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個人金融業者に対する過払金返還請求訴訟

[事件報告]

個人金融業者に対する過払金返還請求訴訟

渡辺輝人弁護士 渡辺輝人

事案概要

Aさんは雑貨品や食品の輸入の仕事をしていた1995年から、個人の金融業者(いわゆる「マチ金」)から事業の運転資金を借り入れ、2006年に至るまで取引を続けていました。借入額は1回あたり300~500万円ほど。返済が終了に近づくと借り増しをするなどし、多いときでは名目上の借入額が700万円に上るときもありました。借り入れの利息については、当初は年利36.5%(1日0.1%)、罰則金利引き下げ後は年利29.2%(1日0.08%)と、いずれも犯罪すれすれの違法な「グレーゾーン金利」での貸し付けでした。私が相談を受けた時点で名目上は数百万円の借金が残っている状態でしたが、取引が 10年以上にわたっており、取引が多額かつ頻繁であったため、利息を利息制限法が定める適法な範囲(本件では貸付金額が100万円超なので年利15%)で計算し直せば、業者に対して返済のしすぎ(過払い)になっている可能性が十分にある事案でした。

取引履歴の復元

貸金業者に対する過払金返還請求訴訟でもっとも重要なポイントになるのは借り主と業者の間でいついくらのお金を借り、いついくら返済したのかについての履歴(これを「取引履歴」といいます)をいかに復元するかということです。復元した取引履歴は相手方に対して訴訟を提起する際の主張の中核になりますし、後述する仮差押えを行う際にも証拠で裏付けられた取引履歴をどの程度復元できるかが裁判所を説得するポイントになるのです。取引履歴を復元した後、利息制限法が定める上限利息(本件では年利15%)で利息の計算をし直し、払いすぎになっていた場合はその払いすぎの金額について業者に対して返還を求めるわけです。

大手の金融業者相手の場合、国民世論やそれに押された最高裁判例が出た結果、取引履歴の開示を請求したときに開示を拒否することはだいぶん減りました(それでも必ず開示するわけではありません)。しかし、中小業者や個人金融業者ではまだまだ取引履歴を開示しない例も多く、特に個人業者の場合、取引履歴を全く開示しない業者や、途中までの履歴しか開示しない業者も多いのが現状です。Aさんが取引をしていた金融業者についても、取引履歴を2002年10月以降の分しか開示しないという態度に終始していました。

そこで、Aさんの手元に残っている資料を使って取引履歴を復元することにしました。幸い、Aさんが取引をしていた業者は貸し付けの際の契約書と、返済の際には不完全ながらも領収書を発行しており、Aさんもそれを手元に保管していました。また、Aさんは金融業者に振込入金した際に金融機関が発行する利用明細書の一部も手元に残していました。さらに、Aさんは金融業者への入金について不完全ながら帳簿に記録していたのです。これらの資料を照合して矛盾点を洗い出し、整合性の取れた取引履歴を復元するのは非常に困難な作業でしたが、数ヶ月の断続的な作業の後、かなり不完全ながら取引履歴を復元することができ、相当程度の過払金が存在している実態が明らかになってきました。

作戦

かなりの額の過払金がありそうなことは分かったのですが、金融業者が取引履歴の開示を拒否しているため、過払金の額を確定できません。このとき私が目をつけたのは金融業者の自宅です。個人の金融業者の場合、営業用の財産と営業以外の財産が一体になっているので、営業以外の財産である金融業者の自宅の土地と建物を仮差押えすることができます。金融業者の自宅を仮差押えすれば、「裁判で勝ったときは家を売り払うぞ」という強い意思を示して取引履歴の開示を迫ることができますし、名義変更等金融業者の資産隠しも防げます。また、勝訴判決を得た後相手方が過払金を返還しないときは実際に土地と建物を競売にかけてしまえばいいので、仮差押えは一石三鳥の効果を持っているわけです。

ただ、土地や建物を仮差押えするには、仮差押担保金(不動産の価格または請求額の2~3割程度)を供託しなければならず、2~300万円の担保金が必要なことはよくあります。過払金の返還請求に限らず、この担保金が障害になって仮差押えを実行できないケースは非常に多いのではないかと思います。本件においてもAさんがこのようなお金を現金で用意することは難しい状況でした。そこで、本件では日本司法支援センター(通称「法テラス」)の民事法律扶助の制度を利用しました。この制度は収入が一定のレベルに達しない方々に対して訴訟や仮差押えなどの法的手続きをとる際の弁護士費用の立て替え(原則毎月1万円ずつ返済)をしてくれるだけでなく、仮差押えの担保金まで援助してくれるのです。Aさんの場合も250万円という高額の担保金を法テラスが立て替えてくれました。

実行

法律扶助の決定も出たため、満を持して金融業者の自宅の土地と建物を仮差押えすることにしました。取引履歴の復元がかなり不完全であったため、裁判所が仮差押え決定を出してくれるかが不安でしたが、結果的には割と迅速に仮差押えの決定を出してくれました。

しかし、仮差押えをした後も金融業者は何の連絡もしてきませんでした。そこで、さらに過払金額の返還を求める過払金返還請求訴訟を提起し、その上で取引履歴の開示を求める交渉を始めました。自宅を仮差押えしても動じない業者のようなので交渉が難航するかとも思われたのですが、いざ電話をかけてみると事実は全く逆で、自宅を仮差押えされた上に訴訟を提起された金融業者は完全に戦意を喪失しており、即座に取引履歴の完全な開示に応じてきました。

結末

金融業者から取得した完全な取引履歴をもとに過払金の計算をしたところ、約440万円の過払金があることが判明しました。そして金融業者に対しては過払金元本の返還のみならず、商法で定められた利息(年利6%。最近は最高裁判例が出て年利5%の場合も多くなっています)の合計額約135万円の支払いまで応じさせ、Aさんの過払金を完全に回収することができました。高利をむさぼる金融業者から利息まで取り返したのは非常に痛快でしたし、Aさんも結果に喜んでくれたので、弁護士としてもやりがいのある事件でした。また、Aさんの金融業者に対する過払金返還請求は、私のなかでのモデルケースとなり、その後、別のBさんの例でも銀行の入出金の記録を元に取引履歴を復元し、金融業者の資産に仮差押えをかけて過払金を回収したことも付け加えておきます。

「まきえや」2007年春号