まきえや

むちうちは後遺症にならないと思っていませんか?~交通事故の被害に適正な賠償を~

[事件報告]

むちうちは後遺症にならないと思っていませんか?~交通事故の被害に適正な賠償を~

ある交通事故

Aさん(当時34歳)は、自動車を運転中、右折待ちで停車していたところ、後ろから追突されるという事故に遭いました。Aさんはこの事故で、頸椎椎間板ヘルニア、外傷性頸部症候群という怪我を負いました。わかりやすく言えば「むちうち」です。この後、Aさんは頭、くび、左肩、左手足など、身体の各部の痛みに悩まされることになります。約11か月の治療の後、Aさんのむちうちの治療は「症状固定」として終了となり、それでも残っていた各部の痛みについては、後遺障害としての認定を求めることになりました。

ところが、自賠責保険が認定した後遺障害は、14級「局部に神経症状を残すもの」でした。14級というのは、後遺障害の等級の中でもっとも低い等級です。自賠責保険の説明では、Aさんの後遺障害が14級となる理由は「頸部画像上、経年性の変性所見は認められますが、本件事故による明らかな器質的異常所見は認め難く、その他提出の医証からも症状の裏付けとなる客観的な医学的所見には乏しい」というものでした。これはつまり、「Aさんの首の部分のレントゲンやCT、MRIなどの画像を見ても、年齢からくるヘルニアがあるだけで、交通事故による変形はありません。他の資料を見ても、Aさんの痛みの裏付けはありません。」というものでした。この説明にAさんは全く納得できず、事務所に相談に来られたのです。

弁護士への依頼、異議申立

Aさんからの相談、依頼を受けて、自賠責保険に対する異議申立をすることとなりました。異議申立という手続は、自賠責保険が認定した後遺障害等級に対して、その見直しを求める手続です。

Aさんの場合、頸椎の神経からくる症状が問題となりますので、14級を12級に引き上げることが出来るかどうかがポイントになります。12級では「局部に頑固な神経症状を残すもの」と定められており、先ほどの14級と比較すると、違いは「頑固」かどうかということになります。ただし、実際の認定実務においては、画像その他の客観的資料によって症状を医学的に証明できるか否かが、14級と12級とを分けるポイントになります。

そのため、主治医の先生の協力を得て、Aさんの頸椎MRIや診断所見を詳しく分析していただきました。そして、Aさんの第3・第4頸椎間にヘルニアが認められること、そのヘルニアは交通事故によって引き起こされたものであること、34歳という年齢からしても、年齢から来るヘルニアとは言えないことなどといった所見を改めて書いていただき、自賠責保険に提出しました。

その後、自賠責保険による追加の調査もあり、Aさんは12級の後遺障害認定を受けることができました。

認定後、示談に至るまで

14級の認定が、異議申立により12級に引き上げられたのですから、ここから示談まではすんなり進むものと思うかもしれません。しかし、保険会社相手の示談交渉は、ここからがまた大変なのです。

保険会社が、12級に認定されて提示してきた示談額は、すでに支払われた治療費などを除いて約500万円を支払うというものでした。内訳を見ると、慰謝料の額は裁判実務の基準よりもずいぶん低い金額でしたし、後遺障害の逸失利益については5年分のみを考慮する、というものでした。

この点についても、主治医の先生から、その時点での診断書を書いていただき、また、Aさん本人にも、症状は残り続けていること、その症状のせいで退職せざるをえなかったことなどを陳述書にまとめていただき、裁判例などについての弁護士の意見も併せて伝え、保険会社に再検討を求めました。その結果、後遺障害の逸失利益は8年分まで考慮されることとなり、また、慰謝料の金額も引き上げられ、約900万円を支払うとの再提示がなされたのです。それでも、裁判での基準からするとまだ低い水準だったのですが、Aさんが早期に解決することを希望していたこともあり、示談することとなりました。

交通事故に適正な賠償を

保険会社から、あれこれと理由をつけられて支払額を低く抑えられているケースは少なくありません。今回の件でも、もし仮に、14級の認定のまま、保険会社の言うままに示談に応じていた場合、約200万円程度での示談を求められていたものと思われます。

しかし、それは今回の交通事故でAさんが受けた被害を賠償するのに適正な金額とは到底言えません。今回の件では、後遺障害の等級認定を引き上げるために異議申立という手続を行いましたが、そうでないケースであっても、弁護士が代理人に付くだけで賠償額が上がるケースも少なくないのが実態です。それだけ、保険会社が内部で持っている賠償基準と、裁判実務で取り扱われている賠償基準がかけ離れているのです。

交通事故に遭わないことが何よりですが、これだけの車社会になり、交通事故とは無縁ではいられません。万が一、交通事故に遭ってしまったら、決して泣き寝入りせず、また、簡単に諦めてしまわずに、早い段階で、お気軽にご相談いただければと思います。

「まきえや」2010年秋号