まきえや

京都の山 標高ベスト10を登る 最終回 桑谷山

京都の山 標高ベスト10を登る

最終回 桑谷山(925m)

京都北山では珍しい双耳峰の山

今回は最終回-京都府下第10峰である桑谷山(くわたにやま)を紹介します。その標高は925mで、愛宕山(924m)とほぼ同じ高さです。この山の特徴は、何と言っても、京都北山山系では珍しい双耳峰(1つの山の頂上部に2つのピークを持つ山のこと-2つの耳が並んでいるように見える)でしょう。東峰と西峰(三角点峰)があり、峰定寺(ぶじょうじ)の経典が埋められたという伝説があることから、「経塚山」とも呼ばれています。この山に登るには、以前は薮漕ぎを強いられたそうですが、万博(1970年)を契機に美浜原発からの送電が始まり、その送電線が大悲山と桑谷山の間を走るように敷設され、その巡視路が尾根筋に設けられていることから、これを利用して登ると比較的簡単に登ることができます。

登山コースは、大悲山口バス停から寺谷川に沿って峰定寺方面に少し入り、桑谷林道を詰めていくコースが一般的です。

大悲山口からのアプローチ

いつものように出町柳駅前7:50発(北大路駅には8:02)の広河原行き京都バスに乗ります。バスは、鞍馬、花背峠、大布施と通過し、9:25大悲山口バス停に到着します。ここから寺谷川に沿って東に入り、峰定寺方面に行く道を進みます。10分ほどで左手に橋があり、これを渡るところが桑谷への分岐点となっています。ここから桑谷川に沿って桑谷林道を遡ります。初冬の日は、早朝霧が立ちこめて、林道が幻想的な雰囲気が醸し出されることもあります。
  桑谷林道に沿って、何度か桑谷の左岸、右岸を渡り返しながら進むと、右手に細い谷との出合いがあり、ここに桑谷山への登山口があります。桑谷山への登山口を示す標識と、関電の巡視路の表示が立っているので、見落とさないように注意しなければなりません。

桑谷林道を遡ります
桑谷林道を遡ります
桑谷山への登山口
桑谷山への登山口

まずは鉄塔をめざします

この登山道に入ると、いきなりの急登になっています。階段がつけられていて、滑るようなことはないので、モミ、イタヤカエデなどの雑木林の中をゆっくりと登っていけばよい。急坂もやがて緩やかな傾斜になってきた頃にアシウスギ(台杉)が点在するようになります。ここにも北山のアシウスギが群生しているのです。

大悲山に向かう稜線にあるアシウスギ
大悲山に向かう稜線にあるアシウスギ

アシウスギの群生地点を過ぎると、再び傾斜が急になり、あすなろの木が多くなってきます。やがて登山道は尾根の右腹に移動し、さらに東隣の尾根にトラバースしていきます。隣の尾根に入ると、再び階段が作ってあるので、これを登り切ると、最初の送電線の鉄塔が立っている台地状のところに出ます。ここが標高750mの地点です。この最初の鉄塔から南方の展望はすこぶるよい。雲取山、片波山(湯船山)、井ノ口山などの山並みを展望することができます。ここで小休止して眺望を楽しむことにしましょう。

最初の鉄塔からの展望
最初の鉄塔からの展望

東峰までは急登が続く

最初の鉄塔から北方向を見上げると、送電線が続いている先には鉄塔が3つ並んで見えます。ここから少し登ると左手に伐採地が見えてきます。この伐採地からも南と西の展望がよく、品谷山が頭をのぞかせているのが見えます。ここから上を見ると、2番目の鉄塔が立っています。この鉄塔の下に登山道は続いています。この2番目の鉄塔を過ぎたところにある小ピークがP813です。

2本目の鉄塔が間近に見えます
2本目の鉄塔が間近に見えます

3本の鉄塔が見えます

P813の左を巻くように進むと、登山道はしっかりとしていて、少し下ったあとは傾斜が急になってきます。どんどんと登っていくと、やがて尾根に突き当たります。ここが東峰です。プレートがあるのですぐに分かりますが、この右手あたりが平坦な場所になっています。ここから真っ直ぐ東に行くと寺谷峠に至るのですが、少しだけ行ったところに鉄塔があります。ここからの展望は360度パノラマが広がっています。東峰から北に通じる道は久多峠(能見峠)に下りる道です。

東峰に着きました
東峰に着きました

西峰(三角点峰)をめざす

さて、東峰からは尾根筋を通って西峰に向かいます。左手側(北)は伐採されていて、鹿よけのネットが張られており、西峰まで続いているので、ネット沿いに歩けばよい。途中で北方面の展望がよい場所があり、ここからは三国岳、天狗峠、小野村割岳などを望むことができます。

西峰に向かう稜線
西峰に向かう稜線

20分ほどで三等三角点のある西峰に着きます。山頂は小さな広場になっていますが、雑木に囲まれていて展望はよくありません。ここの三角点の点名は「長戸」で、明治23年6月10日に埋標されていますが、この標石は角が大きく削られていて痛ましい。心ない人がいるものだなと思います。それでも山頂を示すプレートがいくつも架けられています。京都バス主催の三角点トレッキングの大きなプレートが目立ちます。山頂から西の長戸谷を下り能見口におりる道もあるようですが、急坂で途中から踏み跡も消えていると聞くので、経験者以外は入らないように注意して下さい。

桑谷山の三角点(四角が削られている)
桑谷山の三角点(四角が削られている)

下りは久多峠へ

下りは東峰まで戻ります。ここからは、北に延びる送電線の巡視路に沿って下ることにします。階段状の巡視路は歩きやすい。途中で翌檜(なすなろ)の木が多くなってくる。「明日はヒノキになろう」という井上靖の「あすなろ物語」で有名な木です。なおも、下りが続くと、シャクナゲが出てくると、やがて801mの鉄塔に出合います。ここからの東の展望がよく、蛇谷ヶ峰などの比良山系が望むことができます。さらに急な下りとなり、シャクナゲの茂みの中にロープが固定されている箇所もあります。やがてヒノキの植林帯に至ると、下りてきた桑谷山の稜線が見渡せる箇所があります。なおも下っていくと、最後はアスファルト舗装道路に出てしまいます。ここが久多峠(能見峠)です。ここから能見口バス停までの車道は5kmほどあり、1時間程度の時間がかかります。ちょっと単調な下りなので最後は飽きてくるかも知れません。

801m鉄塔付近から武奈ヶ岳を望む
801m鉄塔付近から武奈ヶ岳を望む
久多峠に下りる
久多峠に下りる

大悲山をめざすオプションコース

東峰から最初の鉄塔まで戻ります。この鉄塔の東側に南に下る尾根があります。植林帯の中の道ですが、踏み跡が薄いものの、所々にテープがあり、これを目印に下って行きます。この尾根にもアシウスギが点在しています。一旦鞍部に下り、再び登り返していくと、右手から尾根が合流してきます。合流したところで、左手の尾根に進むと、間もなく大悲山に着きます。三角点もなく、地形図ではP741としか記されていないところであり、うっかりすると見落として通過してしまうかも知れません。

尾根道にあるアシウスギ
尾根道にあるアシウスギ

大悲山からは尾根は東南方面へ延びています。やがて寺域の境界を示す大木が現れると尾根は南下しますが、少し下ったところに東方向が開けた箇所があります。峰床山などが見渡せる場所です。この先は雑木林と植林地の境界線上を進むことになります。境界を示す黄色のペイントが施された境界標などがあるので、確認しながら進みます。

大悲山の山頂にて
大悲山の山頂にて

途中に大きなモミの木が立っていて、大人3人やっと囲めるほどの大きさです。やがてP665を過ぎて植林地帯に入ると、尾根道は急な下りとなっています。境界を示す黄色の印は続いていて、最後は寺谷川に沿った林道に下ります。

大きなモミの木
大きなモミの木

三本杉に立ち寄り峰定寺に帰る

林道に下りると、西に向かって歩きます。しばらく進むと、左手に三本杉への分岐があります。時間にまだ余裕があれば、三本杉に立ち寄るとよいでしょう。20分ほど支線を進むと三本杉に着きます。かなり大きな杉が3本固まって立っています。京都自然200選にもなっていて、一見の価値があります。

京都の自然200選「三本杉」
京都の自然200選「三本杉」
こんなに大きいことがわかります
こんなに大きいことがわかります

三本杉の見学を終えると、来た道を引き返します。途中、熊出没注意の案内があり、このあたりも熊が出ていたことが分かります。30分ばかり林道を歩くと峰定寺に着きます。鞍馬の奥に位置する花背峠を越えたところにある大悲山・峰定寺は、平安時代末期の1154年に山岳修験者である観空西念によって創建された寺で、境内の山全体が山岳信仰の地となっていて、奈良の大峰山に擬えて北大峰とも呼ばれています。山門前には有名な料理旅館「美山荘」があります。峰定寺からは林道をどんどんと歩いていくと、30分ほどで大悲山口バス停に戻ってきます。

峰定寺の山門(12月~3月は山門)
峰定寺の山門(12月~3月は山門)

【コースタイム】

  • (1)大悲山口(10分)桑谷分岐(20分)林道分岐(30分)鉄塔1(5分)鉄塔2(10分)東峰(20分)▲桑谷山(20分)東峰(20分)鉄塔3(20分)久多峠(70分)能見口バス停
  • (2)東峰(15分)鉄塔1(35分)大悲山(40分)P665(20分)林道出合(20分)三本杉(30分)峰定寺(30分)大悲山口バス停

【これまでの登山履歴】

(1) 2004.12.25 大悲山口-桑谷分岐-林道分岐-鉄塔1-鉄塔2-東峰-▲桑谷山(西峰)-東峰-鉄塔3-久多峠-能見口
(2) 2006.12.16 大悲山口-桑谷分岐-林道分岐-鉄塔1-鉄塔2-東峰-▲桑谷山(西峰)-東峰-鉄塔1-大悲山-665-林道出合-三本杉-峰定寺-大悲山口
「まきえや」2010年秋号