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論文で発表したデータが捏造であることが発覚

論文で発表したデータが捏造であることが発覚した!

浅野 則明弁護士 浅野 則明
化学同人刊行、「化学」2004年11月号掲載
今月の相談論文として発表したデータが故意に捏造されたものであることが発覚しました。この場合、どのような法的問題が生じますか?

データの捏造とは?

データの捏造は、昔からさまざまな分野において起こっていますが、最近では関西電力高浜原発で使用されるMOX燃料の検査データ捏造が発覚したり、茨城県東海村の臨界事故やプルサーマルでのデータ捏造問題が起こるなど、人命に大きな影響を及ぼすような重大な分野での発生が問題となっています。また、治験や臨床試験においても、医師あるいは製薬企業などが新薬承認申請などに自分たちの都合のよいように症例データを書き換えたりすることも従前から起こっています。大学の研究室においても、自分の研究テーマに必要な資料としてのデータを、自分の論文の結論に都合のよいようにつくり換えるようなことも起こっています。

個人のモラルが問題

大学、企業などの組織に属することなく、まったくの個人で研究・開発を行っている者として、発表した論文などにデータ捏造があった場合には、その学会や業界においてはもちろんのこと、その他の周囲からも、その個人の学業・業績、ひいては人格に対する評価が著しく低下するでしょう。研究者、開発者や教育者にとっては、データ捏造は最も基本的なモラルの欠如として評価され、以後、学者や研究者としての生命は失われるに等しいことになるでしょう。

大学や企業に在籍する場合

データ捏造を行った者が大学や企業に在籍している場合には、その組織内における処分の問題が起こってきます。企業において研究・開発を行っている者の場合、論文などの発表は当該企業活動の一環として行われるのが一般的です。そのため、万が一、データ捏造の事実が発覚すれば、当該企業の社会的信用は失墜することはもとより、場合によっては、企業に財産的損害を与えることも十分考えられます。このような場合には、企業がデータを捏造した者に対し、懲戒処分として、減給、昇給停止、出勤停止、降格あるいは解雇という処分を行うこともありえます。

また、大学の教授、助教授の場合であっても、大学人として著しく不適切な行為を行った者として、教授会あるいは評議会において、降格、懲戒免職処分などの厳しい処分を受けることが考えられるでしょう(コラム(1)参照)。大学内には、「データ捏造というのは、研究者のモラルに関わる問題であるから、ただちに懲戒の対象となるような性質の問題ではない」という意見もあるようですが、それには賛同できません。

製薬企業などにおける問題

製薬企業においては、新薬を開発するために、治験や臨床試験を医師、病院などに依頼して、症例データの提供を受けています。昔は、治験を担当する医師が、データを企業の都合のよいように捏造する見返りとして、製薬企業から多額の謝礼や研究費名目での寄付をもらったりすることが横行していたようです。医薬品の臨床試験については、従前から、「医薬品の臨床試験の実施の基準」(GCP:Good Clinical Practice)という厚生省の通達があったのですが、1997年4月から省令として改正施行されたため、法的拘束力をもつようになりました。

省令GCPでは、(1)試験者の人権保護・安全性確保、(2)治験の質の確保、(3)データの信頼性確保、(4)責任・役割分担の明確化、(5)記録の保存、などについて基準を定めています。臨床試験にかかわる医療機関、製薬企業、医薬品開発受託機関、およびその関係者が臨床試験の実施に際して、これに違反した場合には、罰則(刑事罰)が科せられるようになりました。もし、データの捏造が発覚すれば、開発中止はもちろんのこと、製薬企業に対して業務停止命令も発令されることになり、企業としては莫大な損害を被ることになるでしょう。

したがって、治験や臨床試験を依頼されている医師などが故意にデータを捏造して、製薬企業に提供し、それが発覚した場合には、製薬企業から多額の損害賠償を請求されることが考えられます。もちろん、委託者である製薬企業がデータ捏造を積極的に依頼したり、あるいは捏造されたデータであることを知っていたにもかかわらず、これを利用した場合は、損害賠償を求めることはできないでしょう。

コラム(2)にあげた製薬企業のデータ捏造事件は、新薬の共同開発に絡む紛争ですが、共同開発の一当事者が新薬の安全性を確認するうえで絶対欠かすことのできない臨床試験データを捏造したというのですから、共同開発のパートナーに対し、共同開発契約上の債務不履行責任を負うことは当然のことと思われます。

コラム

琉球大学助教授の懲戒免職事件

1995年6月、鹿児島大学連合大学院博士課程に在籍し、琉球大学農学部に所属していたアジア人の女子留学生が、博士論文の指導教官であると同時に身元保証人と奨学金の推薦人でもあったA助教授から、(1)1年3ヶ月にわたって性的嫌がらせを受け、(2)違法な実験や、(3)捏造したデータの論文への掲載を要求されたとして、那覇地方裁判所に提訴した。判決は、3点とも事実と認定し、A助教授に170万円の支払を命じた(那覇地裁 平成10年3月27日判決─確定)。判決後、農学部教授会は「教育に当たらせるべきではない」として、A助教授の懲戒免職を求める決議を行い、その後、大学は「大学人としてあるまじき行為で、社会倫理・常識に欠ける」として、A助教授を懲戒免職処分とした。

コラム

日本ケミファによるデータ捏造事件

X(日本ワイス株式会社)とY(日本ケミファ株式会社)は、鎮痛抗炎症剤を製造販売するための共同開発に合意し、Xは共同開発による製造承認申請に必要とされる最小限の各種試験研究を行い、Yは製造承認を取得するために必要な一切の試験研究をその費用負担で分担実施し、その結果をXに提供することとなっていた。XとYは、製造承認申請を行い、厚生大臣から承認を受け、それぞれ商品として販売を開始したところ、Yが分担した臨床試験の一部が捏造されていたことが判明したため、開発にかかる商品の製造承認が取り消されるとともに、製造販売の停止と製品の回収を命じられた。そこで、XはYに対し、Yが試験データを捏造してXに提供したため、Xとしては製造、販売の停止、製品の回収を余儀なくされ、多大な損害を被ったとして総額約9億円の損害賠償を請求した。判決は、Yの臨床試験データの捏造は、共同開発の合意に基づく協力援助義務に違反するものであり、Yには債務不履行があったとして、約7億円の支払いを命じた(東京地裁 平成元年2月7日判決、控訴審では4億9000万円に減額された)。