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超高齢社会での介護はどうあるべきか~認知症高齢者の鉄道事故から考える

超高齢社会での介護はどうあるべきか~認知症高齢者の鉄道事故から考える

弁護士 谷 文彰

1 「老老介護」が増えている現状

いまや日本は超高齢社会です。2015年9月時点での高齢者の人口は3,384万人となり、総人口の26.7パーセントを占めるに至りました。1995年の時点ではまだ高齢者の人口は1,800万人ほどでしたから、わずか20年足らずの間に1,500万人も増えたことになります。

人口に占める認知症患者の数も増加しており、厚労省の予測によれば、2025年には700万人に達し、65歳以上の高齢者の5人に1人となると見込まれています。

では、そのような方を誰が介護しているのかというと、いわゆる「老老介護」の割合が増えています。65歳以上の要介護者を同じく65歳以上の者が介護している世帯の割合は2015年の時点で51.2パーセントと、過半数を超えました。



厚労省「平成25年 国民生活基礎調査の概況」より


このようなデータからは、認知症の患者さんの介護の負担が、同じように高齢な配偶者に重くのしかかっている様子が見て取れます。もちろん配偶者に限らず、認知症の方を抱える家族の介護の負担はとても大きいのが現状なのです。

他方で厚生労働省は、「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」を発表し、認知症患者が可能な限り住み慣れた地域で生活を続けていけるようにするための環境整備を進めるとしています。認知症の方の介護を誰がどのようにしていくのか、特に「老老介護」の場合など認知症患者を介護している方への支援をどのようにしていくのかが問われており、地域・行政・国会その他社会全体で真剣に考えるべき課題となっているのです。



厚労省「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」より


2 介護者の損害賠償責任を限定した最高裁判所

そうした中で、大きな注目を集めた事件の判決が、2016年3月1日、最高裁判所で出されました。認知症の高齢者が、介護していた家族が目を離した隙に家から出てしまい、線路内に入って電車を止めてしまったため、その家族に対して鉄道会社が損害賠償を請求したというケースに対するものです。

認知症などの「精神上の障害」によって判断能力がほとんどないとされた場合、その人自身は責任を負いませんが、そのような「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」は、監督義務を怠らなかったと認められない限り、本人に代わって責任を負わなくてはなりません(民法714条1項)。そして従来、このような監督義務者の責任はとても広く認められる傾向にありました。実際にこの事件でも、一審では全額の賠償が命じられ、二審では減額されたもののやはり数百万円の賠償が命じられています。しかし、このように厳しい責任を介護する家族に負わせることが妥当なのかどうか、大きな議論となっていました。

下された最高裁判所の判決は、一審・二審の判決を取り消し、家族に賠償責任はないとして鉄道会社の請求をすべて棄却するというものでした。「責任無能力者」の配偶者や家族・親族であっても、特段の事情がない限り、その者が監督義務者にあたるということはできないと判断したのです。

この「特段の事情」というのは、最高裁判所の基準としてはけっこうハードルが高いので、家族・親族が監督義務者として損害賠償を負わなければならない場面とは相応に限定されるようになったといえるでしょう。一審・二審の各判決に対しては、家族に過度の負担を負わせるものだ、介護の現状に対する理解がないといった批判が強かったことから、その意味では妥当な結論が出されたといえます。

3 介護をすればするほど責任を負いやすくなるという矛盾

もっとも、今回の判決にも問題はあります。最高裁判所は、介護の状況などの具体的な事情からして特段の事情がある場合には責任を負う場合があると判断したのですが、そこで挙げられた要素からすると、献身的な介護をすればするほど特段の事情があるということになりやすくなりそうです。そのような結論は、かえって家族の介護を躊躇わせることにならないでしょうか。

現に被害を受けた方がおられ、その方の権利をどのようにして救済するのかということも考えなければならないため、責任無能力者の監督義務者責任の問題は非常に悩ましい問題です。簡単に答えがでるものではありませんが、介護の負担の大きさや現状をきちんと理解し、認知症の方やその家族をどのようにして支えていくのか、これからも考えていかなければなりません。

「まきえや」2016年春号