まきえや

公益通報者保護法が施行されました

公益通報者保護法が施行されました

公益通報者保護法とは?

2004年6月、公益通報者保護法が成立し、2006年4月1日から施行されることになりました。

これまで、三菱自動車のリコール隠しや雪印食品による牛肉産地偽装問題など、様々な問題がいわゆる内部告発や匿名通報によって明るみに出てきました。このように、企業や組織の内部で公益にかかわる違法行為や不正行為がなされているときに、内部にいる人がその企業や組織のトップ、あるいは行政、マスコミ、消費者団体などの外部へ通報することを公益通報と呼んでいます。この公益通報は、消費者の保護や公正な社会の実現のために不可欠なものであると言えます。

しかし、このような公益通報を行った人に対する保護は十分ではなく、解雇や配置転換などの不利益処分を受け、また、窃盗や名誉毀損などで刑事告発されるなど報復を受けることも少なくありませんでした。そこで、公益のために通報を行ったことで、労働者が不利益な取扱いを受けることのないよう保護することが必要とされ、公益通報者保護法が制定されることとなりました。

公益通報者保護法で保護されるのは?

公益通報をした労働者を保護するために制定された公益通報者保護法ですが、すべての内部告発や匿名通報が保護されるというわけではありません。一定の要件を満たした「公益通報」のみが保護の対象になります。

それでは、保護される「公益通報」とはどのようなものでしょうか。

(1)まず、「労働者が」行うものでなければなりません。ですので、雪印事件の時に通報をしたような、取引業者、下請業者は、この法律では保護されていませんので注意が必要です。

(2)次に、「不正の目的でなく」行われたものではなりません。

(3)そして、公益通報の対象となるのは、食品衛生法・証券取引法・JAS法・大気汚染防止法・廃棄物処理法・個人情報保護法・その他政令で定める法律で処罰の対象とされている事実が現実に生じているか、またはまさに生じようとしている場合に限られます。ですので、法律違反があれば何でも公益通報の対象となるわけではありませんし、法律違反の「おそれ」だけでは公益通報の対象とはなりません。

(4)「公益通報」の通報先についても細かく条件が定められています。「公益通報の対象となるような法律違反の事実があったからといって、どこに通報しても保護されるわけではありませんので、この点は特に注意が必要です。

  • (1) まずは、「労務提供先もしくは当該労務提供先があらかじめ定めた者」に通報することができます。労務提供先とは、勤務先や派遣先企業のことです。
  • (2) 次に、「当該通報対象事実について処分権限を有する行政機関」に通報することができます。監督官庁のことだと思っていただければよいでしょう。ただし、この場合、対象となる事実につき「信ずるに足りる相当の理由」が必要とされています。
  • (3) そして、「通報対象事実の発生もしくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対しても通報することができると定められています。しかし、このような行政以外の外部機関に対して通報する場合は、さらに厳しい条件が付されています。

まず、監督官庁の場合と同様に、信ずるに足りる相当の理由」が必要とされています。

そして、それに加えて、次のI~Vのいずれかに当てはまらなければなりません。

  • I.  労務提供先や監督官庁に通報した場合に不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある
  • II. 労務提供先に通報した場合、証拠隠滅等が行われるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある
  • III. 労務提供先や監督官庁に通報しないことを正当な理由なく要求される
  • IV. 書面で労務提供先に通報した後、20日経っても調査を行う旨の通知がなく、また、正当な理由なく調査が行われない
  • V.  個人の生命・身体に危害が発生し、または発生する急迫な危険がある

このような「公益通報」を行った「公益通報者」については、その者に対する解雇や派遣契約の解除は無効となり、降格や減給といった不利益な取扱いも禁止されます。

「公益通報」に当てはまらない場合はどうなるの?

上で述べたような「公益通報」に該当しない場合、公益通報者保護法による保護を受けることはできません。

しかし、まったく保護されないわけではなく、「公益通報」には該当しないような内部告発や通報を行った結果解雇されたような場合であっても、労働基準法の規定が適用されることになります。したがって、かかる内部告発や通報を理由とする解雇について合理的な理由があるかどうかが判断され、合理的な理由がなく、社会通念上も相当でないとされた場合、やはり解雇は無効となります。

今回成立した公益通報者保護法は、これまで特段の保護がなかった内部告発者について、その保護を定めたものとして大きな意味がありますが、上で述べてきたように、その要件が厳しく、保護の範囲が狭いといった問題点があります。

ですから、もし内部告発等を行おうとする場合には、きちんと保護を受けられるかたちでの内部告発等を行う必要がありますので、一人で判断することなく、まずは当事務所の弁護士に一度ご相談下さい。

「まきえや」2006年春号