まきえや

京都の山 標高ベスト10を登る 第7回 小野村割岳

京都の山 標高ベスト10を登る

第7回 小野村割岳(931.7m)

小野村割岳という山

今回は小野村割岳(おのむらわりだけ)を紹介します。この山の名前を聞いたことのある人は少ないと思います。かくいう私も数年前までは聞いたことがありませんでした。小野村割岳という名前の響きと、山名は普通3文字が多いのですが、5文字というところが気にかかりました。少し調べてみたところ、戦前のガイドブックには名もない無名峰としか記載がなく、比較的新しい山名と言われていますが、名前の由来はよく分かりません。京都市左京区広河原の最北端にあり、北側は旧美山町(現南丹市)になります。日本海に注ぎ込む由良川と、大阪湾に流れる桂川(大堰川)との分水嶺となっています。しかも、京都大学農学部の芦生研究林(以前は「演習林」と呼ばれていました)の南端に接していて、その稜線には伏状台杉(アシウスギ)と言われる巨樹が群生しているところであり、非常に興味深い山と言えるでしょう。

エイリアン風台杉
エイリアン風台杉

この山を紹介したいと思うのは、単に山頂に到達するだけではなく、むしろ山頂から佐々里峠までの芦生研究林の南側の外縁の尾根歩きが素晴らしいからです。地の人に聞くと、以前はこの尾根も藪で覆われていて、藪こぎをしながら進まなくてはならず、5時間くらいかかっていたと言います。それが、酸性雨のせいでしょうか、最近では藪がなくなり、藪こぎすることがなくなったので、2時間あまりで歩くことができるようになったとか。いずれにしても、起伏の少ない尾根であり、この稜線に沿って伏状台杉の巨樹が点在しているので、最近は比較的よく歩かれるようになっています。

広河原行き京都バスに乗る

今回もバスを利用した行程にします。出町柳7時50分発の広河原行きの京都バスに乗ります(このバスは8:03北大路バス停に着きます)。バスは、二軒茶屋から鞍馬街道を遡り、鞍馬を通ります。鞍馬温泉を過ぎると樹林帯の中をどんどんと登っていきます。つづら折れの狭い道を花背峠まで登るのですが、車との離合には苦労します。しかし、さすがはプロの運転手さんです。難なくバスを進め、花背峠を下ります。京都市の小学生が林間学校をする花背山の家を通過し、大布施、八桝、原地を経て、下の町のバス停で降ります。

下の町バス停からすぐ左の広場を見ると、松上げの灯籠木[とろぎ](長さ20mくらい)がおいてあります。

松上げの灯籠木
松上げの灯籠木

松上げは、若狭街道に沿った山間の村々に伝承されて来た、愛宕信仰による献火の行事ですが、長い年月の間にいつしかお盆の送り火とも接合して、山里の夏の終りを飾る火祭りとなって定着しています。花背の松上げは8月15日、広河原の松上げは8月24日に行われます。松上げとは、松明(たいまつ)を上げるという意味のようです。

ワサ谷から小野村割岳山頂をめざす

さて、バス停からは右手にある早稲(ワサ)谷林道に入ります。最初はアスファルトの舗装道ですが、少し進むと最後の民家があります。その前を過ぎると、鎖のゲートがあります。暫くは早稲谷川の右岸(川上から見て右)の林道歩きとなります。林道が右岸から左岸に渡ると、「伊吹・比良カモシカ保護地域」(文化庁・京都府教育委員会)という立て札があります。このあたりは、まだカモシカが生息しているのでしょうか。やがて、赤い鉄柵のゲートが見えてきます。

二俣にある鉄柵ゲート
二俣にある鉄柵ゲート

ここが地形図(25000分の1)の594m地点に当たります。ここは二俣になっていますが、右俣を進みます。この辺りから次第に勾配が上がっていきます。最初に右に回り込むところにトチノキが2本立って出迎えてくれます。さらに登ると、今度は左に回り込みところに3段になって流れ落ちる10mほどの滝があります。

三段の滝
三段の滝

林道がさらに登っていきますが、間もなく再び二俣に出合います。ここで間違わないように、左に進みます。ごろごろとした石がたくさん転がっているので歩きにくいのですが、道自体は林道なので危険なことはありません。やがて林道は谷に回り込むように少し下ります。途中の右手に小滝がありますが、これもやり過ごすと、間もなく林道の終点に着きます。ここまでは林道歩きなので危険な箇所はありませんが、1時間半ほどかかるので少し退屈かも知れません。

林道終点から右手にある山道に入ります。最初がちょっとした沢通しの場所になっているので注意しながら進みます。大杉のある場所から、沢を離れて左の尾根に取り付きます。最初は少し急斜面となっているのでトラロープが設けてあります。

トラロープの登り
トラロープの登り

尾根に乗ると緩やかな稜線となり、所々に台杉が現れてきますが、間もなく小野村割岳山頂に着きます。林道終点からはあっという間に着いてしまったという感じがするでしょう。

小野村割岳山頂から稜線歩きを楽しむ

小野村割岳山頂からの展望はあまりよいとは言えませんが、東南方向が開けていて、隣にある951m峰(無名峰)、比良連山や白倉岳を垣間見ることができます。それでも小さな広場になっていて明るく刈り開かれているという感じがします。山頂の灌木のたもとに誰が置いたのか、赤いポスト(郵便受け)があります。

赤いポストが迎えてくれます
赤いポストが迎えてくれます

山だよりを投函すれば、誰か配達してくれるのでしょうか。ここには、三等三角点があります。点名は広河原、明治23年6月25日埋標されたとのことです。

小野村割岳の▲三等三角点
小野村割岳の▲三等三角点

山頂からの道は3つあります。ひとつは、東へ稜線沿いに進む道で951m峰に至ります。二つめは北斜面を下ってカズラ谷におりて、由良川本流に至るコースですが、これは熟練者コースです。三つめが西の稜線を佐々里峠へ進むコースです。

山頂から西へ続く明るい稜線
山頂から西へ続く明るい稜線

今回は3つめの西の稜線を進むことにします。この稜線コースは踏み跡が薄いのですが、テープが所々にあるので、よく注意しながら進みましょう。この辺りは自然林の気持ちのよい林になっていて、森林浴にはもってこいの場所ではないでしょうか。やがて大きな枯れた巨樹(杉)がある場所に到達します。ここが911mピークです。

911mピーク
911mピーク
911mピークにある枯れた杉巨木
911mピークにある枯れた杉巨木

ここには標識があるので見落とさないようにしましょう。右手に北の尾根から由良川本流沿いのトロッコ道に下る道があるようですが、入り込まないように注意しなければなりません。左手に進みます。

左手の東谷乗越へが正解
左手の東谷乗越へが正解

少し下ったところで南の尾根に乗りやすい箇所がありますので要注意です。この2つ以外では佐々里峠道までの稜線で迷いやすい箇所はありません。

さらに進むと鞍部と思われる場所に出ます。ここにはコバイケイソウ(小梅惠草)が群生しています。

東谷乗越付近のコバイケイソウ
東谷乗越付近のコバイケイソウ

コバイケイソウは北アルプスなどの高山にあるものとばかり思っていましたが、こんなところにも生育しているのです。ちょっと調べてみると、本州から北海道の高山や山麓の湿った草地、沢筋に群生状態で自生していて、6~8月にはリスの尻尾のような白い穂状の花を見事に咲かせます。全草が有毒でプロトベラトリンもしくはアルカロイドにより、誤食すると、けいれん、呼吸麻痺を引き起こします。春先の芽吹き時は、おいしい山菜として有名なオオバギボシ(大葉擬宝珠)と似ているので注意が必要です。

鞍部付近は「東谷乗越」と呼ばれる峠となっており、ここから左手のサエ谷に下りて広河原に行くこともできますが、荒れた谷なので経験者でないと歩くことができません。少し登りながら進むと、伏状台杉が点在しており、ブナやトチノキ、カツラなどの自然林が続きます。やがて、焼け焦げた空洞になっている大杉に出合います。

焼け焦げた大杉
焼け焦げた大杉
焼けた巨木の中から
焼けた巨木の中から

落雷により燃えてしまったのでしょう。中が空洞になっていて人が入ることができます。もし、時間があれば、ここから少し北に下ったところにアシウスギの群生地があるので一見の価値があります(赤崎中尾根の巨杉群)。

焼け焦げた大杉を過ぎると間もなく832mピークに達します。

832mピーク
832mピーク

稜線をさらに西に進むと、登山道を遮るように大きな倒木があります。もう何年も前に台風か何かで倒れてしまった老木です。倒れたまま時間が経過して、そこに若木が生えてしまっています。

佐々里峠まではしっかりした道

倒木を過ぎると、間もなく最後のピークである840mピークに着きます。

840mピーク
840mピーク

特に何かがあるわけではありませんが、道を間違っていないことを確認しましょう。やがて道が下ってくると、佐々里峠から灰野に続き道に出合います。逆コースの場合には、この分岐が分かりにくいでしょう。

佐々里峠に下る道はしっかりとしていて、しかも立派な案内標もあって安心して歩くことができます。登山道の脇には大きなブナが林立していて、最後の歩きを楽しませてくれます。やがて車の通る音が聞こえてきたかと思うと佐々里峠に着きます。この峠は、京都市左京区広河原尾花町と京都府旧美山町佐々里とを結ぶ峠で、石室(峠の休憩所)があります。

佐々里峠の石室
佐々里峠の石室

雪の深いこの地域にあった堅牢な小舎として造られたものでしょうが、今は誰が何に使っているのでしょうか。

さて、佐々里峠から広河原バス停まではもう少しあります。佐々里峠から少し車道を下ると右手にオバナ谷への下り口があります。この谷は、今は荒れていて、歩く人も少ないので、舗装道路の車道をそのまま広河原まで下るのが安全でしょう。ジグザグ道のアスファルト道路は結構長く小一時間かかります。広河原スキー場のリフトが見えてくれば、もうすぐそこが広河原バス停です。やっと広河原に着いたら、谷川の冷たい水で汗を拭いましょう。バスの待ち時間があれば、「庄兵衛」という喫茶店があるので、ここで休みましょう。もちろん、ビールもあります。

広河原始発出町柳行きのバスの時間は、午後は14:30、16:00、17:15の3本ですが、16:00は3月16日から12月15日までの土日祝日のみの運行です。しかし、時間的には16:00のバスがちょうどよいので、運行日に注意して行きましょう。

【コースタイム】4時間50分
下の町バス停(40分)鉄柵ゲート(30分)林道終点(15分)▲小野村割岳(30分)P911(60分)焼け大杉(5分)P832(10分)倒木(20分)P840(30分)佐々里峠(50分)広河原バス停

これまでの登山履歴

(1)2004.9.4945下の町バス停 1015鉄柵ゲート 1045林道終点 1055▲小野村割岳(休憩) 1145P911(昼食)1210発 1255P832 1305鞍部(倒木) 1320P840 1325佐々里峠分岐 1340佐々里峠 1420広河原バス停
(2)2004.10.3940下の町バス停 1015鉄柵ゲート 1045三段滝 1055林道終点 1115▲小野村割岳(休憩)1135発 1225天狗峠分岐 1227P951 1410コウンド谷二俣(昼食)1435発 1450コウンド林道終点 1530能見口バス停
(3)2004.10.17840下の町バス停 945三段滝 1000林道終点 1015▲小野村割岳 1050P951 1120P927 1205P921 1240三国岳分岐 1300天狗峠(昼食)1400発 1615▲小野村割岳 1700下の町バス停
(4)2005.9.18830下の町バス停 925鉄柵ゲート 950三段滝 1005林道終点 1040▲小野村割岳(昼食)1155発 1220P911 1325焼け大杉 1345P832 1355倒木 1415P840 1445佐々里峠 1535広河原バス停
「まきえや」2009年春号