まきえや

生協敷地内でビラまき・署名活動したらあかんの?!

[事件報告(2)]

生協敷地内でビラまき・署名活動したらあかんの?!

~京都生協パート労組不当労働行為救済事件の報告~

京都生協とパート労組との関係

京都生活協同組合(以下「京都生協」といいます)は、出資者である組合員に対し、多数の店舗や共同購入を通じて生鮮食品等の供給事業等を行っており、組合員数は約47万人、出資金額約124億円という巨大な組織です。これに対し、京都生協パート労働組合(以下「パート労組」といいます)は、1981年4月に結成された労働組合で、組合員数は約1560名です。パート労組は、正規労組(正職員の労働組合)とともに、従前から京都生協(理事会)とは、消費税反対、医療改悪法案反対、有事法制反対などの各種の取組を共同するなど、良好な関係を維持してきました。

合理化による雇用問題の発生

ところが、理事会が、2002年8月、経営の効率化を目的に「共同購入施設・設備の再配置計画」として舞鶴・中丹支部の移転・統廃合と南部物流センターの移転・委託化計画を進める方針を打ち出し、その結果、舞鶴中丹の70名、南部物流の163名のパート労働者の雇用問題が発生したのです。

この雇用問題について、理事会は、舞鶴・中丹支部については近隣職場での受け入れ等雇用の確保を約束したものの、働き続けられない場合は自己都合退職になると主張してきました。これに対し、パート労組は、現実には通勤時間が長時間になり、退職せざるを得ない事情が発生することは明らかであるから、この場合は「業務都合による解雇・退職」にあたり、労働協約に基づく、組合側の事前同意が必要と主張しました。両者の間で何度か交渉がもたれましたが、見解は対立したまま膠着状態に陥ったため、パート労組は、2002年11月14日、生協店舗の敷地内において、どちらの見解が正しいのか、生協組合員に訴えて、署名活動等を行うことにし、理事会に通告しました。

敷地内の署名活動は許可しない

もともと、労働協約には、「組合が組合活動のため必要とする生協の施設、什器の利用に対しては、組合と協議の上、理事会はできる限りの便宜を与えるものとする。この他一時的な集会連絡については、その都度承認を得てこれを使用する」と規定されていたことから、施設利用に当たっては、組合が直接当該施設の管理者である店長等に申し入れを行って許可を得るという運用がなされてきました。これまで、パート労組は、生協組合員に対して、消費税反対や有事法制反対などの政治的問題についてのビラ配布や署名活動等を行うため、店舗敷地の使用の申し入れを行ってきたが、店長等から使用を拒否されたことは一度もありませんでした。

パート労組は、これまでの慣行に従い、同月20日、各店舗の店長に対し、上記署名活動等を同月23日に行いたい旨の申し入れを行ったところ、同月22日、理事会は、これまでの慣行を無視し、パート労組が「何の連絡も手続もなくダイレクトに各店長宛に」施設使用を求めたことを問題にした上で、敷地使用を拒否してきました。その理由は、労使間での協議の到達点が得られていない問題につき、パート労組が生協組合員に情報提供し、署名活動を行うことは、生協組合員に混乱を持ち込み、ひいては生協の円滑な運営を妨げる恐れがあるということでした。

しかしながら、労使間で見解が対立した問題につき、労組が出資者である生協組合員に対し、自己の要求を表明し、署名を求める行為は正当な労働組合活動であり、そもそも、使用者の見解と対立する問題があるからこそ、労組はビラ配布や署名活動等を行うのであり、理事会の見解は、パート労組の施設利用を全く認めないというに等しいことから、舞鶴・口丹支部の移転・統廃合および南部物流センターの移転等に伴う店頭署名活動のための敷地使用の拒否は、生協組合員に混乱を持ち込むことを口実にして、パート労組の正当な労働組合活動を妨害する不当労働行為であるとして、2003年4月21日京都地労委に救済申立を行いました(平成15年(不)第2号事件)。

生協パート労組地労委提出

パート労組の思い

パート労組は、これまで、(1)パート三重苦署名行動(1988年)、(2)京都市長選挙に関する宣伝活動(1990年)、(3)人間回復署名活動(1992年)、(4)消費税増税反対宣伝署名行動(1997年)、(5)医療改悪法案反対宣伝署名行動(2002年)などを始め、毎年春闘では、正規労組と共同で春闘チラシを使った宣伝活動を、生協の店舗敷地内において展開してきていました。そして、生協敷地内での宣伝署名活動等の実際に際して、他団体と共同で行う場合のほかは、理事会に対して申入をしてきたこともなかったし、理事会からも申入をするように求められたこともありませんでした。だからこそ、今回の合理化・雇用問題につき、理事会側の対応が道理にかなっていないことを生協組合員に知られるのがいやだから不許可にしたのだろう、これは正当な組合活動を妨害するものとしか考えられないという思いでした。

また、パート労組にとっては、今回の労使間の問題については、生協敷地内において、宣伝署名活動を行うことが特に必要であった理由がありました。生協は、生協組合員一人一人が運営に参画する組織であり、最高意思決定機関は、生協組合員の代表者である総代で構成される総代会です。従って、総代を始めとする生協組合員は、労使間の紛争も含めて幅広い情報を知る権利があります。しかし、総代の住所や電話番号等は公表されないので、パート労組は、総代に対し、郵送などの方法で情報を伝達することはできないことから、生協組合員に情報を提供しようとすれば、店舗敷地内での宣伝活動・署名活動を行わざるを得ないのです。つまり、宣伝署名活動等は、パート労組が生協組合員に情報提供しうる唯一ともいえる重要な手段であって、組合の運営上極めて重要かつ必要不可欠なものなのです。そして、もし、敷地外の道路等で署名活動等を行う場合には、通行人は来店しようとしている生協組合員であるのか、一般の通行人であるのかの区別がつきません。そのため、生協内部の労使問題について、部外者にまで知らせることになってしまうが、パート労組はそこまで望んでいません。さらに、生協組合員の多くは、自転車か自動車で来店していますが、自転車または自動車に乗ったまま、敷地内にある駐輪場または駐車場まで入り、そのまま敷地内を歩いて店舗建物内に入ることになります。自転車や自動車で来店する生協組合員に敷地外で対面することはほぼ不可能となることから、敷地内で宣伝署名活動等を行う必要があるのです。

理事会側の反論

地労委の調査手続において、理事会側が行った反論の骨子は、(1)労使間において協議・交渉の継続中に署名活動等を行うことは、交渉の相手方である経営担当者に対する背信行為と受け取られ、以後交渉が円滑に進まないおそれがある、(2)理事会は、移転・統廃合等に伴い通勤時間が長時間となる者や退職せざるを得ない者に対する措置の提案も行い誠実に交渉してきた、(3)署名活動等の内容が交渉経過を正しく伝えず、相手方の主張を歪曲したような場合には正当な組合活動とは言えず、署名活動のために敷地利用を認めなかったことは正当であり、権利濫用にも当たらない、ということでした。

しかし、(1)については、これまで交渉を繰り返してきたのですが、理事会側の交渉態度が従前のどおりのことに固執したことから、労使間の交渉としては暗礁に乗り上げ、膠着状態に陥ったと判断せざるを得ませんでした。(2)についても、雇用を継続することを基本とすると言いながら、実際の提案は職種の変更を伴うものであり、事実上解雇に等しいもので、やむを得ず退職する者に対しても、「自主退職」として処遇するものでしかありませんでした。(3)については、パート労組が交渉経過を歪曲して伝えたというのは事実ではありません。

生協パート労組団交1生協パート労組団交2
生協パート労組団交

解決に向けて

地労委では、労使双方の主張の応酬がなされ、一部審問も実施されました。しかし、地労委からの提言もあり、もともと良好な労使関係を維持してきていただけに、もう一度、問題点を整理して、お互いに譲歩すべきところは譲歩して、解決策を探ってみることになりました。労使双方の弁護士代理人が積極的に関与し、地労委以外の場所でも協議を重ねました。その結果、2004年7月27日和解により解決することになりました。

敷地内署名・宣伝活動ルール

(1) 労使間で協議継続中でない事項について、パート労組が生協敷地内で署名宣伝活動を行う場合には、1週間前までに署名用紙や宣伝物を添えて理事会に申請する。

(2) この場合には、理事会は物理的に支障のある場合など特段の理由がないかぎり、これを承認する。

(3) 労使間の協議による解決の努力を行っても進展が見られない場合には、パート労組は労使双方の推薦する委員で構成する検討委員会の開催を求め、同委員会が労使間の交渉が膠着状態に陥っていると判断した場合(可否同数で判断不能の場合も含む)には、1週間前までに署名用紙・宣伝物を添付して理事会に通知した上で、署名・宣伝活動をすることができる。

結局のところ、労使間の協議がまだ尽くされていないときには、誠意を以て交渉を継続することになります。労使間の協議が尽くされ、これ以上進展が見られず膠着状態に陥っていることが客観的にはっきりとした場合(これは検討委員会によって判断されますが、同委員会のメンバーとしては弁護士が想定されています)には、パート労組の判断で署名・宣伝活動が実施できることになりました。今回の和解は、ここに大きな意味があります。

併せて、今回の問題の発端となった事業所の閉鎖・移転・統廃合に伴う雇用問題についても一定の前進がありました。つまり、かかる場合に、パート労働者が退職せざるを得ない状況や解雇が避けられないと予測される場合には、理事会は、その客観的根拠、経過、内容をパート労組に十分説明し、合意を得るように協議を尽くし、場合によっては事業計画の修正や見直しも含めて検討することになりました。その協議を尽くし最大限の努力をしてもなお勤務を継続できないパート労働者が出た場合には、これを「生協都合退職」として取り扱い、退職金の割増ならびに一時金の支給等の特別措置を新たに定めることになりました。

今回の事件については、理事会側の対応が従前に比べて頑ななところがあったように見受けられましたが、地労委が関与し、双方の弁護士代理人が「交通整理」をしたことにより、労使双方が冷静に事態を見ることができるようになったからこそ、解決に至ったものと思います。しかし、パート労組としては、敷地内における宣伝活動等の重要性を強調し、従前の慣行に従って、最終的にはパート労組の判断で実施できることを勝ち取ったことに大きな意義があると思います。

今回の事件は、私にとっては久しぶりの地労委事件(不当労働行為救済申立)となりました。私は弁護士になった当時(1986年)には、京都地労委係属事件は34件(新規申立18、前年繰越16)もありましたが、一昨年(2002年)には6件(新規3、繰越3)、昨年(2003年)11件(新規8、繰越3)と大幅に減少しています。労働組合の組織率が年々低下し(2003年19.6%)、集団的労働事件が減少し、その反面、個別的労働事件が増加していることに、その傾向が如実に表れています。しかし、労働者は団結して闘ってこそ、労働条件の向上は勝ち取れることを、闘いの積み重ねを通じて広めていく必要があると思います。今回の事件は、そんな思いを改めて浮き彫りにしてくれました。

「まきえや」2004年秋号