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この手でふれた韓国の過去・現在・未来

この手でふれた韓国の過去・現在・未来

村山 晃弁護士 村山 晃

私たち自由法曹団京都支部の団員一行は、9月7日から10日まで、激変する韓国を訪れた。近くて遠い国「韓国」。4日間という短い訪問であったが、その過去・現在、そして未来の片鱗に触れることができた。長く続いた「日帝」(「日本帝国主義」の略語で、韓国では、戦前の日本を、普通そう呼んでいる)の植民地時代。その激しい弾圧の爪あとは、西大門刑務所あとを記念館として保存し、展示されている。「日本は、日帝時代何をしたのか」を伝える韓国の人たちの「教育の場」に、訪れる日本人は少ない。二つの国の人々の意識の乖離は容易に埋まらない。

終戦後の、独立と分裂、南北を分ける「38度線」は「休戦ライン」と呼ばれるように、今なお、戦争は、終わっていない。すぐには行くことができないイムジン河の対岸を見つめ「誰が祖国を二つにわけてしまったの?」という歌詞に思いを馳せる。ある日突然離反させられ、数十年間再会できなかった多くの肉親たち。中国残留孤児や拉致事件被害者らの姿と重なり合う。責任は重い。

南北会談が行われる「板門店」の休戦ライン上にて
南北会談が行われる「板門店」の休戦ライン上にて

戦後、長く続いた軍事独裁政権から抜け出し、日本以上に、民主主義の匂いをかもしだすことにまい進する様子が、伝わってくる韓国。国際人権規約の選択議定書(個人が国連に直接人権侵害を訴えることができる制度を決めた条約。日本は批准していない)を批准し、憲法裁判所を設置し(この裁判所の正面入り口には、個人の尊重と幸福追求権の憲法の条文が刻まれている)、日本より前に進もうとする気概を伝える。しかし、近時「グローバルスタンダード」は、ここでも、多くの労働者の弾圧と、非正規雇用労働者の激増という構図のなかで、新しい社会矛盾を生んでいる。

関空の本屋で、「韓国モデル」という本が目に付き、飛行機で読んだ。

「はじめに」には「ダイナミックに変化する韓国モデルは、旧いしがらみからなかなか脱却できない日本に解決の手がかりを与えてくれる」とある。そして、「終身雇用幻想が消えた、と多くの人は指摘している。(通貨)危機前は正社員を解雇することは非常に稀であったが、整理解雇制の導入などによって、それも容易になった」と続く。経済の復興が、労働者の権利を犠牲にすることでしか成り立たないとすれば、そんな悲しいことはない。また、この韓国では、非正規雇用労働者は、6割を占めているとも聞かされた。

しかし、組織率は極めて低いものの、労働組合が奮闘し、それを支える弁護士や学者が熱心に権利闘争を進めている。その闘いが容易でないことはすぐに分かるが、地道な実践から、韓国と、そして私たちの未来が垣間見える。決して手をこまねいてきたわけではないが、私たちも、もう少しすべきことがあるように思われる。闘いは始まったばかりなのだ。

「日本の裁判所で、労働者の権利を否認する悪い判例が出れば、そのまま韓国に輸入される」と、非正規センターの活動家は語る。ここでも日本の責任は重い。交流の課題は大きい。

「グローバルスタンダード」は、多くのビジネスローヤーを求め、その結果、ここ韓国でも、弁護士の激増をもたらしている。しかしまた、それは、少人数故に、特権階層を形作っていた韓国の弁護士のあり方を大きく変え、弁護士を市民に近づける作用を間違いなく果たしている。市民運動グループが、法律家大増員の運動を推進してきたのは、そんな理由からだ。しかし、大増員がどんな結果を生むのか、弁護士のなかに危惧する声があるのも、日本と良く似ている。ビジネスローヤーも増えるが、市民派弁護士も増える。しばらくは目が離せない。

過去は変えることができない。肝心なことは、それを、未来を変える力にしていくことだ。こんなに近いところで生活している私たちが、ずいぶんと「疎遠」でいたことは不幸なことだ。だとすると、もっと加速度的に、交流を強めなければならない。有事法制の制定や、教科書問題など、日韓を再び引き裂きかねない、いろんな問題がある。それだけに力をあわせるべき課題も多い。

韓国の人たちの斬新な闘いを「モデル」にし、自由と人権のための闘いを、どんな風に構築していけば良いのかを改めて考えてみたい。

韓国憲法裁判所の表玄関前にて
韓国憲法裁判所の表玄関前にて
「まきえや」2003年秋号