まきえや

任意後見人・任意後見監督人による財産管理について

[事件報告]

任意後見人・任意後見監督人による財産管理について

はじめに

成年後見制度が導入されまして従前の後見人制度が大幅に改正されました。そこで今回は、事件本人(A子さん)が自分の意思で後見人を選ぶことができる任意後見人の事例を報告します。

A子さんの病状と財産

昭和35年生まれのA子さんは、大学在学中に「いじめ」られて自閉症になり、楽しい大学生活を送ることができませんでした。卒業後は、ご両親の下で治療に専念してきました。精神科病院に通院してきましたが、病状の改善はみられませんでした。平成10年には「統合失調症」と診断されました。ご両親がお元気のときは、成年後見の手続をとる必要性はなかったのですが、その後、ご両親があいついで亡くなられ、一人このA子さんが全ての遺産を相続されました。遺産は、・不動産は土地と建物が各3筆で数千万円、・生命保険の積立金1億円、・郵便貯金1300万円、・4000万円の貸付金、・ご両親の年金、家賃収入等があります。ご両親が亡くなったあと、A子さんに対し、借入金の申し込み、建物修繕の申し込み、動産類の押し売り等があり、このまま放っておくとA子さんが食いものにされる心配がでてきました。

任意後見契約の締結

A子さんは、ご両親の古い友人であるB氏と平成14年7月5日、公正証書による任意後見人契約を締結しました。この契約は、新しい成年後見制度によって認められたもので、家庭裁判所で後見人を選任してもらう方式と異なり、自分が信頼できる人に後見人になってもらう方式です。財産管理に関しては、・不動産、動産等の全ての財産の保存、管理、処分に関する事項、・金融機関、証券会社との取引に関する事項、・保険契約に関する事項、預貯金通帳、株券等有価証券等の保管に関する事項、・行政機関への申請、紛争の処理に関する事項等を後見人はA子さんにかわって処理することになります。

A子さんとB氏の任意の後見契約書は、東京法務局に登記されます。従前のように戸籍謄本に後見事項が記載されるのではなく、全国で締結された任意後見契約が東京法務局に登記されるのです。登記される事項は、「任意後見契約として、公証人氏名、証書番号、作成年月日、登記年月日、登記番号」、「任意後見契約の本人(A子さん)の氏名、生年月日、住所、本籍」「任意後見人(B氏)の氏名、住所、代理権の範囲」です。関係者は、東京法務局又は近くの地方法務局(本庁)に「登記事項証明書」の下付申請をすれば登記事項の詳細を知ることができます。

この任意後見契約の効力が発生するのは、契約が登記されたあと、京都家庭裁判所で任意後見監督人が選任されたときです。

任意後見監督人選任の申立

後見人のB氏は、登記完了後、京都家庭裁判所に私(当職)をA子さんの任意後見監督人に選任する申立をしました。京都家庭裁判所は、当職をA子さんの任意後見監督人に選任しました。この選任によってB氏の後見人としての事務が開始することになりました。任意後見監督人の主な職務は、・任意後見人が定められた事務を適正におこなっているかを監督すること、・そのために任意後見人に対し事務の報告や財産目録の提出を求めたり、後見の事務やA子さんの財産状況を調査することができます。・家庭裁判所は年に1回、任意後見監督人を介して任意後見人の事務に関する報告を求めてきます。B氏は、3回、この報告書を当職に提出し、私が点検して裁判所に報告書を提出しております。A子さんの資産が億を超していますので、報告書もかなりの量になります。

結び

成年後見のうち、今回は任意後見人、任意後見監督人による財産管理の手続について報告しました。A子さんの病名は統合失調症ですが、最近は「認知症」の方からの相談が増えております。お元気の間に任意後見制度を活用するとか、遺言書を作成しておく等が相談内容となっています。ご自分の財産の管理について心配、不安をお持ちの方は、是非とも事務所にご相談下さい。

「まきえや」2008年秋号