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日本をアメリカのような国にしたいですか?~9.11同時多発テロ後のアメリカ~

日本をアメリカのような国にしたいですか?~9.11同時多発テロ後のアメリカ~

岩橋 多恵弁護士 岩橋 多恵

序…来るかも知れない、このような事態

「書店を経営していると、先ほどの○○は、何の本を買ったかと警察に聞かれた」、「スポーツジムで、おしゃべりして、イラク戦争に対する疑問を声高に話していたら、警察官に執拗な尋問を受けた」「反日的なポスターを見せびらかしていたという理由で、警察の訪問を受けて、自分の経歴、自衛隊に在籍している自分の父親のことを聞かれた」、このような場合、今の日本では、答える必要はありません。しかしながら、このようなことを法律などで、警察が聞ける権限があるとされていて、頻繁にこのようなことを執拗に聞かれたりすることが起こったら、気楽なおしゃべりも、政府や政府の政策を批判することもできなくなってしまうでしょう。あの「自由の国」と言われたアメリカで、恐ろしいことが起こっています。

9.11「愛国者法」下のアメリカ

(1)アメリカは、9.11同時多発テロを契機に、反テロリズムという名の下、アフガニスタンやイラクに対する侵略戦争を開始しました。対イラクに至っては、フセインが「大量破壊兵器を隠し持っている」という虚偽のプロパガンダ(宣伝)を行い、ブッシュはアメリカをイラク戦争に駆り立てました。イラク戦争が虚偽の理由で引き起こされたことは、今や白日の下にさらされ、公知の事実となっています。そして、「ハリケーン・カトリーナ」による大きな被害が、軍の救出の遅れによるものだったことも明らかになることによって、今やブッシュの支持率が急速に下がってきています。

しかし、アメリカのブッシュ政権が、9.11以降、「対テロ戦争」を理由に制定した通称「愛国者法」の下で、今、アメリカでは「あの自由の国アメリカか」と思わせるほどに、表現の自由、言論の自由を大きく脅かされ、市民の人権が抑圧されており、そのひどさは、想像を絶するほどの事態となっています。この事態は、「華氏911」に関する解説でも「精神的焚書」とされており、アメリカ社会に与えている影響は大きいのですが、しかしながら、その事実は、なかなか日本のマスコミでは、報道されていません。

(2)愛国者法とは何か?

愛国者法の正式名称は「The Uniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism Act(テロリズムを盗聴し阻止するための効果的手段を提供することによりアメリカを団結させ強化する法律)」というものです。

恐ろしく長いこの正式名称も、アメリカを愛するものは、この法律に反対はできないとのイメージを抱かせる「愛国者法」というごろ合わせにもっていく(上記 by以下の頭文字をとれば、PATRIOT ACTとなる)ためだったといいます。

この法律は、9.11事件直後のパニックの中で、「次のテロが差し迫っている。もし議会がもたもたしている間にテロが起きたら議会は世論の袋叩きに遭う」として、テロに対する怒りが高揚している状況に、わずか一ヶ月程度の間に一起に成立されました。

愛国者法の要点は(1)無限定な構成要件 (2)捜査権限の強化 (3)移民に対する身柄拘束 (4)情報の交換と共有などに特徴があり、その結果、アメリカでは今、「思想信条、言論、集会、結社の自由の侵害」「人身の自由の侵害」が、甚だしく、想像を絶するほどの状況となっています。

(1)について

刑法が掲げる禁止行為、人を処罰したり取り締まる法律の、構成要件(法律的に求められる条件と言い換えてもよいでしょう)は明確でなければならないというのが、近代法の重要な原則です。なぜならば、自分の行うこと、これからしようとする行為が法律上許されない禁止行為なのかどうか処罰されることなのかどうか予測できなければ、行動の自由が大きく制約されてしまうからです。特に、これが表現の自由や言論の自由を制限するような形になる犯罪の場合は、より一層、その明確性が要求されます。表現の自由は、その表現行為が法律上禁止されているものかどうか不明確な場合は、言論を萎縮させてしまう度合が強いといわれています。

愛国者法は「国内におけるテロリズム」を処罰の対象としていますが、この構成要件は「脅迫または強要によって政府の政策に影響を与えることを意図していると考えられる行為」が一つの類型として上がっています。これによると街頭におけるデモが、2002年シアトル市でのWTO会議に対するデモの規模や激しさに至らなくても交通の遮断を来した場合もこれに該当するといわれています。

また、愛国者法は、アメリカ国籍を持たない者の国外追放事由の一つとして「テロリスト行為を行った」=「政府にテロリスト組織と指定されている団体に募金、入会又は他の物質的援助を働きかける行為」と規定しています。

そして、その団体が「テロリスト組織」と指定されていると知らなくても、よいとされています。従って、人道的援助活動に共鳴して資金カンパしても処罰され、国外追放になるのです。

因みに、テロリスト組織の指定は、政府(国務長官)の権限であり、この指定を司法的に争う術はありません。

(2)について

政府が電話、携帯電話、コンピュータなどの通信を盗聴する権限が大幅に拡大、盗聴のための令状も「人さえ特定すれば」それであらゆる盗聴が認められ、それは、例えばコンピュータでも「侵入した人の通信」のそれのみならず、「侵入された側の通信」も盗聴できるのです。また、愛国者法によれば、政府は、書籍の購入者が何を購入したかを書店に回答させ、図書館の利用者が何を借りたかを図書館の責任者に明らかにさせることもできるとされています。

(3)について

司法長官がテロリストの容疑を抱いた移民に対し、政府が裁判所の判断なしに勾留する権限が認められています。アメリカ国籍を有していない者すべてを対象としており、永住資格を得て、合法的にアメリカに長年平穏に居住している者も含まれます。しかも、「テロリスト」との疑いさえあえば、特定の犯罪の容疑は必要ないのです。

(4)について

CIA、FBI等さまざまな行政機関や情報機関が、盗聴などで得られた情報を交換し、共有できるシステムが導入されています。

(3)先ほど述べた例は、実際にアメリカで起こっている事態をモデルにしたものです。今、アメリカでは、正当な弁護活動をした弁護士が、弁護活動を盗聴され、有罪にされるという事態まで起こっています。

進歩的な法律家団体の女性弁護士リン・スチュアートさんが愛国者法違反として有罪の判決を受けるという事件が起こっています。彼女が行ったことは「盲目のイスラム聖職者の刑事弁護人をしていた際に、被告人のメッセージをロイター通信に電話で伝えただけの行為」なのです。その行為が「テロリズムに物質的援助を与える」とされて起訴されました。その証拠として、何と彼女と被告人との接見内容を盗聴した録音テープが採用された上で、有罪となったのです。

刑事弁護の重要な権利として、「接見秘密交通権」というものがあります。これは、弁護人が、被告人と接見する際には、捜査機関側はこれに立ち会うことはできません。その盗聴が法律で許容されるとすれば、被告人も弁護人も充分な弁護活動など出来ません。「やましくなければ別に盗聴されようとかまわないじゃないか」と思いますか。しかし、話している中身が、「やましいこと」かどうかは、国が決めることであるとなれば、何が問題になるかわからないもとで自由に被告人が話すことはできません。

リン・スチュアートさんの事件は、アメリカ政府によって自由な言論を封じられた人々の権利を守ろうとして弁護活動を行った結果、戦時体制下の治安立法である「愛国者法」によって逮捕、起訴されたというものです。

今、アメリカは?

(1)アメリカ国民が、遭遇している思想信条、言論、集会結社の自由の侵害、人身の自由の侵害

先ほど序で述べた例は、アメリカで現実に起きている「些細な」一例に過ぎないのです。「サンフランシスコ居住の市民は、スポーツジムでアフガニスタン戦争に対する疑問を声高に話した後に、FBIから執拗な尋問を受けた」「ノースカロライナ州の学生が、反米的なポスターを見せびらかしているとの理由でFBI から彼女の経歴、タリバンについての見解などを尋問された」というものです。

全米各地では、イラク戦争反対のデモの行進態様が警察の指示に従わなかったことなどを理由に約600名が逮捕されましたが、そのうち、大多数が勾留となる容疑事実さえ乏しいとして釈放されたのです。しかし、このように容疑事実さえ乏しくても逮捕できるとすれば、デモに参加することさえ、躊躇するようになるでしょう。ブッシュたちのねらい「政府に対する批判の封じ込め」は的中です。

(2)人身の自由、弁護人選任権の侵害

愛国者法は、司法長官が主観的に「テロリストだと思った(嫌疑を抱いた)移民(永住資格者も含む)」を政府が司法の判断も仰がずに、思うままに無期限に勾留し国外追放することを可能にしています。

この国外追放前提の拘束では、勾留されている場所も明らかにされず、実際、この手続きで、拘束されている人の勾留場所が不明で、弁護人自身が、接見するのに、勾留されて6日間も不明だったケースもあるほどです。

そして、この手続きによる被勾留者は、2001年10月発表で約1000人、その後は、アメリカ国は、情報を開示していないために不明ですが、2002年2月末時点で推定2000人と言われています。

日本を第2のアメリカにしてはならない!

最近、自由法曹団の団員である金沢の菅野弁護士の話をお聞きする機会がありました。菅野弁護士は、多分、今アメリカで起こっていることをもっともよく知る日本人ではないかと思います。彼の話を聞いていて、日本が「戦争する国」に向かおうとしている今、生々しい感覚をもって戦慄さえ感じました。確かにアメリカにも今、愛国者法に反対する草の根の抵抗運動とナショナル・ロイヤーズ・ギルドという弁護士の組織があります。この弁護士の組織は、私たちの所属する自由法曹団のような組織です。

しかし、このような法律は、一旦成立してしまえば、後に、それを司法で回復したりすることができたとしても、その被害を、完全に回復することは困難です。その意味では、このような法律を絶対作らせてはいけないと思うのです。このような法律の成立を許したのは、対テロ戦争という戦争を引き起こしたことに起因するのではないでしょうか。日本も今、憲法9条を廃止してしまい、戦争する国にしていくとすれば、日本の戦前の治安維持法と同様の「日本版愛国者法」を強引に成立させていくことは必至だと思います。

アメリカに今起こっている現実を知り、「日本を第2のアメリカ」にしないことが大切だと、改めて感じています。

【参考文献】 法と民主主義No.387,388(菅野昭夫論文「愛国者法」)

「まきえや」2005年秋号