもつ国が多いことは事実です。しかし、武力を伴う国際紛争が予測される場合であっても、こちらも武力を行使するかどうかは、結局解決の手段の国民的選択にまかされるべきということです。

武力攻撃を受ける可能性に対し、必ず武力で対処することだけが国際紛争を解決する最良の対処ではないことは、この間の国際紛争の現実から明確に言えることです。そもそも外交紛争の原因を暴力で解決できると考える方が誤っています。どこまでいっても人間による紛争ですから、人間の言葉による交渉しか解決の途はありえません。逆に、人間はそのようにして解決する能力をもっているはずです。

実際に、有事法制を有する国についてその発動や効果の実態をみると、例えばフランスではアルジェリア独立紛争に際して発動されましたが、民族独立運動・植民地反対運動を弾圧することには道理がなく、アルジェリアは独立し、結局、武力行使は誤りであることが示されました。ナトー諸国軍による旧ユーゴへの空爆は、当面の民族的虐殺をともかくも停止させようという選択であったのですが、結果としては前大統領を捕縛できず、その目的は後の国民の選挙により戦犯法廷への引き渡しで決着をみました。

一方、民族的対立は小局面では続いています。北アイルランド問題、イン・パ問題、パレスチナ問題を見ると、宗教や民族の絡む紛争は武力によればよるほど憎しみは倍増しています。それは宗教や民族の固有の歴史が存在するからでしょう。それは互いに理解し合う態度以外には解決ははかられないでしょう。

また、民主党のいう、国際紛争を自然災害と同列に置き、有事法制を危機管理法制の一部であるなどと位置づけることは有事法制の本質から目をそらせるものです。武力を行使することが当然の前提となっているこの考え方では、武力の保有自体の危険性や国際紛争解決の交渉的努力についての議論を軽視することにつながり、その結果、武力に依らない解決を選択する余地を著しく狭め、また、他国を理解するための普段の努力に努めないことにつながる危険な考え方です。

私たち日本人は、朝鮮・中国・東南アジアへの我が国軍隊の侵略を、ロシアによる南下が我が国にとって危険だとか、我が国の権益を守るだとか、相手が発砲したからだといって正当化し、それらが積み重なって大規模な戦争を招いた経験を知っています。それはその時点時点での政策の誤りの積み重ねでした。このような歴史を一目見れば武力行使による国際紛争解決という考え方が、最後には自らを滅ぼしたことが理解できるでしょう。

憲法の平和主義を選択した私たちは、武力によらない国際紛争の解決を提唱する義務を負っています。有事法制を成立させることによってこの優れた考え方を国際社会から消滅させることは人類にとっての不幸です。

どうか有事法制秋の陣の闘いに多くの人が参加されるよう希望します。

「まきえや」2002年秋号