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学生実験中に事故

学生実験中に事故が起きた・・・

村井 豊明弁護士 村井 豊明
化学同人刊行、「化学」2004年1月号掲載
今月の相談正課の実験中に化学反応により爆発事故が発生し、学生数名が負傷しました。大学や担当教授の責任はどうなりますか。

大学にどのような責任があるの?

大学は、爆発事故によって負傷した学生に対し、民事上、次のような法的責任を負わされます。

まず第一に、大学の債務不履行に基づく損害賠償責任です。大学と学生とのあいだには、学生が入学したことによって在学契約が成立しています。つまり大学は、学生に対して施設や授業を提供する義務を負い、学生は大学に対して授業料を納付する義務や、大学の指導に従って教育を受ける義務を負っているわけです。この在学契約によって、大学は学生に対し、教育課程において学生の生命・身体に危害が生じないように万全の注意を払い、物的・人的環境を整備し、危険から学生を保護すべき安全配慮義務を負うとされています。この安全配慮義務を怠った結果、学生が負傷した場合に、大学は債務不履行に基づく損害賠償責任を負うのです。実際に大学が責任を負うか否かは、この安全配慮義務を怠ったか否かによります。この安全配慮義務の具体的な内容はあとで説明しましょう。

第二に、不法行為に基づく損害賠償責任です。国公立大学や国立大学法人の場合は国家賠償法1条、私立大学の場合は民法 715条に基づく賠償責任です。これは学生の負傷が教職員(非常勤講師も含む)の故意または過失によって生じた場合、大学は教員の使用者として損害賠償責任を負うというものです。大学の教職員は、学生に対し事故発生の予防・防止措置義務を負いますが、その義務の内容は先に述べた安全配慮義務とほぼ同じ内容となります。

教職員の責任は問われないの?

大学の教職員には、学生の学校生活について指揮監督し、学生の身体・生命の安全を確保するという職責があります。とくに、危険なスポーツや化学実験を指導する場合には、事故の発生を予測し、それを防止するための適切な措置をとる義務があります。

この義務を怠って事故を発生させ、学生が死傷した場合、その教職員は、刑事上、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われます。法定刑は、5年以上の懲役もしくは禁固、または50万円以下の罰金です。

また、その教職員には、民事上、不法行為に基づく損害賠償責任を負わされます(民法709条)。ただし、国公立大学や国立大学法人の教職員の場合、学生に対する直接の損害賠償責任を負いませんが、故意または重過失があるときは、国・地方自治体から求償権を行使されることがあります。

さらにその教職員は、国公立大学の場合は国家公務員法82条または地方公務員法29条、国立大学や私立大学の場合は各大学の就業規則に基づき、懲戒処分を受けることがあります。

安全配慮義務をどう考える?

大学の学生に対する安全配慮義務の程度・内容は、小・中・高校生の場合のように、教師が親権者に代わって保護監督する責任がある場合と異なり、比較的高い注意力、判断力、自主的活動力がある大学生を対象とするものですから、一般的には、学生の生命身体に危険が生じるような事故の発生が客観的に予測され場合に、これを未然に防止する措置を講じれば充分であるとされています。

しかし、危険な種目の体育指導や実験指導の場合には、広範囲かつ高度な安全配慮義務があるとされています。大学生でも、その危険性についての知識に乏しいとか、自らの能力によって危険を回避することができないといった事情にある場合には、そのことをも考慮して安全対策をとらなければなりません。このような場合、対象が大学生であるからといって、大学の安全配慮義務は軽減されないのです。

質問の事例の場合も、化学薬品の混合方法や扱い方を知らない、あるいは実験の作業手順を知らない学生に対し、特段の注意も与えないで実験させて爆発事故を生じさせた場合、大学と担当教授には損害賠償責任が認められます。実例に示したように、実際に、大学などに損害賠償責任を認めた判例もあります。

化学実験の事故の多くは、未然に防げたものがほとんどです。指導者は、事前に実験内容やその危険性を十分指導するとともに、実際に安全対策や作業手順が守られているかどうかを十分注視する必要があります。

過去の判例に見る実験中の事故の事例

(1)過マンガン酸カリウムと濃硫酸の混合による爆発

国立大学の学生A君は、研究室の清掃中、実験器具の洗浄液をつくろうとして過マンガン酸カリウムの固体に直接濃硫酸を混合してしまい、それによって起こった爆発で両眼を失明しました。A君はそれまで過マンガン酸カリウムと濃硫酸の混合による危険を具体的に教わったことがありませんでした。技術指導員Bには、A君の混合操作について直接注視してその安全を確認するという注意義務があったにもかかわらず、その義務を尽くさず、「(濃硫酸を)少しづつ入れてみよ」という指示を与えただけでした。このため東京地裁は、事故の発生についてこの技術指導員Bの過失責任は免れないとして、国の損害賠償責任を認めました (東京地裁昭和49年9月30日判決・判例時報758号67頁)。

(2)火薬爆発実験における爆発

国立大学研究所助手のAさんは、B教授の指導のもと、火薬の爆発を利用した極強磁場下におけるゼーマン効果の磁気分光学的実験を行なうため、その準備作業をしていました。ところが円筒形爆縮セットに充填されていた爆薬が突然爆発し、顔面挫砕骨折によりAさんは即死してしまいました。この事故は、脚線と起爆ケーブルとの偶然接触や火薬放電などによって生じたものとわかりました。B教授には実験の主宰者として、接続実験での事故を回避するために、これに先行して実施された起爆実験後の安全操作などの措置が確実に守られるよう、各措置の責任者・担当者を指定または指名する義務、また接続実験にとりかかる前にも、自ら遵守状況を確認したうえで、もしそれが履行されていないときは、起爆電源スイッチなどの安全操作をするか、あるいは各担当者に同様のことをさせるべき義務があります。仙台高裁は、B教授にこの義務を怠った過失があるとして、国に対しA助手の被った損害の賠償を命じました(仙台高裁平成7年12月11日判決・判決タイムズ911号100頁)。

(3)低温実験室内における低酸素血症

国立大学の大学院生A君とB助手が、低温実験室内で液化窒素を流下させ、気化した窒素の吸入により低酸素血症に陥って二人とも死亡するという事故がありました。液化窒素の流下はB助手が発案し、A君を呼び出して手伝わせたもので、低温実験室を事実上管理していたB助手に液化窒素の流下を中止すべき義務違反があるとして、東京地裁判決は国に損害賠償責任があるとしました(東京地裁平成8年10月15日判決・判例タイムズ966号188頁)。