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労働審判制の活用を

労働審判制の活用を

岩橋 多恵弁護士 岩橋 多恵

今年4月1日から、労働審判制が開始されました。職場の実態を知らないと思われる職業裁判官だけでなく、労働者と使用者の専門委員の3者で構成される裁判です。特徴として、原則として3回以内の期日で審理(裁判)を終わらせなければならないとなっていることから、迅速な解決が得られると期待されています。

以下の事例を参考に、労働審判委員会への申立を活用しましよう。

解雇事件や退職金請求、未払い賃金請求での活用

具体的な事例に即し、利用の仕方を見ていきましょう。

Q1

京子さんは、株式会社大阪の京都事業所で、お弁当売りの仕事に従事してきた。京子さんは、2001年4月1日から勤務し、勤続5年。京子さんの会社の始業時間は、午前9時。京子さんは、始業時間には遅れることなく、午前9時には、出勤している、これまでも仕事がよくできると評判であった。ところが、ある日、突然、京子さんは、2006年3月1日に、社長都に「君はもう3月31日から会社に来なくてよい。くびだ」と言われた。京子さんは、「何か、仕事のミスがありましたか」と聞いたが、社長は、理由をはっきり言わず、とにかく、「もう、明日から来なくてよい」と繰り返すのみだった。

京子さんは、この解雇に納得できません。弁護士に相談に来ました。

弁護士のアドバイス

これは、理由のない解雇であり「客観的に合理的な理由の認められない場合として解雇権の濫用で、無効」(労基法18条の2)として、争うことになります。

(1)まず、会社には、解雇に理由がなく、納得できないと、内容証明郵便で解雇撤回を求める申し入れすることのアドバイス。
(2)その後、撤回されなければ、労働審判を申し立てようとアドバイス。

個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争」であること

本件事例が、解雇理由が明確でなく、仕事上のミスもない京子さんについては、使用者は、理由を立証できないと思われ、短期間で結論が出せると思われること(※労働審判制は、複雑な事案の場合は、3回で解決終了させることが困難であるから、この手続きになじまないとされています)。

労働裁判の本裁判(「雇用者たる地位の確認を求める訴訟」でなく、労働審判制を使うことを考えました。

(3)地位保全の仮処分をどうするか。

解雇の事件では、通常、本裁判前に、「地位保全の仮処分」の申立をすることが一般的です。理由は、解雇されれば、直ちに収入の目途がたたなくなり、生活に窮するからです。

本件の場合は、京子さんには、これまでの預貯金がかなりあり、それでどうにか食べていけるので、労働審判制一本ですすめることにしました。

但し、もし、解雇で直ちに、生活に窮するようであれば、労働審判制一本ですすめることは、要注意です。

労働審判制の一つの限界として、審判が出ても、本訴の裁判と異なり、仮執行宣言がつきません。従って、審判が出ても、異議申し立てされれば、仮の強制執行すらできる効力がありません。そうすると、労働審判で、3ヶ月くらいで出され、異議も出されず、早期の最終的な解決がなされれば別ですが、労働審判も異議が出されれば、通常訴訟に移行しますから、長引く可能性があるからです。

そこで、京子さんが、もし、預貯金なども一切ない人だったとしたら、労働審判制でなく、仮処分申立をしながら、本裁判を行うという選択になると思われます。

(4)解雇された場合、復職は求めないが金銭請求したいという場合

労働審判では、最初から、金銭解決を望むということを「地位確認、賃金支払いの申立書」の理由中に、その旨を記載して、労働審判手続きの中の調停で、その旨を表明し、話し合いがまとまらない場合には、金銭支払いを命じる審判を出してもらうことも考えられます。

Q2

京夫君は、株式会社大阪の舞鶴事業所で、1990年4月1日から勤務し、勤続16年となるが、この間、2004年頃から残業を毎日2時間してきたが、その残業手当を会社に請求しても、支払ってくれない。労働基準監督署に相談に行ったが、会社は、色々理由をつけて、監督署の指導にも応じず、支払ってくれない。そこで、京夫君は、このような会社に嫌気がさし、退職した。しかし、会社は就業規則に退職金規定があるにもかかわらず、退職金も支払ってくれない。そこで、弁護士に相談に行った。

弁護士のアドバイス

京夫君は、毎日、タイムカードのコピーを持っており、手帳にもつけており、給料明細書もきっちり2年分残しています。但し、時効のことが気になったので、まずは、すぐに、退職金の額も計算し、未払い残業代も正式に金額を特定し、会社に対し、内容証明郵便で請求するようアドバイス。

その後、労働審判委員会に申立しようとアドバイス。

<京夫君は、自分で申立できるかと質問>

法律では、本人申立もできるとなっています。いやむしろ、労働審判制の制度のそもそものねらいからすれば、労働のことに詳しい専門委員がいるから本人申立が本来の姿。しかも、京夫君は、就業規則も手に入れており、就業規則上も退職金があることは明白であり、未払賃金の計算や付加金の請求の計算もほぼ、自分でできています。

弁護士費用のことを考えると、本人である京夫君が自分でやれば、費用の負担が軽いと思うが、現段階では、裁判所は、できるだけ弁護士に依頼するように指導するようです。

なぜならば、3回で、おおよそ3ヶ月くらいの期間で迅速に解決終了させることを建前としているので、申立書に争点を明確にして、また予想される論点も明確にして行う必要があるし、審理の際、相手方の答弁書に口頭での反論なども必要となってくるので、かなり用意周到な準備を要求されるため、弁護士に依頼した方がよいでしょうとアドバイス。

労働審判制の申立の仕方

(1) 申立書

労働審判委員会のメンバー(3名)が、紛争の実態を早急に詳しく把握できるように要点をもらさず記載することが必要(基本的には、3回の期日のうち、1回目で、相手方の答弁書を出させるが、書面は、基本的に、申立人は、申立書、相手方は、答弁書の各1通のみとするようになっている)。

(2) 提出する裁判所

地方裁判所の本庁。支部では労働審判制は行いません。ですから、京都事業所が、園部にあるとしても、京都地裁園部支部でなく、京都地裁本庁に提出することになります。

また、本件の場合、大阪地方裁判所でなく、京都事業所(登記された営業所でなくてもよい)の管轄裁判所である京都地方裁判所で申立できます。

(3) 申立手数料

申立手数料は、民事調停の場合と同一で、申立の価額が、1,000万円までならば、通常訴訟の2分の1(それ以上は、2分の1より少し下回る)。

たとえば、上記の京夫君の例で言えば、退職金が300万円だとすると、退職金請求だけの本訴(民事訴訟1審)の印紙代は、2万円です。しかし、労働審判だと、1万円ということになります。もし、労働審判がおり、それに異議を申し立てられ、通常訴訟に移行すると、その際、残額の1万円を納めることになります。

京子さんのような解雇の場合は、「地位確認」と「賃金請求」となりますが、「地位確認」については、労働審判制の手数料は、6,500円であり、これに「3ヶ月分の賃金」に対応する印紙代を納めることになります。

(4) 審判の流れと調停の試み、おおよその期間

第1回期日は、申立された日から40日以内で決められます。

第1回期日の呼び出し状に「申立書、申立人側の証拠、証拠説明書」が送られ、相手方は、これに対する「答弁書」を第1回期日前で、決められた日までに提出しなければなりません。

これを受けて、申立人側も第1回目までに反論のため補充する主張があれば、補充書面を出し、証人調べを要する事件では、第1回期日に証拠決定までされるので、その日までに検討、準備する必要があります。

第1回期日から第3回期日は、申立から第3回期日までに3ヶ月くらいを予定していると言われています。但し、労働審判は、3回以内で行うというものであり、3回必ず行われるものではありません。

また、労働審判では、事件の審理を行うとともに、調停(話し合いによる紛争解決)も試みられることになります。

<簡単な流れの概略図> 立法資料より

(※労働弁護団の労働審判マニュアル2P 参照)

労働審判イメージ図

労働審判の対象となる事件

基本的には、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について、個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争であることが必要です。

従って、

  1. 労働者と労働者の間の争いは、対象になりません。
  2. 労働者と労働組合の争いは、対象になりません。
  3. 事業主と労働組合の争いも、対象にはなりません。

労働審判になじむ事件、なじまない事件(複雑でない事案であれば対象になります)

(1) セクシャル・ハラスメント事件では、「加害労働者に対する請求」は、「労働者と事業主の事件ではない」ので、直接対象になりませんが、使用者責任をとえる事件や、事業主を直接の相手方とする場合は、可能です。しかも、その場合、直接の加害者を利害関係人として手続きに参加させることもできます。

(2) 配転無効を争う事件でも可能です。この場合は、「現状変更禁止の申立」(審判前の措置)もすることが可能です。

(3) 但し、賃金差別事件などは、立証方法など困難な点もあり、賃金体系そのものが明白な差別になっているような事件であれば格別、労働審判には、なじまないとされています。

まとめ – 労働審判をいかに活用するか

いずれにせよ、労働事件の場合、ADRを含め、多くの救済手段が制度化されてきていますが、どの制度によっていくかは、個々の事例を見なければ適切な判断はできません。労働審判をいかに活用するかについても、まずは、法律事務所に相談し、弁護士と十分協議をすることをお勧めします。

「まきえや」2006年春号