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事件報告 残業代請求事件 ~自分がどれだけ働いているか、ご存じですか?

事件報告 残業代請求事件 ~自分がどれだけ働いているか、ご存じですか?~

大河原 壽貴弁護士 大河原 壽貴

自動車の板金修理を行う会社で、主に板金工として働いていたAさん。勤務時間は午前7時から午後6時で、間に休憩時間を1時間はさんで、1日10時間の勤務でした。しかも、その会社では、板金作業をするのがAさんしかいなかったため、午後6時の終業時間に帰れることはほとんどなく、午後8時や午後9時まで残って仕事をする毎日が続いていました。

所定労働時間でも8時間をこえれば残業

Aさんの働いていた会社では、そもそも1日10時間の勤務時間が設定されており、労働基準法の定める1日8時間を超えています。当初、会社側は「はじめから勤務時間を10時間と決めて給料を払っているんだから、それ以上に残業代を支払う必要はない」と、基本給の中に所定内労働時間分の残業代も含まれているという主張をしてきました。しかしながら、この点については「基本給の中に割増賃金(残業代)を含める場合には、割増率が法所定のものであるか否かを判断し得ることが必要であり、そのためには通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金(残業代)に当たる部分とが判別し得ることが必要である」という最高裁の判例があります。Aさんの給与明細を見ても「基本給○万円」と書いてあるだけなので、所定労働時間内の分の残業代が含まれているという会社側の主張は全く通りませんでした。

処分されてしまったタイムカード

問題となったのは、Aさんが午後6時以降も残って残業していた分の残業代でした。Aさんの会社ではタイムカードを使っていたことから、裁判所による証拠保全の手続を用いてタイムカードの写しを入手しようとしました。そして、裁判官らとともに会社に行って、社長にタイムカードを提出するよう求めたところ、社長は「タイムカードは1か月たったらすべて処分しています」と回答してきました。労働基準法109条では「賃金その他労働関係に関する重要な書類」は3年間保存しなければならないと定めており、厚生労働省もタイムカードがこれにあたることを通達で定めています。

社長がタイムカードを処分した行為は、明確な労働基準法違反なのですが、タイムカードがなければAさんの残業時間が把握できません。Aさん自身が自分の勤務時間を記録しているということもありませんでした。

「給与第一」を利用して残業代を請求

ところが、Aさんの会社では、板金工場は、塗装など他の工場や会社の事務所とは別棟になっており、警備会社のセキュリティシステムも別個に設定されていたのです。そこで、弁護士会照会という制度を利用して、板金工場のセキュリティシステムの記録を取り寄せることとしました。その記録には、板金工場におけるセキュリティシステムのセットと解除の時間が記録されており、Aさんが退勤する際にセキュリティシステムのセットを行った時間が分かることとなりました。

出勤時間と退勤時間が分かれば、当事務所のホームページでも公開している残業代計算ソフト「給与第一」にその時間を入力していけば、残業時間と残業代をきちんと計算することができます。残業代計算ソフト「給与第一」での計算結果を裁判所に提出したところ、会社側も断念し、勝利的な和解を勝ち取ることができました。

ただし、Aさんの件は、板金工場で働いていたのがAさん1人だけで、なおかつ、板金工場だけは他の職場と別にセキュリティシステムが設置されていたという、特別な状況があったことから、残業時間を把握することができたケースです。社長がタイムカードを処分していなければ何の問題もなかったのですが、残念ながら、勤務時間をそもそも把握していなかったり、記録を改ざんしたり処分したりする経営者がいるのも事実です。そういったケースでもAさんのように何らかの手がかりから労働時間が分かる場合もありますので、泣き寝入りすることなく、弁護士にご相談いただければと思います。

また、労働時間は、働く人の健康とも密接にかかわっていますので、ご自身の労働時間を何らかのかたちで記録し、把握しておくことは、健康管理という意味でもとても大切なことだと思います。

「まきえや」2012年春号