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「耐震偽装問題」の背景 ~建築確認の民間開放の問題点~

「耐震偽装問題」の背景 ~建築確認の民間開放の問題点~

飯田 昭弁護士 飯田 昭

問題の視点

2005年11月、ヒューザーが建築主(=デベーロッパー)となり、木村建設などが建設を請負い、日本ERI、イーホームズなどほとんどが民間の建築確認検査機関により建築確認がおろされた多数の分譲マンションが、建築基準法で求められている耐震強度を到底満たしていない欠陥マンションであり、その原因として構造計算書が構造設計を担当していた姉歯1級建築士によって偽装されていたことが発覚し、重大な社会問題に発展しました(一般的なマンションの建築生産の流れについては、図を参照してください)。

私は、これまで多くのマンション問題に、欠陥住宅問題と開発・環境・景観・まちづくり問題の両面から取り組んできましたが、今回発覚した耐震強度偽装事件は「氷山の一角」であると思います。そして、その背景には、本来、行政(地方自治体)が住民の生命、身体、健康、財産を守るため、その責任で行なうべき建築確認の「民間開放」があるのです。

従って、今後の対策としては、現在政府が検討している刑事罰の強化などの対策では到底不十分です。(1)建築確認の民間開放をやめ、行政の責任で行い、当面の人的不足を補うために、民間の優秀な構造計算の専門家を「住宅検査官」(仮称)として採用してその業務を行う、(2)一定規模以上のマンション、ビル等についての建設については建築「確認」ではなく建築「許可」が必要であるとの法改正を行い、その審査過程において、安全性確保のための審査を強化するとともに、周辺の景観、住環境、まちづくりとの調和を図れるようにする、(3)分譲マンションの「青田売り」を禁止するなどの対策が必要です。

本稿では、何故建築確認の民間開放をやめる必要があるのかについて述べたいと思います。

なお、本稿は、本年2月25日に京都テルサで行われた「シンポジウム なぜ耐震強度偽装はおこったのか~その真相を探る」(京都自治体問題研究所、京都自治労連などでつくる実行委員会主催)におけるパネリストとしての発言メモに加筆したものです。

マンション建築生産の流れ

建築確認の民間開放とは

建築確認の民間開放は1988年の建築基準法の改正によってなされたもので、これまで行政(=建築主事)が行ってきた建築確認事務を、一定の要件の下で、民間の株式会社など(指定確認検査機関)が行うことができるとするものです。

当時、日本弁護士連合会は、「営利を目的とする株式会社が『公正中立』な立場を保持できるとは到底考えられない。また、手抜き工事などの欠陥住宅を生み出す建築業界の実態・体質、業者に依存せざるを得ない建築士の現状などを踏まえれば、民間検査機関にどれほどの効果が期待できるかは、甚だ疑問であり、建築確認の民間開放は導入すべきでない。」(98年3月18日「建築基準法改正についての申入書」)と、強く反対しました。

しかしながら、「規制緩和」路線の中で、この建築基準法の改「正」は、十分な審議も尽くされないまま(注.この種の法改「正」は、「国民の反対を押し切って」というより、そもそもマスコミが問題点をほとんど報道しないため、「ほとんどの国民はその問題点に気付く機会を与えられないまま」というのが正確でしょう)、行われました。

この背景には、大手デベーロッパーが、コスト削減のため、多量の住宅の建築確認を「安く、早く」済ませられるように、影響力を行使したものと言われています。

その結果、現在、京都市内では、95パーセント以上の建築確認が、民間検査機関によってなされています。

何が問題で、どのような弊害が起こり得るのか

建築確認の民間開放の賛成論者からは、「民間開放によって、自由競争原理が働き、確認事務の価格も安くなるし、スピードも速くなる。業務の質も競争により、質の高い民間機関が繁盛する」との声が、何故かそれなりの説得力をもって流布しています。

果たしてそうなのでしょうか?

まず、「安く」の点ですが、デベーロッパーから継続的に発注を受けようとする民間機関は、当然価格をダンピングするでしょうから、確かに「安く」なるかもしれません。継続的に仕事を受けるためには、更なるダンピングを求められ、そして、その結果が確認業務の手抜きにつながる可能性が強いといえましょう。

次に、「早く」の点については、確かに「早く」なりました。他方、地域の町並みや景観に全く調和しないマンションが、住民の反対にもかかわらず、あっという間に建築確認がおろされてしまい、強引に建築が進められるようになってしまいました。

そして、業務の「質」が高まったかというと、残念ながら、「早く」て「安い」民間機関ほど、丁寧で厳格な確認業務を行うことなど到底期待できません。

勿論、民間機関の中には、丁寧で厳格なチェックを行う良心的な業者も多数あります。しかしながら、強引、営利主義のデベーロッパーほど、「安く」て「早い」、しかもデベーロッパーの息のかかった民間機関を利用することになるのが現実の法則です。

その結果、偽装とまではいかないまでも、手抜きが見過ごされ、購入者(消費者)が被害を受ける構図を生み出しています。

更に、民間開放によるまちづくりの観点からの重要な弊害として、民間機関ではこれまでの建築主事による確認と違い、確認図書が情報公開条例の対象とならないため、デベーロッパーが建築図書を住民に秘匿したまま強引にマンションなどの開発、建築を進めることができてしまうという問題も深刻です。京都市では、中高層建築物条例により、住民の求めがあれば説明会を開催して建築計画につき説明することを定めていますが、確認図書の交付は義務づけられていません。また、住民に交付された図面と、建築確認を受けた図面が違う場合もありましたが、情報公開条例が使えないと、その検証すらできません。京都府下のほとんどの自治体では、中高層建築物条例すら制定されていないため、なおさら問題です。

加えて、デベーロッパーはどこの民間機関を利用してもよいため、東京や大阪の業者が利用されることも多く、このような場合には、従来行われていた行政指導さえも及びません。府立大学近辺の「セレマ」葬儀場問題では大阪の民間機関による建築確認が避難通路の問題で京都市条例に反していることを住民側が発見し、京都市がその指摘を受けて失効させるという事態が発生していますが、民間機関による確認の杜撰さを示す一例です。これを逆に言えば、民間機関が他府県の市町村の建築確認を「安く」「早く」おろすにあたって、他府県の市町村の条例やその施行細則まで詳細にチェックできることは、到底期待できません。

安全な住宅に居住する権利

日弁連は、2005年11月11日に開催した第48回人権擁護大会において、わが国の欠陥住宅被害の現状及び建築生産システムの問題点を指摘したうえで、「安全な住宅に居住する権利」が基本的人権であることを宣言しています。

建築確認は、行政(地方自治体)が住民の生命、身体、健康、財産を守るため、その責任で行なうべき公的業務であり、これを市場原理の支配する民間に開放することは、憲法12条(個人の尊重)、25条(生存権)の保障する「安全な住宅に居住する権利」を侵害するものでもあり、速やかに廃止すべきものです。

「まきえや」2006年春号