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戦争を拒否する

戦争を拒否する

奥村 一彦弁護士 奥村 一彦

「モハメド・アリ」-戦争を拒否した世界王者-

モハメド・アリの半生を記録した「モハメド・アリ」というインタビュー構成の伝記を読みました。私は、1974年、高校生の時、TVでフォアマンと戦うアリを見ました。アリについてはボクシング世界ヘビー級チャンピョンに再び輝いたことぐらいしか知りませんでした。

ところが、この本を読んで、アリがカシアス・クレイからモハメド・アリというイスラム教の名前になった理由やヴェトナム戦争のための徴兵を拒否して、王者のタイトルを奪われ、ボクシングをする資格すらなくなっていたことを知りました。裁判所で重罪5年の刑と10万ドルの罰金刑を宣告され、その後連邦最高裁が良心的兵役拒否を認めアリを無罪とし、再びボクシングをする資格が回復されたあと行われたのが先のフォアマンとの一戦であったことを知り、大きな衝撃を受けました。

徴兵拒否をしたときアリがマスコミに公表した宣言文の一部は次のようになっています(1967年4月28日)。

「私は1964年2月25日、マイアミで世界チャンピョンになりました。それは私の誇りです。その保持者は信念を持つ勇気を持ち、その信念を実行してきました。それはリングの中だけではなく生活のすべての面において貫かれています。軍隊に徴兵される要求を拒否する立場を取ったのは個人的な信念からです。私はそれがもたらす結果や意味を十分承知して行動しました。私はマスコミが、私には2つの選択しかないとアメリカ市民と世界に公表していることに強く異議を申し立てます。刑務所に行くか軍隊に行くかの2つだけであると。もうひとつの選択の道があります。それは正義の選択です。正義が行き渡り、憲法上の権利が擁護されるなら、私には軍隊も刑務所も強制されないでしょう。私は正義が私に実現することに自信があります。なぜなら真理は永遠に普及されなければならないから」

アリは、ブラック・ムスリムという、黒人の差別撤廃運動団体に深く関与しており、徴兵拒否もイスラム教の教えだとして信念を貫いたのです。アリが、徴兵拒否をしたとき、世界王者として黄金の時期を迎えていました。心配して忠告する者が言います。徴兵に行けば半年の訓練で除隊になる、今から5年がボクサーとして最高の時期だ、それを逃すな。しかしアリは受け付けません。貧しいヴェトナム人を殺すことはできないと。

私は、自国の外でする戦争が「自衛」という名で行われることほどうさんくさいものはないと思いますが、政府がそういう戦争の理由をどう説明しても、それに動かされず、人殺しをしない信念を貫く、そういった信念が平和をもたらす思想だと確信しました。アリの行動は当時のアメリカ人に勇気を与えたことは間違いないでしょう。

憲法「改正」案のラッシュ

ところで、わが日本では自民党と民主党が、それぞれ予定を早めて、この10月中に、あいついで憲法「改正」草案を発表しようという急な動きになって来ました。その両党の狙いが憲法9条、特にその2項を改廃し、「自衛軍」を明記して、武力の行使を海外で行おうとしていることは誰の目にも明らかです。

自民党の9条改悪案は次のようになっています。

【安全保障と平和主義】

第九条 日本国民は、諸国民の公正と信義に対する信頼に基づき恒久の国際平和を実現するという平和主義の理念を崇高なものと認め、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する平和国家としての実績に係る国際的な信頼にこたえるため、この理念を将来にわたり堅持する。

2 前項の理念を踏まえ、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わないこととする。

3 日本国民は、第一項の理念に基づき、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に強調して行われる活動に主体的かつ積極的に寄与するよう努めるものとする。

【自衛軍】

第九条の二 侵略から我が国を防衛し、国家の平和及び独立並びに国民の安全を確保するため、自衛軍を保持する。

2 自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に強調して行われる活動並びに我が国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる。

3 自衛軍による活動は、我が国の法令並びに国際法規及び国際慣例を遵守して行わなければならない。

4 自衛軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める。

【自衛軍の統制】

第九条の三 自衛軍は、内閣総理大臣の指揮監督に服する。

2 前条第二項に定める自衛軍の活動については、事前に、時宜によっては、事後に、法律の定めるところにより、国会の承認を受けなければならない。

3 前二項に定めるもののほか、自衛軍の統制に関し必要な事項は、法律で定める。

完全な改悪としか言いようがありません。この改悪案の中には、いくつかの仕掛けがあります。まず第1項では「平和国家としての実績に係る国際的な信頼にこたえるため」という表現があります。これは今の憲法9条第1項に言う恒久の平和を誠実に希求するという平和主義の理念を言っているのではなく、「平和国家としての実績」として第3項の「国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に強調して行われる活動に主体的かつ積極的に寄与するよう努める」という国際貢献論を導く伏線なのです。平和主義の理念で国際貢献=アメリカとイラク戦争をする国になれというわけです。

「自衛軍」を明記するとどうなるか。自衛はすべての戦争の理由です。旧満州の占領から華北、華中へと軍隊を進めて戦争をした我が国の理由は、満州は我が国の生命線であると言ったのです。つまり日本の自衛のためであると。アメリカのイラク攻撃も自衛戦争であると言っていることはご存じでしょう。

最大のごまかしは集団的自衛権、つまりアメリカが攻撃されたらそれを日本への攻撃と見なし一緒に反撃する権利、これは自衛権の中に含まれるから、わざわざ明記はしないというごまかしです。集団的自衛権が「他衛」行動であることは論を俟ちません。なぜこれが自衛なの、という素朴な疑問を持ち続けることは大事です。これを説明してしまうと「自衛」という言葉がもつ普通のイメージから大きくはずれていることがバレてしまうのです。あたかも「自衛」の中に集団的に他衛行動をすることを含む了解があるかのように振る舞っているだけなのです。

憲法改悪反対の意思を表明しよう

私たちは、戦争する国家となることを望んでいません。いったいどこの国が攻めてこようとしていると言うのでしょうか。備えあれば憂いなしという、準備的なものに過ぎないのであれば、今急いで改悪する必要はないはずです。そもそも備えあれば憂いなしということわざは、人がする日常の身の回りの注意に過ぎません。これを国家の防衛にまで押し広げ、別に危険がなくとも、あればあったで安心ではないかなどと説得するのはすでにごまかしが含まれています。そんな程度で予算が大規模に使われては困ります。また、国家間の危険が抽象的に存在することはあり得ません。危険と言われる国の具体的な危険性、すなわちその国が戦争をはじめる政治的選択のメリットの判断とそれを有効に推進する能力があってはじめて論じうることです。アジアの国で今それを満たす国はありません。従って、ごまかしです。

私たち日本人は、先の戦争で朝鮮中国をはじめ多くの国の人々に害を加え、また、自らも傷つきました。もし、当時の我が国に多くの勇気ある国民がいて、太平洋戦争の開始に反対し、中国から撤兵していたら、本当に信頼される国となっていたでしょう。1967年、アメリカで、一人のボクサーが戦争に反対したことが多くの勇気を与えたように、私たちもいつも声を上げ、戦争に反対し、戦争する日本になることに反対する人々がたくさんいることを多くの人に知らせて勇気を与えたいものです。

私たちは、今憲法9条改悪反対の署名運動を進めています。また、憲法学習会講師活動を行っています。いつでもどこでもをモットーに、旺盛に活動しています。どうか私どもの活動を理解していただき、ご協力をよろしくお願いいたします。

「まきえや」2005年秋号