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インターンシップの学生が企業秘密を漏洩

インターンシップの学生が企業秘密を漏洩した…

大河原 壽貴弁護士 大河原 壽貴
化学同人刊行、「化学」2004年8月号掲載
今月の相談インターンシップの学生が企業秘密を漏洩してしまいました。この場合、どのような責任が発生するのでしょうか?

インターンシップとは?

インターンシップとは、文部科学省などによれば「学生が在学中に自らの専攻、キャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義されており、学生が企業などで実習・研修として実際に働いてみることを幅広く捉えてインターンシップと呼んでいるようです。

インターンシップには、大学などの教育機関にとって、(1)教育・研究内容と社会との実地体験を結びつけることで、教育・研究内容の充実を図ることができる、(2)企業などの現場で実際に働くことによって、自主性・独創性をもった人材の育成ができる、といったメリットがあるとされています。また、学生にとっても、(1)新たな学問意欲や高い職業意識が形成される、(2)就職後の職場への対応能力が身につく、などのメリットがあるとされています。こうしたことから現在では、積極的にインターンシップを取り入れて、一定期間、学生を企業などに送りだす大学が増えてきています。

企業秘密を漏洩した場合の責任は?

インターンシップにおいて、学生は企業のなかで実際に仕事の一部をこなすことになるわけですから、当然、なんらかの企業秘密に触れることになります。インターンシップの学生が、本当に重要な機密事項にまで触れることはおそらくないと思いますが、企業は技術的な秘密や取引先の情報など、さまざまな企業秘密が存在しますから、企業秘密にまったく触れないということはありえません。そのため、学生がインターンシップ先の企業秘密を外部に漏らしてしまうことが起こりうるのです。

(1)学生自身の責任は?

まず、企業秘密を漏洩してしまった当の学生は、いかなる責任を負うのでしょうか。企業秘密は、その企業にとっては重要な財産であり、これが漏洩されることで大きな損失を被ることになります。したがって、学生が故意または過失によって企業秘密を漏洩し、それによって当該企業が損失を被ったという場合は、不法行為に基づいて損害賠償を請求されることが考えられます。

また学生は、インターンシップを行うにあたって、たいていの場合、受入れ先の企業とのあいだでインターンシップにかかる契約を締結するか、もしくは誓約書の提出を求められます。そして、そこには秘密保持に関する条項が定められていますので、学生が企業秘密を漏洩することは、当然ながら契約に違反したことになります。また、仮に明文の契約がなくても、インターンシップの場合、企業が学生に対して就業体験の機会を提供し、学生は参加してその提供を受けるという契約関係が成立していることになりますので、その契約から生じる義務として、学生には秘密保持義務が課されているといえるでしょう。ですから、企業から秘密を漏洩した学生に対して、債務不履行に基づく損害賠償が請求されることも考えられます。

(2)大学側の責任は?

それでは、学生が企業秘密を漏洩してしまった場合、大学側は責任を負うのでしょうか。これはインターンシップが行われた形態にもかかわってきます。

まず、学生が独自に受入れ先の企業を探し、インターンシップを行った場合があります。たとえば企業が独自にインターンシップに参加する学生を募集し、それを見た学生が申し込む、というかたちです。この場合、学生が企業秘密を漏洩することがあっても、大学自体が責任を負うことにはならないでしょう。NGOや人材派遣企業など、大学以外の第三者がインターンシップを介している場合も同様です。

問題になるのは、大学が受入れ先の企業などとインターンシップ協定を結び、インターンシッププログラムを組んで学生を募集し、行う場合です。大学は、受入れ先の企業と協定を結ぶことになりますから、その協定のなかで、学生の秘密保持義務についても、なんらかの取り決めがなされます。

このとき、学生が秘密保持義務に違反して受入れ先の企業に損失を与えた場合には大学がその責任を負う、という条項が協定または契約のなかで定められていた場合、大学側は学生が企業秘密を漏洩した責任を負うことになります。

そうでない場合には、大学が学生の秘密漏洩の法的責任をただちに負うことはありません。ただし、インターンシップを行うにあたって、それを主催する大学には、参加する学生に対して秘密保持義務に関する指導を行う責務があるといえます。したがってそれを怠り、その結果、学生が企業秘密を漏洩し、受入れ先の企業に損失を与えてしまった場合には、大学が法的責任を負うことも考えられます。

なお、研究室の指導教官などについては、基本的に学生の秘密漏洩に責任を負うことにはならないと考えられます。ただし、研究室単位で企業と提携してインターンシップを行う場合で、秘密保持義務に関する指導を怠ったというときには、場合によっては指導教官も責任を負うことがありうると考えられます。

インターンシップ先で学生が事故にあった場合の補償は?

インターンシップ先で学生が事故にあった場合の補償については、インターンシップの学生が労働者とみなされるかどうかで変わってきます。労働者とみなされる場合には、労災保険の対象となり、さらに業務遂行性と業務起因性が認められれば、保険給付を受けることができます。

それでは、どのような場合にインターンシップ学生が労働者とみなされることになるのでしょうか。企業が独自に学生を募集し、研修生として働かせる場合(とくに、研修費などの名目でインターンシップ学生に対してなんらかの対価を支払っている場合)には、労働者性が認められやすくなるといえます。このような場合は、実際に学生アルバイトと大差ない労働実態であることが多いようです。

これに対して、インターンシップが、大学の正規のカリキュラムまたは課外活動における実習として行われている場合は、教育・研修の側面が強まる一方、インターンシップの学生の労働者性は弱くなります。ただし、実態によっては労働者性が認められることも考えられます。インターンシップの学生に労働者性が認められない場合には、労災保険給付の適用はありませんので、学生教育研究災害傷害保険などに加入しない限り、保険から補償を受けることはできません。

ただし、そのような場合であっても、受入れ先の企業に対して安全配慮義務違反に基づいて、被った損害の賠償を求めることが考えられます。安全配慮義務とは、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方または双方が相手方に対して信義則上負う義務」であり、判例でも認められています(最高裁判例 昭和50年2月25日)。

インターンシップの場合であっても、合意に基づいたうえで学生は就業体験をしているのですから、「特別な社会的接触の関係」にあるということができ、受入れ先の企業は安全配慮義務を負うことになります。したがって、受入れ先の企業が、設備などの安全対策を怠っていたり、安全のための事項に関する周知が不十分であった場合など、安全配慮義務違反が認められるのであれば、受入れ先の企業に対して損害賠償を請求し 、事故による損害の賠償を受けることが考えられます。