日本環境法律家連盟「環境と正義」掲載

都市法制の抜本的改正~動向と重要課題(1)

都市法制の抜本的改正~動向と重要課題(第1回/全4回)

全体目次

第1.都市法制の抜本的改正の状況と重要論点について

1.はじめに

日弁連は、2007(平成19)年11月2日、第50回人権擁護大会(浜松市)で、「持続可能な都市をめざして都市法制の抜本的な改革を求める決議」を採択し、都市法制の抜本的改正を求めた(注1)。その後、日弁連公害対策・環境保全委員会(大気・都市環境部会)で検討を続け、前記決議をより具体化した意見書を現在検討中である。本稿は、この間の検討内容を素材としているが、意見にわたる部分は現段階では個人的意見である。

都市法制(注2)の抜本的改正の状況と重要論点については本号で、「建築自由の原則」から「建築調和の原則」、「計画なければ開発なしの原則」への転換を実現することが最重要課題であることについては次号で、この間国土交通省等から提示されている「エコ・コンパクトシティ」の問題点と真のエコ・コンパクトシティの実現のための視点については次々号で掲載する。

2.国土交通省の動き

国土交通省内においては、この間、次のとおり、都市計画法の抜本的改正に向けた4つの論点の検討が進められてきた。

第1の論点として、農地も含めた都市環境全域のコントロールが実現できるようにすること(計画対象地域の拡大などの検討)。

第2の論点として、より質の高い市街地の実現のための手法の構築(建築確認から建築許可へなどの検討)。

第3の論点として、透明性のある効率的な事業運営による都市計画の信頼性の向上(サンセット条項などの時間管理手法などの検討)。

第4の論点として、地方の主体性や住民参加の充実による決定・争訟手続の透明性・納得性向上(地方分権、住民参加、争訟手続の充実などの検討)。

国土交通省が都市計画法の抜本的改正を検討してきた背景としては、第1に、人口減少・高齢化社会が進展し、拡散・低密度化してきたこれまでの都市では、中心市街地の空洞化や、郊外の衰退に対応できないことが挙げられている。

第2に、地球温暖化問題に対応するためにはコンパクトな低炭素型都市構造に転換する必要があることが挙げられている。

第3に、経済社会のグローバル化による世界的な都市間競争に対応する必要があることが挙げられている。

第4に、広域合併による住民サービスの低下、周辺部の衰退、地域格差の発生等に対処する必要があることが挙げられている。

第5に、国民の価値観の多様化・技術革新・ライフスタイルの変化への対応などが挙げられている。

3.社会資本整備審議会小委員会報告書とその後の情勢

国土交通省が設置している社会資本整備審議会での検討結果として、2009年(平成21年)6月26日には都市計画制度の抜本的改正にむけた「都市政策の基本的課題と方向」(社会資本整備審議会 都市計画・歴史的風土分科会都市計画部会都市政策の基本的課題と方向検討小委員会報告(以下「小委員会報告」という。))が出され、その後、社会資本整備審議会の都市計画制度小委員会で具体化される予定であった。

小委員会報告では、今後の都市政策の方向として、1.「課題対応・問題抑制型」の都市政策から「ビジョン実現型」の都市政策への転換、2.「エコ・コンパクトシティ」の実現、3.安全で安心して暮らせるまちづくり、4.都市の国際競争力の強化と国際都市連携の推進、5.美しく魅力ある都市の実現を目標としている。

小委員会報告の時点では、2010年(平成22年)の通常国会で、前記の論点3・論点4についての改正(第1次改正)が予定されるとともに、今後数年の間に、論点1・論点2を含めた抜本的改正を検討するとされていた。

その後、9月の民主党への政権交代の下で、社会資本整備審議会での審議が中断し、都市法制改正のスケジュールに変動が生じており、今国会には、第1段階の改正案も未だ提出されていない。

しかしながら、「民主党政策集INDEX2009」の「国土交通/人にやさしい地域主権のまちづくり」の項には、次のとおり、都市法制の抜本的改正の方向性が示されている。

「現在の法体系を抜本的に見直し、建築基準法を単体規制に特化、大胆な地方分権を前提として都市計画法をあまねくすべての地域を対象とする「まちづくり法」に再編、景観・まちづくりの基本原則を明記した「景観・まちづくり基本法」を制定することなどにより、コミュニティと美しく活気あるまちの再生・保全を図ります」。

他方、既に、建築学会、都市計画学会、森記念財団などのデベロッパー関連団体など、都市法制改正に向けた提案(注3)、集会は相次いでいる。

住民・市民団体としては、2008(平成20)年7月に結成された「景観と住環境を守る全国ネットワーク」(代表は日置雅晴弁護士。)が、昨年の衆議院選挙を前に全国会議員にアンケートを実施し、11月には院内集会を開催するなど、活発な活動を展開している。

2010年に入り、民主党内で「都市・まちづくり議員連盟」が発足するなどの動きも出ている。

いずれにせよ、ここ数年の間に都市法制の大幅改正が行われることは間違いがない。

今後は、どこまで抜本的改正を実現できるかが焦点となる。

4.これまでの都市法制とその問題点の概観

旧都市計画法・市街地建築物法は、1919(大正8)年に定められたもので、公共施設の建設促進と衛生・災害防止・避難の確保といった警察規制の目的を実現するという最小限の規制を念頭においたものである。従って、まちなみ整備・景観保全といった観点はほとんどなく、かつ、中央集権的な制度となっていた。

第2次世界大戦後、市街地建築物法に代えて、建築基準法が制定されたが、その規制内容の実質は戦前の市街地建築物法を引き継いだだけのものであった。

1968(昭和43)年には、都市計画法が改正されたが、そこでも、中央集権的性格は変わらず、まちなみ整備・景観保全といった要素は、建築規制に含まれなかった。その結果、多発するマンション建築紛争や緑地開発を初めとした住環境や景観破壊に関する開発・建築紛争に、都市法制は、ほとんど有効に対応できない状況が続いた。

その後、地区計画制度の導入(1980年)、特別用途地区の追加(1992年)、景観法の制定などにより、取り得る対策のメニューは確かに増加している。

殊に、2004(平成16)年の景観法の制定により、景観保護法制の中に、文化財保護の視点だけでなく、居住の快適性つまりアメニティ確保の視点を確立することが可能となった。すなわち、景観計画や景観地区の活用により都市計画における景観保護の視点の確立を促し、住民にとって身近な普通の景観を保護するために都市計画制度を活用する可能性が広がった。しかし、景観法は、既存の都市計画法や建築基準法等を所与の前提に、縦割法制の間隙を縫って制定された景観の保全・形成目的に限定された法制度であり、かつ、取り得る対策のメニューについても建物の用途、容積率、建ぺい率などについて、本来景観の保全・形成に必要な土地利用規制に踏み込むことができないという限界がある。

そして、今なお、土地利用規制の及ばない区域が広く残され、用途地域の指定があっても現実の建築状況と比較して緩やか過ぎるため、住民や行政の取り組みにより特別な規制が実現した一部の地域(注4)を除き、無秩序な開発・建築が続いている。そして、建築基準法の集団規定の一連の緩和策(注5)がこれに拍車をかけている。

5.抜本的改正の方向性の10大要素

これらを抜本的に改正するためには、今般の都市法制の抜本的改正にあたって、次の通りの項目を含むものとすべきである。

  • (1)建築基準法の集団規定も抜本的に再編して都市計画法に統合すること。
  • (2)都市計画法の目的として、「持続可能な都市」の実現・維持を明記すること
  • (3)都市計画法における権利として、国民の「快適で心豊かに住み続ける権利」(良好な環境・景観を享受する権利を含む)を明記すること。
  • (4)マスタープランに法的拘束力をもたせること
  • (5)地区詳細計画の策定を定めること。そして、計画が定められていない地域については、現に建築物が立ち並んでいる都市地域においては周辺の建築物と調和する建築物のみが許可され、それ以外の地域では建築不可を原則とすること(「建築自由の原則」から「建築調和の原則」、「計画なければ開発なしの原則」への転換を実現すること)。
  • (6)都市計画の基本理念は、地球環境保全、景観保護、緑地保全、自動車依存社会からの転換、子ども・高齢者・障がいがある人等への配慮、地域経済及び地域コミュニティの活性化などを含む総合的・統合的な理念として定めること。
  • (7)現行建築基準法(集団規定)の建築確認制度は廃止し、開発許可と一体化させた許可制度とすること(建築基準法は単体規定に特化する)。
  • (8)土地利用規制や具体的なルール策定・個別審査の権限を市町村の権限とすること。
  • (9)都市計画及び規制基準の内容の決定並びに個別の建築・開発の審査手続への早期かつ主体的な住民参加を住民の権利として保障すること。
  • (10)行政不服審査の手続および司法審査の手続きを抜本的に改正すること。
注1 第50回人権擁護大会シンポジウム第3分科会報告書「住み続けたいまち・サステイナブルシティへの法的戦略~快適なまちに住む権利の実現に向けて~」参照。
注2 都市法制はここではその中核をなす都市計画法及び建築基準法の集団規定をいう。なお、都市法制の全体像を概説した最適書としては、安本典夫「都市法制概説」(法律文化社)。
注3 都市計画法改正~「土地総有」の提言(五十嵐敬喜・野口和雄・荻原淳司。第一法規)154頁以下。同書は都市計画法の経過及び改正の論点を網羅し、地区計画手法の利用による土地総有への展望を述べている。
注4 京都市の新景観政策(2007年9月。)実現の背景となった20年間の住民・市民の運動を詳細に集約したものとして木村万平「京都破壊に抗して」(かもがわ出版)。また、兵庫県芦屋市は全市を景観地区に指定し、本年2月、住宅地の5階建てマンション計画に対して「周囲との調和」を欠くとして全国で始めて不認定の方針を示した(2010年2月13日朝日新聞記事参照)。
注5 1994年 住宅の地階にかかる容積率制限の緩和、1997年 共同住宅の共用部分の容積率不算入、1998年 建築確認の民間開放、2002年 「天空率」の導入による道路斜線制限の緩和など。
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