まきえや

「ドラレコは、時に凶器に、なりにけり。」 現地再現実験で逆転ヒット

1 ドラレコは、事故に備えて、必須だが…

「納得いかないんです。」それが交通事故のご相談に来られたAさんの最初の言葉だった。お話の概要は、以下のようなものであった。

  • 運送業者の業務委託を受けて小包の運送業務(自動車の運転と小包の配送)をしていた。
  • 対向車線のない、住宅街の双方向道路(東西道路)を時速20キロ程度で東進していた。
  • 事故現場の交差点(十字路)に差し掛かった時、時速を10キロ程度に減速した。
  • 南北道路の左側には、南進方向に一時停止している自動車が見えた。
  • 自分の方は一時停止規制がなかったため、そのまま東進を続けた。
  • すると、相手の車が交差点に進行してきた。
  • 自分は危険を感じ、右折するようにハンドルを切ったが衝突された。
  • 相手の任意保険会社は、自分の方に過失が2割あるというが相手は左右確認せずに進行してきたので納得できない。
  • 自分が運転していた車は運送業者から貸し出されたものでドライブレコーダー(ドラレコ)はついていない。

お話を伺って、「ドラレコが搭載されていれば過失割合の数字がもう少し詰められるのだが。」というのが最初に浮かんだ言葉だった。お話のとおりの事故態様であるとするとAさんの過失が1割なのか2割なのか微妙なところだった。ひとまずAさんの納得のいく解決ができるよう受任した。相手の任意保険会社は従前の過失割合の主張を変えなかった。そこで訴訟に踏み切ることとした。

2 訴訟では、過失割合、増加した!?

いざ、訴訟を起こしてみると、過失割合に関する相手の主張が変化し、Aさんに4割の過失があるという。「なぜ!?」と思いながら相手の主張書面を読んだ。相手は、相手の自動車に搭載されていたドラレコを開示した上、「当方は一時停止規制に適切に従った上、進行したところ、Aが交差点に進入してきたために本件事故が発生したのである。」と主張していた。確かにその映像を見ると、相手が一時停止して左右確認をして交差点に進行したところへAさんが突っ込んできたようにも見え、相手の言い分に納得できるような思いが生じた。裁判所もそれを見て、Aさんの過失を4割とする和解案を示してきた。

3 「それでもボクはわるくない」現地再現実験で逆転ヒット

この事態にAさんは心底怒りを覚えていた。この窮境を何とかするために、事故現場でAさんの自動車運転状況と相手の自動車の運転状況を再現する実験を行うことを思いついた。

再現実験をしてみると、相手の自動車が交差点で一時停止した時、その右側の角(北西の角)は大きく隅切りしてあるため、相手にはAさんの自動車が進行してくるのが非常に良く見える条件があることがわかった。この事情を踏まえた上で相手のドラレコを見返すと、ドラレコのアングルの関係でその隅切りが映っておらず、相手は適切に一時停止して左右確認した後にAさんの自動車が進行してくるように見える映像となっていることがわかった。

この再現実験を動画に収めて証拠提出し、「相手は一時停止こそしたものの、隅切りを通じてわかるAさんの自動車の進行を全く確認せずに発進した。」と主張すると、裁判所は態度を変え、Aさんの過失を2割とする和解案を示してきた。Aさんは「自分の過失は2割未満」という思いは実現しなかったがとことん議論を尽くした結果出たこの和解案を受け入れることとし、相手も態度を改めたことから和解が成立し終結した。

4 結びに 〜周防正行監督の言葉を思う

えん罪告発映画「それでもボクはやってない」で著名な周防正行監督は、取調べの可視化映像に関して「捜査官視点のカメラ映像を撮影すると、裁判官や裁判員は捜査官心理で映像を見ることになり真実の取調べ場面を見逃すことがある。」という趣旨のご発言をされたことがあると記憶している。本件もそれと同じで、一方当事者側だけのドラレコを見ると真実が遠ざかることがあることを学んだ。客観的な真実を求め、事件活動を追求することの大切さを、この事件を通じて改めて学ばせて頂いた。

「まきえや」2022年春号