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裁判員裁判体験記

裁判員裁判体験記

浅野則明弁護士 浅野則明

はじめに

市民が刑事裁判に主体的に参加し、裁判官とともに有罪・無罪を判断し、有罪の場合には量刑を決めるという裁判員裁判が2009年(平成21年)5月にスタートし、すでに1年余りが経過しました。同年8月3日最初に開かれた東京地裁の公判から1年の間に、全国で858件の公判が開かれ、5222人の市民が裁判員として参加しました。京都地裁でも、すでに19件の公判が開かれ、158人が裁判員、裁判員補充員となっています。私は7月に開かれた12番目の公判の国選弁護を担当しましたので、体験した感想を述べてみたいと思います。

強盗致傷事件

事件は「強盗致傷」被告事件でした。被告人は、事件当時28歳の男性で、未明に一人歩きの女性(19歳)にその背後から近づいて口をふさいで、包丁を近づけてと脅したところ、女性が抵抗したため、包丁でその背部を刺し、さらに後頸部を切りつけて、バッグを奪い、加療約10日間の怪我を負わせたというものでした。被疑者段階では、元所員の川中宏弁護士が国選弁護人として就いていたのですが、起訴後の国選弁護人として私が追加選任されました。裁判員裁判は、これまでの裁判に比して、弁護人の労力や負担が飛躍的に増大するだけに、原則として複数体制を取ることが必要です。被告人は強盗致傷の犯行自体は認めていた自白事件でしたが、初めて経験であり、かなりのプレッシャーがかかりました。

公判前整理手続

裁判員裁判では、必ず「公判前整理手続」が開始されることになります。これは、裁判員の方々が公判に参加できる日数(3日から5日程度)で集中審理ができるようにするための手続です。検察・弁護の双方が、争点を明らかにした上で主張・立証する事実と請求する証拠を事前に決めることになります。

最初に検察官から、証明予定事実と請求証拠の開示があり、これを受けて、弁護人は未開示の検察官手持ち証拠の開示を請求したところ、すべて開示されました。これまでは、検察官が請求するつもりのない証拠は開示されなかったのですから、画期的なことだと思います。検察官からの証拠開示を受けて、弁護人からも予定主張事実(情状事実)を明らかにし、それを裏付ける証拠を明らかにしました。この公判前整理手続等は4回にわたって行われ、公判は3日間(審理2日、評議1日)と決まりました。

公判

初日の午前中は裁判員の選定手続が行われました。あらかじめ裁判所が裁判員候補者リストに載っている者から一定の人数を選び、呼出状を送り、呼び出していました。介護や夜勤などを理由とする辞退申出(3人)があり、その後抽選で裁判員6名(男5、女1)と補充員2名が選任されました。

初日の午後から審理に入りました。罪状認否(公訴事実を認めた)の後、検察・弁護双方が冒頭陳述を行い、裁判で立証しようとする事実を明らかにしました。冒頭陳述は川中弁護士が担当し、情状として、(1)被告人の生育歴・非行歴-注意欠陥・多動性障害、(2)将来を約束した女性がガンで死亡し自棄になったこと、(3)反省と謝罪、そして一部被害弁償等を主張しました。情状証人として、被告人の母親に法廷に立ってもらい、被告人の生い立ちから現在に至るまでを詳しく証言しました。

2日目は、午前、被告人質問を行い、被告人の口から直接、今回の犯行に至った経緯や反省の内容、今後の更生に向けての意欲などを語りました。午後からは検察官の論告・求刑と弁護人の最終弁論でした。この最終弁論を私が担当したのですが、かなり苦労しました。これまでの裁判では、弁論要旨という書面を読んで行えばよかったのですが、裁判員裁判ではいかに裁判員に訴えるかが勝負であり、書面を読んだだけでは全くインパクトがありません。弁護士会が行っている事前研修では、ペーパーレス、身振り手振り、アイ・コンタクト(裁判員との視線による会話)など様々なことを学びました。どんなことをしゃべるかは一応書面に書きましたが、それを見ずに語りかける必要があります。1週間くらい前から練習を始め、夜な夜な事務所で大きく声を出して、何度も弁論の練習を繰り返しました。本番では、早口にならないように、わかりやすく、ゆっくりと大きな声で語りかけるように努めました。弁論を行う位置も、弁護人席ではなく、法廷の真ん中-裁判官や裁判員のいる法壇の正面に立ちました。そして、裁判官・裁判員一人一人の目を見ながら、身振りや手振りを交えて、あるいは法廷の中を少し移動したりしながら、情状を訴えました。予定は20分でしたが、実際には30分近くしゃべったようです。

判決-感想

判決は、求刑懲役10年に対し、懲役9年の実刑判決でした。実際に裁判員裁判を担当して思ったことは、これまでの裁判とは全く違い、弁護人の負担は極めて大きいことでした。市民を説得するためには、分かりやすい訴えと立証をする必要があり、そのための工夫と努力が必要不可欠です。また、裁判員になった市民の方々は、至って真面目、真剣であり、自ら積極的に参加しようという思いが感じられ、十分に裁判を担えると感じたことです。裁判員裁判の導入により、従来の自白偏重の「調書」裁判が改められ、本来あるべき直接主義、口頭主義、公判中心主義(法廷で直接供述したことが証拠になる)に回帰しつつあります。また、検察官手持ち証拠の開示が制度化された意義も大きいと思います。残るは「取調の可視化」と「保釈の早期実現」が不可欠なものとして求められています。

「まきえや」2010年秋号