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新手の地上げか ~明け渡し訴訟に勝訴~

[事件報告]

新手の地上げか ~明け渡し訴訟に勝訴~

奥村 一彦弁護士 奥村 一彦

地上げ訴訟をおこされる

昨年、建物明け渡し訴訟の被告事件の依頼がありました。被告は二人で、同じ大家のお隣さん同士(AさんとBさんとします)です。D建設会社が、大家の土地にマンションを建設し、全体を一括借り上げて10年間賃料を保証するという計画を提案し、そこで大家が借家人に明け渡し訴訟を起こしたのです。

土地有効利用で追い出し

二つの事件とも正当事由が争点でした。大家側の明け渡しを求める事情(正当事由)と借家人側の明け渡しを拒みうる事情のうち、どちらが護られなければならないかという論点です。裁判所の結論としてはいずれも借家人の勝訴でしたが、問題は、D建設会社のような大手企業が、借家人の側の居住の利益を犠牲にして、土地有効利用という名目で大規模開発することを裁判所がどこまで認めうるのかということです。

正当事由はどう判断される?

「正当事由」は、かつて、借家人や借地人に有利になりすぎて、不動産所有者には著しく厳しすぎる、という所有者側からの攻撃にさらされ、そして、1991 年、それまでの借家法と借地法から「借地借家法」として改正法が成立し、「正当事由」については「賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」に加え「従前の経過」、「利用状況」、「建物の現況」及び「財産上の給付の申し出」を考慮するとされました。これにより、それまで厳しく判断されてきた「正当事由」が緩く認められるようになったと言われてきました。今から考えると新自由主義的傾向が現れていたように思えます。

本件でもそのような土地有効利用が借家人の居住の利益を犠牲にしてまでも認められるのであろうか、というのが最大の争点でした。

それぞれの事情

Aさんは、義父が昭和5年に借りたこの建物に、昭和31年結婚して居住するようになり、子ども3人を育てて社会に送り出し、夫死亡後は1人で生活してきました。高齢で耳が少し聞こえにくいことはあっても、今では年金と趣味のミシン裁縫でささやかでも生き甲斐のある暮らしを50年以上に渡り続けてきていました。

Bさんは、先代の父親が大正9年に建物を借り、居住用とするとともに呉服関係の仕事をはじめ、その後それを法人組織にしました。Bさんはピアノ演奏家でもあり、海外生活も送ったことがありましたが、母親がひとり暮らしとなったので、住み慣れた借家に戻ってきたという経過がありました。

一方、大家側の事情は、当初は、高齢化のために医療費等が大変嵩むというのが理由でしたが、訴訟中に亡くなられ、その後は、大家族の生活の面倒をみることは経済的に困難であるので、土地を有効利用して賃貸業を始めたいというものでした。

判決

以上の事情のもとで、Aさんに対する判決は「原告らの賃貸建物の建て替えについて……その計画通りの立て替えの実現が確実な状況にあるとは認められない」としAさん側については「高齢で耳が不自由であり、長年住み慣れた本件建物を離れて新しい環境で生活することは相当の困難が伴うことが推察されること…… 立ち退き料の額は100万円……の範囲にとどまること」を考慮すると、申し入れに正当事由があるとは認められないとしました。

Bさんに対する判決は「被告らにとっては、本件建物での居住を続けることが必須とはいえないものの、便宜であること、賃料が低廉であるのは、修繕を賃借人がしてきたこと……転居することによって被る経済的損失を補填できるような立ち退き料であれば格別、100万円ないしそれに近い程度の立ち退き料を給付しても解約の正当事由があると認めることはできない」としました。

生活重視の流れ

判決を読み、一昔前なら間違いなく明け渡しが認められるケースではないはずでしたが、現在では借家人側の事由を事細かく主張し、立証してはじめて、どうにか借家人を護ることができるという時代になっているという感慨を持ちました。

今、国民全体が、新自由主義的傾向に大きなブレーキをかけ、国民生活を重視するという方向に転換しつつあると思います。この観点からもこの判決のもつ生活重視の考え方は、より定着させなければならないでしょう。

「まきえや」2009年秋号