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アリさんマークの引越社に対して訴訟を提起しました

事件報告 アリさんマークの引越社に対して訴訟を提起しました

弁護士 渡辺 輝人

2015年7月31日、名古屋地裁で、「アリさんマーク」で有名な株式会社引越社、関西地域の関連会社である株式会社引越社関西(以下「引越社」とする)を被告にした訴訟を提起しました。支援する合同労組であるプレカリアートユニオンが組織した原告は12名。請求内容は、天引きなどをされ未払いになっている賃金の請求、残業代請求、付加金請求、過去に天引きされた賃金分の損害賠償請求、慰謝料請求など多岐に及びます。全部には触れられないので、本稿では、給与からの違法な天引きについて的を絞って書きます。

業績を口実とした給与カット

引越社では、毎月の業績が目標に達しないことを口実にして、賃金総額(なんと残業代や交通費すら含む)から5%や、カット後の金額からさらに2%の賃金カットが常態的に行われています。賃金カットは業績の不調(具体的な根拠は記載されない)とともに回覧板で告知され、回覧板に閲覧のサインをしたことをもって、具体的な金額すら定かでない賃金の減額に同意したものと扱ってしまいます。サインがなくても減額してしまいます。

弁償金の天引き

引越業では、運送する荷物の破損、引越元・引越先の家屋の破損、運転するトラックの破損・事故は一定の確率で必然的に起きます。引越社では、このような必然的に起こる破損の損害賠償金を、「弁償金」名で、労働者の給与から天引きします。

これについては、まず労働者側との書面による協定がある場合に賃金全額払原則の例外を認める労基法24条1項但書の第二文を悪用し、労使協定書を作成し、この中で、天引き項目について、「労働者が特に申し出た場合」を挿入します。

その上で事故について労働者に事故の報告書を作成させ、報告書に署名押印すると、天引きに同意したことになるようです。それぞれの事故について労働者が負担すべき「弁償金」の金額は引越社が決定し、使用者からの求償の限度に関する諸判例(求償は余り認められません)を踏まえた運用とは言い難いものです。引越社のお手盛りです。

弁償金が高額(数十万円)になると、会社から独立した運営実態が見えない「友の会」が登場し、労働者は「友の会」から弁償金相当額を借り入れして会社に返済し、労働者は毎月1万円程度を「友の会」に返済するのですが、この返済についても「友の会」という項目で給料から天引きされます。

これらの返済金が高額になると、労働者は退職すら困難になり、また事故を起こせば、さらに返済すべきお金が増えます。このような状況を指して「アリ地獄」と言ったりします。

他の様々な天引き

他にも、筆者が労働者に聞いても何のためにあるのかよく分からない「共済」名で金銭を天引きし、制服代を「社販・制服」名で天引きします。さらに、多くの労働者は社内貯金に同意させられていて、これについても天引きされます。

給料明細書の不交付

引越社は、過去には紙ベースの給料明細書を交付していましたが、途中からオンラインベースのものに切り替わったため、実体のある給料明細書が交付されていないように思えます。そして、オンラインベースの給料明細は、1ヶ月ほどで削除されてしまう上、所定の場所にアクセスするのが困難であるため、労働者が給料明細を見ていない場合もあります。

退職時の「清算」

労働者が退職するときは社内貯金も返還されます。しかし、労働者に未払いの「弁償金」がある場合は、まず社内貯金から控除されるのが常態です。社内貯金は引越社がお手盛りで決める「弁償金」の担保として機能しているのです。それで足りないときは労働者が引越社に追加で支払うときもあります。弁償金の額が大きく(大きな事故を起こしたことが退職のきっかけとなることもあるようである)、すぐに返せない場合には、やはり「友の会」が登場し、労働者は「友の会」から場合によっては百万円以上を借りた形にして引越社に返済をし、「友の会」に対する返済については、入社時の身元保証人を中心に連帯保証人まで要求され、借用書が作成されます。

まとめ

入社後は長時間労働で酷使して残業代を適正に払わない一方、本稿で書いたように、本来会社が負担すべき業務遂行上の費用をひたすら労働者に肩代わりさせ、肩代わりさせた費用を給料から天引きするのです。それで足りなければ、社内貯金や保証人まで担保とします。給料額の決定過程は極めて複雑・不透明かつ一方的であり、労働者は自分の給料額の根拠を説明できません。

このような引越社の労働者の状況は、奴隷的拘束に近いものだと評さざるを得ず、また、「悪貨」が存在することで、業界全体の賃金水準を押し下げている可能性も無視できません。現在、関東・中部・関西をまたがる弁護団も既に結成されているので、引越社の責任を徹底的に追及しようと思っています。

「まきえや」2015年秋号