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労働災害後遺症の男女差別の解消を求めて

[事件報告]

労働災害後遺症の男女差別の解消を求めて

糸瀬 美保弁護士 糸瀬 美保

労災事故で大火傷

1995年11月、京都府在住のAさん(男性、当時21歳)は、勤務先で金属の溶解作業に従事していた際、1000℃以上の高温の溶解炉から銅類が吹き上がるという労災事故に遭いました。吹き上がり、飛散した高温の銅類で作業服が燃え上がり、Aさんは大火傷を負いました。

Aさんは、2004年2月に労災保険による治療が打ち切られるまでの約10年間、16回に及ぶ手術を受けましたが、右頬や顎、頚、胸部、腹部、腕や脚といった広い範囲に酷い火傷の後遺症が残りました。

労災後遺障害の認定

2004年4月、園部労働基準監督署長は、Aさんの後遺障害について、労働災害補償保険法(労災保険法)施行規則の障害等級表に基づき、併合第11級に該当すると認定しました。

Aさんのように火傷や怪我で皮膚に後遺症が残った場合、労災保険では、外貌(顔や頸といった日常露出している部分)の醜状という後遺障害の認定を受けます。労災の後遺症は1級から14級まであり、順に補償の程度が低くなりますが、外貌醜状は、男性と女性とで等級が違うという点で、他の後遺症と大きく異なっています。女性の外貌の著しい醜状障害については7級としているのに対し、男性の外貌の著しい醜状障害については12級と規定しているのです。単なる外貌の醜状についても、女性の場合は12級、男性の場合は14級と差が設けられています。

Aさんの場合は、右頬や顎、頚といった外貌の著しい醜状の他に胸や腹部、上肢・下肢の部分の醜状を併せて11級と認定されました。しかし、これが女性の場合であれば、5級の認定を受けることになります。これは、明らかな男女差別です。Aさんは、労基署長の決定に対して、審査請求や再審査請求をしましたが、いずれも棄却されました。

提訴~後遺障害等級表は憲法違反~

そこで、2008年9月9日、Aさんは、国を被告として、京都地方裁判所に、障害補償給付支給処分取消訴訟を提起しました。

この訴訟は、醜状障害について男女差別を規定した労災保険の障害等級表について、性別による差別を禁止した憲法14条違反を正面から問う裁判です。そもそも、現在の障害等級表の前身となったのは、1936年に改正された工場法の別表です。現在の障害等級表はその古い法律を元に、1947年9月に施行されました。その後、障害等級表自体は幾度か改正されましたが、醜状に関する男女差別の規定は、今日まで制定当時のままです。

厚生労働省が出している解説書によれば、男女で異なる等級を規定している理由について、「社会生活において醜状障害により受ける精神的苦痛を考慮し、女子のそれが男子のそれに比較して大であるという社会通念に基づく」という説明がされています。しかし、そのような社会通念が存在しているかどうかについて、根拠となる資料やデータはどこにも見あたりません。顔や体の醜状後遺症に対して受ける精神的苦痛の大きさは、人それぞれであり、男性と女性とで区別できるものではありません。

後遺障害等級表は、女性を外見で評価する考えに基づいているのではないかと考えられます。男性も女性も同じ補償を受けられるよう法律の是正を求めていきたいと思います。

「まきえや」2008年秋号