まきえや

イージス鑑事故と軍事優先の動き

イージス鑑事故と軍事優先の動き

事故とその後の防衛省の事実隠蔽の工作

今年2月19日午前4時7分ころ、千葉県房総沖で舞鶴を母港とする海上自衛隊の最新鋭イージス艦「あたご」(7750トン、2007年3月竣工)が漁船「清徳丸」(7.3トン)に衝突し、清徳丸の漁師の吉清さん親子2名が行方不明となった事故が発生しました。あたごの艦首が清徳丸の左舷側から操舵室をまっぷたつに割る格好で衝突しています。当時清徳丸は、カジキ漁のため僚船とともに千葉県勝浦市の漁港を出て三宅島方面に向かっていたところでした。一方、あたごはハワイ沖でアメリカとミサイル防衛訓練をした帰りです。

海自は、事故直後、清徳丸の緑のライトを見た、つまり右舷側を見た発表しましたが、赤のライト(左舷側)に訂正しました。また、2分前に発見したというのを12分前に訂正。その上、あたごは衝突場所が混雑した海域にもかかわらず自動操舵していたことまでわかりました。海自は、事故を清徳丸になすりつけようとしているのではとの疑いがもたれました。

ところがもっと驚くべき事実が事故一週間後に明らかになりました。事故の6時間後、衝突の状況を最もよく知る航海長をヘリで東京市谷の防衛省まで運び、海上保安庁に無断で、海上幕僚監部と石破防衛大臣が航海長から「事情聴取」していたことが明らかとなったのです。また、護衛艦隊司令部幕僚長(全護衛艦群を指揮する最高官)が事故4時間後にイージス艦に乗り込み関係者から事情を聴取していたのです。一般に事件や事故が発生したときは警察や海保が捜査権限をもって捜査します。この事故では業務上過失往来危険罪容疑で海保が捜査していました。その捜査前にこっそり重要人物から「事情聴取」として話を聞くのは、証拠隠滅や隠蔽が強く疑われます。防衛事務次官は、事情聴取時のメモはないと言っていたのに、見つかると今度はメモの定義の問題だとか記憶にないの連続。これらは、国民に事実を隠し、また事実に反することを意図的に流す情報操作の手法です。強い批判が起こったのも当然です。清徳丸の2人はまだ行方不明のままです。僚船による捜索も海自による捜索も終わりました。

イージス艦6隻も日本に必要なの?

イージス艦のイージスとは、ギリシャ神話のゼウスの胸盾の名前に由来するものですが、イージス・システムという高性能レーダーとミサイルを搭載し、ヘリも発着できます。これらを6隻も保有していますが、図の通り、海自の保有する中で、最も防衛・攻撃能力が高い最新鋭艦です。1隻約1400億円で、日本以外で保有しているのはアメリカとスペインだけです。イージス・システム部分はアメリカから1隻あたり600億円で購入することになっています。

なぜ6隻も保有しているのか?答えはアメリカの世界的ミサイル防衛構想に乗っているからです。360度覆うレーダーで同時に複数の目標をキャッチし、ミサイルを発射させるのです。ミサイルの値段は、SMミサイル1発20億円(保有数は秘密になっています)、発射台300億円(6隻で1800億円)という超豪華なものです。以前舞鶴の海上自衛隊で2隻あれば日本の海域の防衛は十分だと聞いたことがあります。

したがって、6隻というのは、わが国の防衛の域をはるかに越え、米国と一緒になり、他国のミサイル防衛・攻撃能力を無力化させることができる強力な軍事力の保有といえます。アメリカは先制的自衛権の行使という先制攻撃戦略を持っていますので、アメリカと何らかの敵対的利害のある国はいやおうなく対応を迫られ、軍拡が世界的に進みます。それだけ紛争や戦争の危険が高まります。

イージス艦は、わが国の防衛ではなく、アメリカ本土防衛ためのミサイル防衛システムの補完物としての役割を持っているのです。しかしミサイル防衛の最大の弱点である、ミサイルにミサイルをぶつけようとしても命中しないという致命的欠陥は克服されていません。

では超最新鋭にもかかわらず何故衝突は起こったのでしょうか

防衛省の中間報告では、核心部分はまだ報告されていないのですが、イージス艦には常に複数の見張りと当直員らがいた、これらの要員は衝突の直前午前3時 58分ころ交代した、交代前に見張りは白灯と赤灯数個を確認した、はっきり見えたので当直士官には報告しなかった、交代後の当直員は危険はないと判断、近いなと言い合っていたところ清徳丸を確認、(手動に切り替え)後進命令が出されたが間に合わなかった、という中身です。これではまだよくわかりません。また、艦長や士官の責任にはふれていません。

なぜ自動操舵にして混雑した海域を航行したのか。イージス艦で自動操舵システムを付けているのは「あたご」とこの3月に就役した「あしがら」だけです。なぜ装着しているのかの問いに、防衛省は「省力化を図ったもの」という回答です。つまり、今、海自の中で、レーダーとミサイル関連部門が優先され、操船部門は後回しになっているのです。要するに、安全よりも攻撃が優先されているのです。これでは事故は避けられないでしょう。

軍事優先の動きを変えよう

わが国は日本国憲法で戦争の放棄、武力の行使や威嚇はしない、戦力は保有しないと決めています。平和は一国では達成できませんので、日本国憲法はこの政策を他国に働きかけることが前提となっています。そうすると、安全保障については多国間の協力で行い、軍備を縮小することにより世界の紛争を戦争ではなく外交で解決することを目指していることがわかります。

イージス艦など6隻も持って、海外で武力行使をしようとする今の政府自民党や民主党の一部の議員の考え方は日本国憲法に反するものです。みなさんと一緒に無駄遣いの軍事費をなくし、国民の生活や健康を守る政府に変えていきましょう。

漁民らの証言にもとづく衝突直前の状況 あたご 防衛省広報誌より あたご断面図

「まきえや」2008年春号