あなたのために全力で 暮らしと人権を守って48年 京都最大の法律事務所(弁護士19人、事務スタッフ25人) 法律でお悩みの方はお気軽にご相談ください。0120-454-489

「ブラック企業」による元従業員への損害賠償請求を「不当訴訟」と断罪

「ブラック企業」による元従業員への損害賠償請求を「不当訴訟」と断罪

弁護士 谷 文彰

若者を使い捨てる「ブラック企業」

いま、「ブラック企業」という言葉が注目されています。サービス残業、名ばかり管理職、パワーハラスメント、過酷なノルマ、退職強要あるいは退職妨害など、法律や労働者の健康を考慮せず、労働者を使い捨てにするような会社のことをいい、特に若者が犠牲になっているようです。問題のあまりの広がりぶりに、ついには厚生労働省も調査に乗り出し、その結果、重点監督を行った事業場のうち、実に8割もの事業場に法令違反があることが明らかになりました。この中では、違法な時間外労働をさせたり残業代を払わなかったりといったケースが7割近く、過労死ラインを超えて働かせていたケースも2割以上あり、若者が「使い捨てられる」現状が浮かび上がっています。

当事務所も「ブラック企業」問題に取り組むために、若手を中心に「ブラック企業被害対策弁護団」に参加して活動を行っているところですが、このたび、こうした「ブラック企業」から不当な訴訟を提起されたケースについて、逆に「不当訴訟」であるとして会社に損害賠償を命ずる判決を獲得することができましたので、紹介します。

過重労働重点監督月間の結果

平成25年9月を「過重労働重点監督月間」とし、若者の「使い捨て」が疑われる企業等に対して集中的に監督指導を実施しました。

【重点監督の結果ポイント】

  • 重点監督の実施事業場:5,111事業場
  • 違反状況:4,189事業場(全体の82.0%)に、何らかの労働基準関係法令違反
  1. 違法な時間外労働があったもの 2,241事業場(43.8%)
  2. 賃金不払残業があったもの 1,221事業場(23.9%)
  3. 過重労働による健康障害防止措置が実施されていなかったもの 71事業場(1.4%)

(厚生労働省ホームページより)

横領をでっち上げた会社、反訴を提起した元従業員

元従業員のAさんは、1980年代にY社に入社し、経理を中心に長年真面目に業務を行ってきましたが、2008年に退職へと追い込まれてしまいました。そして、何とか新しい生活を始めようと模索し、給料は低いものの新しい仕事を見つけて頑張っていたとき、突然Y社から訴状が届いたのです。その内容は、Aさんは勤務期間中に多額の現金を横領しており、その金額は4,000万円を超えるというものでした。

しかし、Aさんはもちろん横領などしておらず、すべてY社の代表者らの指示に従って業務を行い、経理として金銭を扱う場合もすべて代表者らに渡し、記録も正確につけていました。会社としても、記録を調べればAさんが横領などしていないことは容易に理解できたはずです。というより、そもそもY社はお金をすべて受け取っていたのですから、Aさんの横領など存在するはずがありませんし、そのことは十分分かっているはずです。Y社はこれらの事実を無視し、意図的に隠してこれほど多額の請求をかけてきたのです。

経済的に苦しい中、Aさんは弁護士に依頼して毅然と闘うことを決めました。そして、Y社の請求は不当訴訟であるとして逆に損害賠償を求める反訴を提起したのです。

裁判所での闘いと高裁での不当訴訟の認定

横領で訴えられた場合、資料はすべて会社が持っていますから、元従業員が主張・立証していくことは難しいのが現状です。この事件でも当初は手持ちの資料がほとんどなく、立証にはとても苦労しましたが、第一審は、AさんはY社の指示で業務を行っていた、金銭はすべてY社側に交付していた、横領行為は存在しない、としてY社による本訴を全面的に棄却しました。しかしその一方で、Aさんの起こした反訴も棄却してしまいました。

反訴が認められなかったことについて、Aさんは控訴をすることにしました。そして下された広島高裁の判決は、Y社の主張を完膚なきまでに否定して本訴を改めて棄却し、他方でAさんの反訴を認容して、Y社に対し損害賠償を支払うよう命ずるものでした。その理由づけは至ってシンプルです。それだけ、Y社の提起した裁判が違法であることは一見して明らかだったということでしょう。

「ブラック企業」と毅然と闘うことの意義

高裁判決は、Y社から極めて高額の請求をされ長い間苦しめられてきたAさんにとって久しぶりの、そして大きなプレゼントになりました。私自身も、資料の少ない中で苦労して主張・立証を重ね、広島まで繰り返し足を運んだだけに、喜びもひとしおです。Y社は上告しましたが、完全勝利を目指して闘いを続けたいと思います。

また、この判決は、「ブラック企業」の要求を毅然と拒絶することの大切さ、毅然と拒絶していれば必ず裁判所も認めてくれるという当たり前のことを改めて示したともいえます。「ブラック企業」の不当な要求に屈することなく、労働者一人ひとりの権利と生活を護っていくために、これからも全力を尽くしたいと思っています。

「まきえや」2014年春号