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遺留分放棄と相続放棄~ある遺言作成事件

事件報告 遺留分放棄と相続放棄~ある遺言作成事件

弁護士 大島 麻子

Aさんの依頼

最初にAさんが相談に訪れたのは、5年以上も前のことでした。Aさんは60代後半の男性で、事実婚の妻や兄弟に遺産を相続させたいというご相談でした。Aさんは約40年前に離婚しており、別れた前妻との間の息子とは全く交流がありませんでした。なお、Aさんのご両親は既に亡くなっていました。

法律上は、前妻との間の息子が唯一の相続人であり、この息子が相続放棄をした場合にはじめて、兄弟姉妹が相続人となります。また、事実婚の妻には相続権はありません。

Aさんのように、法律上の相続人以外の方に遺産をあげたい場合には、遺言を書くという方法が考えられます。ただし、配偶者や親子などの法定相続人がいる場合は、遺留分に注意が必要です。遺留分というのは、法律上、相続財産の中から必ず受け取れる一定の割合のことをいいます。経済的に依存していた家族の生活保障のためのものだとされていますが、実態に合わないという批判もあります。本件のAさんのように、経済的な支え合いがない場合でも、息子は遺留分を主張でき、遺産の4分の1を受け取ることができるのです。



相続関係図


遺留分放棄と遺言の作成

Aさんとしては、自分の死後、面識のない前妻との息子と、事実婚の妻や兄弟姉妹との間で紛争になるのは避けたいと思っていました。また、実の息子に遺産を全く渡したくないとも思っていませんでした。そこで、遺言の作成と並行して、息子に対して遺留分の放棄をお願いすることにしました。相続放棄は、実際に相続が発生してからしか行えませんが、遺留分の放棄は当事者の生前に行うことができます。手続きは相続放棄と同様、家庭裁判所で行います。

音信不通の父親からの突然の依頼に対し、息子は驚きながらも、一定の財産を生前贈与する条件で、遺留分の放棄に同意してくれました。Aさんは、今後預金を取り崩しながら生活せざるをえないため、贈与額はその時点で遺留分として想定されるよりもかなり少ない金額でしたが、息子は事情を理解してくれました。

遺言は、法律上、自分で全て手書きする自筆遺言、公証人役場で作成する公正証書遺言など、いくつかの形式があります。自筆遺言は、費用もかからず手軽に作成できる反面、亡くなった後で、本当に本人が書いたものなのかが遺族の間で争いになることがあります。Aさんの希望する遺言が、事実婚の妻と、大勢の兄弟姉妹のうち特定の人だけに遺産をあげるという内容であったこともあり、紛争を避けるため公正証書遺言を作成しました。

その後の相続放棄

ところが、本件はそれで終わらなかったのです。何年かたって、Aさんから、事実婚の妻と別れたので遺言をどうしたらよいかという電話がありました。とりあえず、前に書いた遺言を取り消す旨の遺言を自分で書くことができるとお伝えしました。遺言は、何度も書き直すことができ、法律上、最後の遺言が有効となるからです。その上で、Aさんとは、新たな遺言の内容について検討するはずだったのですが、Aさんの体調が悪化し、そのまま亡くなってしまったのです。結局、Aさんについては、公正証書遺言と、それを取り消す自筆の遺言が作成され、振り出しに戻って息子が唯一の相続人となったのです。

Aさんの晩年は、末の妹が身の回りの世話をし、葬儀などの費用も妹が負担してくれたのですが、法定の相続人でないため遺産はそのままになっていました。そこで、妹からの依頼で再度息子に連絡をとりました。事情を説明すると、息子は、今度も驚きながらも相続放棄に同意してくれ、Aさんの末の妹ら兄弟姉妹が遺産を受け取ることができました。

遺言はご本人がお元気な時に作成することから、相続が完了するまでに思いがけない出来事が起こることがよくありますが、遺留分放棄と相続放棄の両方を行うことは珍しく、印象に残るケースでした。

※プライバシー保護のため、現実のケースに若干の改変を加えています。

「まきえや」2016年春号