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ごぼうカット作業中の指切断事故で発生したPTSD様の精神障害を労災認定した判決(労働判例1103号70頁 国・京都下労基署長(ケー・エム・フレッシュ)事件)

ごぼうカット作業中の指切断事故で発生したPTSD様の精神障害を労災認定した判決(労働判例1103号70頁 国・京都下労基署長(ケー・エム・フレッシュ)事件)

弁護士 渡辺 輝人

経過

原告だったAさんは、事故当時60歳の女性で、野菜のカット工場でゴボウをカット・袋詰めするパート労働者でした。

 2009年1月12日、Aさんは同僚らとゴボウのカット・袋詰め作業に従事しているときに、ゴボウをカット・袋詰めする機械に詰まったフィルムを引っ張り出そうとしたとき、左手人差し指を中節骨遠位で切断する事故に遭いました。指の切断については労災と認められ、同年2月19日に症状固定しました(12級)。

Aさんは、事故直後から入院し、指をつなげる手術を受けましたが、結局、指はつながりませんでした。そして、Aさんは、入院中から、フラッシュバック(事故のことを思い出す)・回避(例えばエレベーターのドアが閉まること、エスカレーターの段が機械に収納されていくところ、包丁、はさみ、爪切り、回転する自転車の車輪などが怖い)・不眠などPTSD特有の症状を発症し、退院後も、自宅からほとんど出られない状態になりました。現在も外出はできるものの就労はできない状態です。

Aさんは精神障害についても労災申請をしましたが、不支給決定となり、2011年11月7日に再審査請求が棄却されました。

そこで、私が代理人となり、Aさんは2012年4月25日に不支給取消を求めて京都地方裁判所に提訴しました。医学的に複雑であったため、審理には2年以上を要しましたが、2014年7月3日、労基署の不支給決定を取り消す判決が出され、国が控訴しなかったため確定しました。

判決の争点と判決内容

1 傷病がPTSDか適応障害か

判決文はこの点について「左示指の切断という傷害は、激しい痛みを伴い、自らの指を失うという衝撃的な出来事であることは疑うべくもない」と述べつつ、PTSDの認定基準である「自然災害または人工災害、激しい事故、他人の変死の目撃、あるいは拷問、テロリズム、強姦あるいは他の犯罪の犠牲になること」に比肩すべき強いストレスを与えるものにはあたらないとしてPTSDを認めず、「適応障害」と認定しました。ただ、裁判所は、Aさんのフラッシュバック・回避・不眠等のPTSD特有の症状を事実としては認定しました。

2 精神障害について業務起因性の判断基準

労働者の傷病が労災であるというためには、業務と精神障害の発症の間に法律上の相当因果関係があることが必要です。

まず、判決は、因果関係の有無を考える際の基準者について「業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、当該労働者と職種、職場における立場、経験等で同種のものであって、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも特段の勤務軽減までせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきである。」として、いわゆる平均的労働者基準説を採りつつ、やや幅の広さを持たせる認定をしました。この点は、PTSDの発症について女性の方が有意に発症しやすい旨のデータをあえて提出しました。「平均的労働者」を観念すると、PTSDになりやすい女性は平均よりも劣っていることになるはずですが、その解釈はおかしなものだからです。むしろ有意に発症しやすいことは因果関係を補強する要素であるはずです。また、この間の先行裁判例を沢山提出したことが功を奏したようです。

その上で判決は「基本的には判断指針及び認定基準を踏まえつつ、当該労働者に関する精神障害発病にいたるまでの具体的事情を総合的に斟酌して、業務と精神障害発病との間の相当因果関係を判断するのが相当」としました。

3 因果関係の有無について

判決は「指の切断(3cm)、フラッシュバック、不安感、恐怖感、浅眠等に苦しめられており、フラッシュバックや恐怖感については、現在でも止んでいない。」「パートタイマー労働者であり、責任が軽かったこと、業務及びその危険性に対する心構えの程度も相対的に低かったこと」などを考慮して、心理的負荷を「強」と評価すべきことを認定し、指の切断という労災事故と精神障害の発症について因果関係を認めました。

評価

労災認定行政では、PTSDを容易に労災認定をしない、というドグマがあるように感じます。本件も本来であれば行政段階で労災が認められるべきところ、PTSDという傷病名で難色を示されたように思います。

この判決は、PTSD様の症状が発生しているときに「適応障害」の傷病名で労災認定をして救済した点で、労働者の権利拡張に資するものと考えます。勝訴後の支給手続は現在進行中ですが、訴訟で認定された具体的症状が前提にされ、傷病名で杓子定規な打ち切りがされないように引き続き注意したいと思います。

 

「まきえや」2014年秋号