まきえや

不当な解雇通告を跳ね返して ~京都府医師会嘱託職員~

不当な解雇通告を跳ね返して ~京都府医師会嘱託職員~

「次回の更新はないよ」

Aさん(55歳)とBさん(38歳)は、いずれも京都府医師会に勤務する嘱託職員でしたが、2009年2月、事務局長から突然「今回の更新を最後にしたい。次回の更新はありません。」と通告を受けました。もともと、Aさんは、1998年6月にパート職員として採用され、2001年9月からは嘱託職員としての契約に切り替えられていました。また、Bさんも2000年12月にパート職員として採用され、2004年4月から嘱託職員として契約していました。 60歳まで働き続けることができると思っていたAさんもBさんも、突然のことでびっくりし、事務局長にその理由を尋ねたところ、「嘱託職員として60歳未満のものを雇用したのは間違いだったので是正したい。」「パート職員なら引き続き雇用してもよい。もともとパートだったところを嘱託に引き上げてあげたのだから、元に戻るだけではないか。」「あと1年あるから就職活動をすればいい。」などと驚くべき話でした。自らの間違いを是正し、正職員に処遇するというのではなく、反対に首を切るというのですから、全く納得のいくものではありませんでした。

労働組合に相談し団交へ

次回の更新はないと通告されて、AさんもBさんも、苦悩と不安の日々を送ってきましたが、京都府医師会労働組合に相談を持ち掛けました。誰が聞いても不当な話なので、こういう解雇は許せないと、組合は解雇通告の撤回を求めて団体交渉を重ねてきました。しかし、医師会は「もともと60歳未満の嘱託職員を作ったことが失敗であり、その是正を行うだけのことである。」「嘱託期間を1年延長するが、それから先は一切更新はない。これを受け入れないなら、この3月末をもって解雇とし、パート雇用もない。」「異議があるなら外部の機関でもどこでも訴えたらよい。」と開き直る始末でした。これ以上、まともな交渉ができないと判断した組合は、2010年1月京都府労働委員会に、AさんとBさんの嘱託雇用契約の打ち切りの撤回等を求めて、あっせんの申請を行いましたが、医師会は頑なに解雇通告の撤回を拒否したことから、同年2月あっせんは不調に終わりました。

仮処分申立および労働審判申立へ

あくまで解雇通告を撤回しない医師会に対し、AさんとBさんは、雇用の継続を求めて、2010年2月26日に地位保全等の仮処分命令の申立を行い、さらに同年3月1日労働審判の申立を行いました。

嘱託職員として、Aさんは8年半、Bさんは6年も勤続してきました。1年ごとに給与に関する「覚書」を交わしてきましたが、もともと嘱託職員として採用される際には、雇用期間の定めを聞いていなかったことから、AさんもBさんも正職員と同様に60歳まで働くことができると思っていました。また、医師会の理事会の議事録にも、AさんおよびBさんの採用については雇用期間の定めの記載がありませんでした。このことからしても、1年契約が毎年更新されてきたわけではないことは明らかです。従って、期間が満了したから契約は終了するという医師会の主張は成り立ちません。

仮に百歩譲って、1年の定めがあったとしても、Aさんの更新は8回、Bさんの更新は5回に及んでおり、その担当する業務も、その内容、量、拘束時間、責任の大きさなど、どれをとっても正職員と遜色のないものです。このような場合には、期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態になっており、雇用継続に対する期待にも合理性があることから、単に契約期間が満了したからといって契約が終了するわけではなく、契約を終了させることにつき、客観的な合理的な理由と社会通念上の相当性がない以上、契約を終わらせることができないことが最高裁の判例となっているのです。

医師会は解雇予告を撤回し、白旗を揚げた!

仮処分と労働審判の申立を行ったことについては、司法記者クラブで会見し、解雇の不当性を訴えたところ、新聞報道にされることになりました。そして、3月4日、医師会はAさんとBさんに対する解雇予告を撤回してきました。さらに、AさんとBさんに対する解雇予告がその心情を傷つけたことに対し、謝意を表わすとともに、「更新管理を徹底しないまま契約が数回繰り返された場合、期限のない契約とみなされると判示する昨今の判例が存在すること、および契約書(覚書)に契約期間が明確に記載されてない事実は、厳重に受け止めたいと考えています。」と表明されました。

この医師会の回答は、仮に契約期間が1年であったとしても、AさんおよびBさんの嘱託雇用契約については、これまでの契約更新の経緯に鑑みると、期間の定めのない契約と実質的に異ならない契約となっており、今後においては、客観的に合理的な理由があり、かつ社会通念上相当な場合でなければ、契約更新を拒絶することはできないこと(いわゆる解雇権の濫用法理の適用がある)を認めたものと受けとめることができます。もし、今後、AさんおよびBさんに対する解雇を行う場合には、単なる雇止め(期間満了)はできず、「解雇権濫用の法理」のいう、客観的な合理性と社会通念上の相当性が必要であることが明らかになったのです。

闘ってこそ勝利がある

これまで解雇事件をいくつも経験してきましたが、法的手続(仮処分等)を申し立てた場合に、その第1回期日前に解雇が撤回されたようなケースは覚えがありません。それほど今回のケースはひどかった、つまり解雇に正当な理由がなかったということになります。このような不当な解雇であっても、泣き寝入りになっているケースもたくさんあると思います。しかし、正当な理由のない解雇に対しては闘わなくてはなりません。闘ってこそ勝利があるのです。今回の事件は、そのことを教えてくれたよいケースであると思います。

担当弁護士 浅野 則明
谷 文彰

記者会見

2010年3月2日京都新聞

2010年3月20日京都新聞

「まきえや」2010年春号