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教授が倫理規定に反した行動をした

教授が倫理規定に反した行動をした!

村井 豊明弁護士 村井 豊明
化学同人刊行、「化学」2005年1月号掲載
今月の相談ある大学教授が大学当局の許可を受けずに企業の顧問や雑誌の編集委員をしたり、企業から金品の授受や飲み食い接待を受けていることが発覚しましたが、どのような措置をとったらよいでしょうか。

兼職禁止について

まず、相談の前半部分からお答えします。大学教授が大学当局の許可を受けずに企業の顧問や雑誌の編集委員をした場合、兼職禁止規定に触れるのかどうか、触れるとしたらどの程度の処分になるのかという問題です。

1)兼職禁止の規定

国家公務員法101条は、職員の職務専念義務を定めており、同103条は営利企業の役員、顧問を兼ねてはならないと定めています(103条に違反して営利企業の地位についた者は、1年以下の懲役または3万円以下の罰金に処せられます)。同じく地方公務員法35条は、職員の職務専念義務を定めており、同38 条は営利企業の役員やその他の地位を兼ねてはならず、報酬を得ていかなる事業・事務にも従事してはならないと定めています。

国立大学法人の場合、法人の役員は法律で兼職を禁止されていますが、職員は法律では禁止されていませんので、役員でない教授は、私立大学の教授と同様に扱われます。

私立大学の場合、通常は就業規則や倫理規定で兼職禁止を定めており、国公立大学でも倫理規定によってより細かく兼職禁止を定めている場合もあります。

2)兼職の承認・許可

兼職をするためには、国家公務員の場合は人事院の承認、地方公務員の場合は任命権者の許可が必要であり、民間企業の場合も通常は使用者の許可・承認が必要とされています。

3)兼職禁止の範囲

民間企業における兼職禁止の範囲について、裁判所は、勤務時間外については、本来、使用者の支配が及ばないことを考慮して、兼職禁止および範囲を限定的に解釈しています。たとえば、名古屋地裁昭和47年4月28日判決は、「会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職は、禁止規定への違反とはいえない」とし、福岡地裁昭和47年10月20日判決も、「会社の企業秩序または労務の統制を乱すおそれがなく、会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度のものは、就業禁止の対象とはならない」としています。

4)相談の事例の場合

相談の事例の場合、国公立大学の教授であれば、人事院や任命権者の許可・承認なく企業の顧問や雑誌の編集委員を行った場合、当然それらには対価(報酬)が支払われているでしょうから、兼職禁止の規定に違反することになります。国立大学や国立の教育機関の教授の場合、罰則も適用されますから注意を要します。また懲戒処分の程度も、私立大学よりも重く、出勤停止や懲戒解雇もありえます。

私立大学の教授(国立大学法人の役員でない教授も含む)の場合、大学の職場秩序に影響せず、大学教授としての職務提供に格別の支障が生じていない程度のものは、重い懲戒処分(出勤停止や懲戒解雇)の対象とはなりません。顧問や編集委員といっても月1回ぐらいの短時間の出社で足りる場合などがそれに該当します。しかし、当局の許可・承認を得ていないという点では手続き違反となりますので、戒告処分程度の懲戒処分はありえます。また逆に、1週間に2~3回の出社を必要とし、大学での授業や研究その他の職務に支障をきたしている場合は、重い懲戒処分が課せられます。

賄賂の禁止について

次に相談の後半部分ですが、企業の顧問や雑誌の編集委員としての正当な報酬以外に、企業からの金品の授受や飲み食い接待を受けている場合にそれが許される範囲に入るのかどうか、職務権限との関連でどうか、刑罰や懲戒処分はどの程度かという問題です。

1)賄賂の禁止

公務員は、その職務に関し賄賂を収受・要求・約束したときは、収賄罪として5年以下の懲役に処せられます(刑法197条)。国立大学法人の役員および職員は、刑法その他の罰則の適用について法令により公務に従事する職員とみなされますので(国立大学法人法19条、刑法7条1項)、収賄罪が適用されます。民間企業でも、通常は就業規則などで職務権限にからむ収賄の収受を禁止しています。

なお賄賂とは、公務員の職務に対する不法な報酬としての利益をいい、金銭や財物はもちろん、金融の利益、家屋の無償貸与、接待・供応、債務の返済なども賄賂となります。

2)賄賂か否かの限界事例

職務行為に対する対価と職務以外の行為に対する対価との双方が含まれていても、ある利益が不可分的に提供された場合には、全体が包括して賄賂に当たるとするのが判例です(最高裁昭和23年10月23日判決など)。

また、社交的儀礼の範囲に属する贈答は賄賂性を欠くとされていますが、問題はその範囲です。判例は、「その贈与の種類、程度、時期、趣旨、人的関係その他の諸条件を参酌して慎重に判断すべき」(福岡高裁昭和33年10月10日判決)、「当該公務の職種、公務員の地位身分、供与された利益の性質価額、および一般社会慣行等諸般の事情を基にして判断せられるべき」(東京地裁昭和33年7月1日判決)としています。

3)賄賂の収受

公務員(国立大学法人の教授も同じ)が賄賂を収受した場合は、刑法上は収賄罪に問われ、かつ任命権者から懲戒処分(多くの場合は懲戒解雇)を受けることになります。民間企業であっても、職務権限に絡む賄賂(リベートなど)を収受したことを理由にして懲戒解雇した事例があります。判例では、その金額が大きかったり、結果的に会社に損害を与えた場合には、懲戒解雇を有効としています。問題は職務権限に関連があるかどうかによります。職務権限に関連して金品を受領すれば、国公立大学の教授の場合はもちろんのこと、私立大学の教授であっても、重い懲戒処分が課せられます。

4)相談の事例の場合

相談の事例の場合、当局の承認・許可を得ていない点は別として、受け取った金品が顧問や雑誌の編集委員としての正当な報酬であれば賄賂にはなりません。ところが、その正当な報酬の範囲を超えて多額の金品を受け取っており、大学での職務行為に対する対価性がある場合(たとえば、学生の就職斡旋に対する謝礼、薬品や設備購入に対する謝礼など)は全体として賄賂と認定される可能性があります。

ただし、受け取った金品が一般常識的な範囲の中元・歳暮などの贈答である場合や職務とは関係のない人的関係で(相談事例のように企業の顧問や雑誌の編集委員としての立場で)飲食接待を受けている場合は、賄賂性はないと思われます。しかし、高額な現金の受領や高級な品物の贈与、頻繁な飲食接待や高級料亭やクラブでの飲食接待は、通常、企業側が教授の立場・職務権限に着目して便宜を図ってもらうことを意図して行うものであり、賄賂性を帯びている場合が多いといえます。過度の贈答・接待を受けるのは慎みましょう。