まきえや

人事院で旧社会保険庁職員3名に対する分限免職処分が取り消されました

人事院で旧社会保険庁職員3名に対する分限免職処分が取り消されました

3名の処分の取消

2009年12月末に社会保険庁が解体され、2010年1月4日から政府の特殊法人である日本年金機構が発足して年金業務を引き継ぎました。その際、多くの社会保険庁職員は引き続き勤務を続ける一方、525名の職員が民間の整理解雇に当たる「分限免職処分」(国家公務員法78条4号)を受けました。

京都では、分限免職処分を受けた15名の職員(いずれも全厚生労働組合【全厚生】京都支部所属)が(1)処分取消を求めて裁判所に提訴、(2)人事院に対して不服申立(審査請求)をしていました。

2013年10月24日、(2)の不服申立に対して、人事院が判定を下し、3名の職員の分限免職処分を取り消しました。処分が取り消されたのは北久保和夫さん、中本邦彦さんともう一名の女性です。北久保さん以外の2名の方は、厚生労働省近畿厚生局への転任面接(わずか15分!)の成績が他の給与号俸が同じ転任内定者の面接成績と同等以上だったにもかかわらず、転任がなされなかったことを理由として分限免職処分を取り消すもので、他の地域の処分取消事案と同様の理由です。

注目に値する北久保さんの処分取消理由

[1] 先行する懲戒処分の取り消し

北久保さんは2000年から2002年にかけて全厚生京都支部の支部長をしていました。そのときの書記長が「無許可専従行為」をしたとして懲戒処分を受けたことに関連して、その「無許可専従行為」を「惹起した」という理由で2008年9月3日に懲戒処分を受けました。しかし、北久保さんはこの懲戒処分の取消を求めて、提訴と人事院への不服申立をし、最終的には分限免職後の2011年9月1日に人事院で懲戒処分が取り消されました。

[2] 北久保さんが日本年金機構に移籍できなかったのは懲戒処分のせい

ところで、日本年金機構への社保庁職員の移籍については、業務実態も物理的な職場もほとんど何の変わりもないのに「新規採用方式」が採られ、①日本年金機構設立委員が示した基準に基づき社会保険庁長官が面接資格のある社保庁職員の名簿を作成し、②日本年金機構設立委員がその名簿に登載された社保庁職員の中から日本年金機構の職員となるべき者を採用することとされました。

そして、①の前提として、2008年7月29日に第一次安倍内閣の下で「日本年金機構の当面の業務運営に関する基本計画」という閣議決定がされ、この中で「特に、国民の公的年金業務に対する信頼回復の観点から、懲戒処分を受けた者は機構の正規職員及び有期雇用職員には採用されない。」とされたことから、政府(直接的には厚労大臣)の監督を受ける設立委員が定めた採用基準でもそのようにされ、結局、懲戒処分歴のある北久保さんは社保庁長官が作成する上記①の名簿に登載されず、日本年金機構に移籍できませんでした。

[3] 国鉄解体時の「新規採用方式」を真似した手法の破綻

この「新規採用方式」は、実は、旧国鉄を解体し、分割民営化(実質的には「昭和の官営物払い下げ事件」と言ってよいでしょう)した際に、職員を差別採用し、国鉄労働組合等労働組合の組合員らを排除した仕組みを真似したものでした。しかし、国鉄方式での差別採用が表面上は“上手く行った”(結局は、不採用となった組合員らに対して一人平均2000万円以上が支払われる政治解決がされた)のは、職員を選別して名簿を作成する(すなわち直接違法行為の手を下す)日本国有鉄道(公社)が、JR発足後は国鉄清算事業団となり、3年後には解体して無くなってしまったため、雇用責任を追及するのが困難だったからでした。

一方、社会保険庁解体と日本年金機構発足の場合、社会保険庁は無くなっても、社会保険庁は国の一機関に過ぎないため、職員を国家公務員として雇用している国の責任が消えて無くなるわけではありません。

今回の北久保さんに対する判定は、北久保さんを名簿に登載しなかった社会保険庁長官の行為について落ち度を認め、その結果、日本年金機構に採用されずに分限免職処分としたことは「妥当性を欠く」として、分限免職処分を取り消したものです。その意味で、この勝利判定は、国鉄解体を真似して分限免職した国のやり方の破綻を示すものであり、同時に、国鉄分割民営化に抗する労働者たちの闘争が積み上げた理論的成果の延長線上に勝ち取った成果と言えます。

[4] 大阪府市の分限免職条例への警鐘

また、この判定は「国鉄解体の方式を真似すれば責任は回避できる」という安易な判断の下になされた525名に対する分限免職処分全体に対して根底から疑問を投げかける意義もあります。さらに、社保庁解体の方式を模倣して職員を分限免職処分にする条例を制定した大阪市、大阪府にも警鐘を鳴らすものと言えます。

これからも頑張ります

旧社会保険庁職員が受けた懲戒処分には、年金記録の業務目的外閲覧(例えば有名人の年金記録の閲覧)を根拠にするものが多数あります。しかし、実際には、端末のIDカードは使い回されており、他の者がそのカードを使って閲覧をしたにもかかわらず、カードの所持者が「管理責任」を問われ、懲戒処分を受けた例が多くあります。その結果、懲戒処分歴ありとして、名簿に登載されず日本年金機構に移籍できなかったのです。

このような事例をはじめ、懲戒処分歴のあるなしで名簿登載を差別されることは違法であることを、もうすぐ尋問が始まる分限免職処分取消訴訟(大阪地裁)でも徹底的に追及します。

「まきえや」2014年春号