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ブラック企業と過労自死

事件報告 ブラック企業と過労自死~ある若者の命の補償を求めて~

弁護士 森川 明

1. ある若者の「自殺」

数年前の10月下旬の未明、ある若者が湖岸沿いの緑地帯で死亡しているのが発見されました。第一発見者は若者が関わっていた会社の関係者でした。捜査した所轄の警察は、若者は、植わっていた樹木の枝に作業用の麻のロープをかけ、これで首がつられた窒息死の状態であったことから、「自殺」として処理を終えました。

2. 遺族の無念

同居している親によれば、若者は、近年、仕事を終えて帰宅するのが午前2~3時頃になり、翌朝家を出るのは午前8時頃で、睡眠時間は毎日4~5時間程度という状態が続いていました。時には、暴力を振るわれたのか顔を傷つけて帰宅することもありました。親としては、そのような状態を見るに見かねて、何度か若者に対し、辞めたらどうかと言ったりしましたが、本人はその都度、簡単には辞められないと答えたため、それ以上強く言えませんでした。親から見ても、若者は心身ともに衰弱していっているようでした。若者は、長時間の過密な仕事によって追い詰められ、精神の健全性を保つことができず、適切な行動を選択する能力を欠くに至った結果、生命を失ったものと考えられました。親としては、自身がもっと強く働きかけて辞めさせていれば、生命を失うことはなかったのにと自分を責めました。それにしても、若者をこのように追い詰めた会社を許せないとの思いが強く残りました。

3. 請負業者か労働者かあいまい

若者と会社との基本契約書は「外注社員契約書」となっていました。しかし、「外注」(請負業者)と「社員」(労働者)とは矛盾する概念です。

若者の携わる仕事は、殆どが、会社から頼まれた清掃やビル管理の仕事でした。その会社の設備や道具を使い、会社がよそから受注した仕事を、その現場に出向いて作業していました。毎月の会社からの支払いは、まず若者が会社に請求書を出し、これに対して会社が立替分などを控除した残額を支払っていました。しかし、訳の分からない控除額が多く、手取り金額は近年では1カ月金10万円を切るほどに下がっていました。

雇用契約であれば、最も悪質なブラック企業に該当するレベルです。

4. 会社と社長への責任追及

雇用契約関係がある場合、雇用主には労働者に対する安全配慮義務があり、これに違反して働かせた結果、労働者が健康を害し、あるいは生命を失った場合、雇用主に賠償責任があることは確定した法理です。

しかし、発注業者と請負業者との間で、前者にこのような配慮義務があるとの考えが確立しているものではありません。それでも、若者は、会社の仕事を辞めることを希望していたにもかかわらず、辞められない状況となっていました。暴力もふるわれていました。このような場合は、雇用主と同じ義務が認められて然るべきと考えられました。

このような考えから、若者の親は、会社と社長個人に対して、若者の死亡による損害の賠償を求める訴訟を提起しました。

この訴訟では、予想通り、会社と社長は、若者は独立した請負業者であって、別会社から受注していた仕事も行っていた。こちらの会社の仕事が嫌であれば、何時でも辞められた筈、と主張してきました。また、若者には借金があり、これらが自殺の原因と考えられるとも主張しました。

しかし、原告の親や、親から相談を受けたことのある生活相談所の相談員の証言などから、若者が会社との関係で置かれていた立場がとても厳しいものであった実態が明らかとなりました。

このような事実を踏まえて、地裁判決は、若者は会社から日常的に「指揮監督を受けていたのであるから、契約形態が請負であったとしても、特別な社会的接触の関係に入って(おり、このような場合、会社と社長は)安全配慮義務を負っていたということができる。」として、会社と社長の配慮義務違反による賠償責任を認めました。

この判決に対して会社と社長は控訴しましたが、高裁でも棄却されました。

しかし、会社は、判決が確定した時点では、もう実態はなくなっていました。地裁判決の後、全くの別法人が設立されていました。また、社長個人の資産ももともと有力なものはありませんでした。

5. 監督署への労災申請

訴訟での審理の結果、会社と若者との関係の実態が相当に明らかとなっていました。確かに形式上は、発注会社と請負業者でしたが、実質は、使用従属関係が強く認められ、その証拠はそろっていました。会社は当然のことながら、労災保険に加入していませんでしたが、そのことは労災申請することに障害となる問題ではありません。

このため親は、今度は労働基準監督署に対して、過労自殺として労災認定の申請を行いました。監督官も、訴訟で審理された証拠類を精査し、実態に注目し、この結果、若者の死亡は労働災害であったと認定されました。

このようにして、ようやく若者の尊い生命に対する補償が得られました。

「まきえや」2015年春号