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「労働災害と企業責任の追及」市民のための法律セミナー・レジュメ

労災保険制度の概要

渡辺 輝人2012年6月20日

弁護士 渡辺 輝人

第1 制度概要

1 労災保険の種類

労災には大きく分けて

  • (1) 本来の業務上の災害(業務災害)
  • (2) 勤途上の災害(通勤災害)

の二つがあります。これらは、業務上の事由や通勤による労働者の負傷、疾病、障害または死亡につき、被災者やその遺族に対して所定の保険給付を行うものです。これにはいわゆる過労死や過労自死(過労自殺)も含まれます。

労災給付を受けるには、被災した労働者あるいはその遺族から、その労働者が働いていた事業所を管轄する労働基準監督署長に対し、所定の請求書を提出することになります。会社(使用者)は、この請求手続に協力する義務がありますが、請求するのは被災者自身なので、会社(使用者)に任せておれば安心なわけではないことに注意が必要です。逆に、会社(使用者)が申請への協力を拒否した場合は、被災者が単独で請求手続をすることもできます。

労災給付の請求には時間的な制約(時効)があります。療養補償、休業補償、葬祭料は2年以上たつと、それ以前の分は請求できなくなります。障害補償、遺族補償は5年以内にしないと請求できなくなってしまいます。

2 労災保険はどのような災害・疾病に適用されるのか

労働者が被災した事由が「業務上」とされ労災給付を受けられるためには

  • (1) 労働者が労働契約に基づき使用者の支配下にあること(業務遂行性)
  • (2) 使用者の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと認められること(業務起因性)

の二つの要件を満たすことが必要です。この二つの要件を満たした場合には、相当因果関係があるとして「業務上」認定がなされます。古くは「けいわん」(頸肩腕症候群)や過労死の事案、うつ病や過労自死(過労自殺)等については、この業務起因性が問題とされる場合が多くなります。

そして、労災保険は、使用者が未加入の場合でも、適用されます。この場合、国は事業主に対し、遡って保険料を徴収することになります。また、事業所に雇用されて労働する者であれば、パート、アルバイトなどの雇用形態に関係なく、労災保険の対象となります。

3 通勤災害はどのような場合に認められるか

労働者の通勤による負傷、疾病、障害、死亡については、業務災害とは異なる通勤災害として、通常の業務 災害に準ずる保険給付がなされます。通勤災害と認定されるための通勤とは

  • (1) 就業に関し、住居と就業の場所との間を往復すること(業務と密接な関連性をもって行われる往復行為)
  • (2) その往復が合理的な経路および方法によるものであることが必要とされています。

休日に会社の運動施設を利用するために出社する場合、会社主催の任意レクリエーションに参加する場合、同僚との懇親会や送別会に参加する場合などは、就業に関するものとは認められないケースが多いようです。

友人宅に泊まってそこから直接出勤する場合、法事のために実家に泊まってそこから出勤する場合などは、住居とは認められませんが、交通事情や自然災害のため一時的に宿泊するホテルなどは住居と認められます。

通勤の途中で、飲み屋に立ち寄ったり、映画館に入ったりするような場合には、合理的な経路を逸脱したと評価されがちですが、クリーニング店に立ち寄ったり、病院で治療を受ける場合、投票所に行く場合など、日常生活に必要な最小限度の行為をする場合は逸脱・中断とはならならず、通勤災害と認められる場合があります。

4 労災保険の給付の種類と内容

下記の表のとおりです。「給付基礎日額」とは、原則として、業務上又は通勤による負傷や死亡の原因と なった事故が発生した日又は医師の診断によって疾病の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは、その日の直前の賃金締切日)の直前3か月間に その被災労働者に対して払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割った1暦日当たりの賃金額をいいます。

保険給付の種類どんなときに給付の内容
1 療養補償給付 療養給付療養の給付業務災害や通勤災害による傷病を労災病院や指定病院で療養するとき必要な療養の給付
療養の費用の支給上記以外の病院で療養するとき必要な療養費の全額
2 休業補償給付 休業給付業務災害や通勤災害による傷病の療養のため、労働ができずに賃金を受けられない日が4日以上に及ぶとき休業から4日目から1日につき給付基礎日額の60%相当額
3 障害補償給付 障害給付障害補償年金 障害年金業務災害や通勤災害による傷病が治った後に障害等級第1級~第7級のいずれかにあてはまる障害が残ったとき障害の程度に応じ給付基礎日額の313日分~131日分の年金
障害補償一時金 障害一時金業務災害や通勤災害による傷病が治った後に障害等級第8級~第14級のいずれかにあてはまる障害が残ったとき障害の程度に応じ給付基礎日額の503日分~56日分の一時金
4 傷病補償年金 傷病年金業務災害や通勤災害による傷病が療養開始後1年6か月を経過した日あるいは同日後に次のいずれにもあてはまるとき(イ)傷病が治っていないこと (ロ)障害の程度が傷病等級にあてはまること障害の程度に応じ給付基礎日額の313日分~245日分の年金
5 介護補償給付 介護給付障害(補償)年金または傷病(補償)年金のうち第1級の者または第2級の者(精神障害および胸腹部臓器の障害の者)であって、現に介護を受けているとき
6 遺族補償給付 遺族給付遺族補償年金/遺族年金業務災害や通勤災害により死亡(推定も含む)したとき遺族の数等に応じ給付基礎日額の245日分~153日分の年金
遺族補償一時金/遺族一時金(イ)上記の年金を受け取る遺族がいないとき (ロ)年金を受けている人が失権し、しかも他に年金を受け得る人がおらず、既に支給された年金の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たないとき給付基礎日額の1,000日分の一時金ただし、(ロ)のときは既に支給した年金合計額を差し引いた額
7 葬祭料 葬祭給付業務災害や通勤災害で死亡した人の葬祭を行うとき31万5,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額か給付基礎日額の60日分
8 二次健康診断等給付二次健康診断過労死などの防止のため、脳及び心臓の状態を把握するための検査等医師による健康診断健康診断に必要な費用
保健指導脳・心臓疾患の発生を予防するための医師等による保健指導保健指導に必要な費用

常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(上限104,730円)。ただし、親族等により介護を受けており介護費用を支出していないか、支出した 額が56,790円を下回る場合は56,790円。随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(上限52,370円)ただし、親族等により介護を受け ており介護費用を支出していないか、支出した額が28,400円を下回る場合は28,400円。

5 自営業者は労災保険に加入できないのか

労働者を雇用しないで事業を行う者(一人親方)は、事業主でもあり、また労働者という側面もあるため、労災保険に特別加入制度が設けられています。これは当該自営業者が所属する団体を事業主、その構成員を労働者とみなして、労災保険の対象としています。ただ、業種が、

  • (1) 自動車を使用して行う旅客・貨物運送事業(個人タクシー等)
  • (2) 土木、建築等の事業(大工、左官、トビ等)
  • (3) 漁船による水産動植物の採捕事業
  • (4) 林業の事業
  • (5) 医薬品の配置販売の事業
  • (6) 再生利用の目的となる廃棄物等の収集、選別、解体等の事業

などに限られています。また、労災が発生する前に、特別加入をしていないと、労災保険を受けられないので注意が必要です。
但し、実態は労働者なのに、会社(事業主)が勝手に「自営業者」と位置づけて労災保険に加入していない場合があります。この場合は、あなたが労働基準法上の労働者=労災保険法上の労働者であると認められた場合は労災保険の適用があり、この場合、会社(使用者)が事前に労災保険に加入していなくても労災保険の適用があります。

第2 過労死の労災申請

1 いわゆる過労死についての労災申請

長時間の残業の連続や過酷な深夜勤務等の激務で疲労がたまり、脳・心臓疾患(たとえば心筋梗塞や脳出 血)になって倒れたり、亡くなった場合、労災認定されることがあります。

厚生労働省では過労によって倒れたり亡くなったりした場合の労災認定基準について通達(2001年12月12日基発第1063号)を出していますが、おお むね、以下の場合には脳・心臓疾患と業務の因果関係を認める(業務上とする)こととしています。

  • (1) 発症直前から前日までの間に異常な出来事に遭遇した場合
  • (2) 発症前1週間に特に過重な業務に就労した場合
  • (3) 発症前の6ヵ月にわたって著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(過重負荷)に就労した場合
過重負荷については、労働時間、不規則勤務、拘束時間の長短、出張の多寡、交替制勤務・深夜勤務、作業環境、業務における精神的緊張などから判断され、 特に残業については、週40時間労働制との関係で発症前1ヵ月間の残業時間が100時間を超え、または2ヵ月ないし6ヵ月間にわたって1ヵ月当たりの残業 時間が80時間を超える場合。一方、残業時間が発症前1ヵ月から6ヵ月にわたって1ヵ月45時間未満ならば関連性が弱いとされる。

この認定基準を満たしていれば労災として認定されるケースが多くなっていますが、これを満たしていなくても業務と発症の間に相当因果関係さえあれば労災認定されるべきですし、現に、残業時間が比較的少ない事例でも、労働時間以外の業務の過重性に着目し、労災認定されるケースもありますので、疑いをもたれた 場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。

2 過労死の労災申請で重要なこと

重要なのは業務の過重性を立証するための証拠の収集です。なかでも労働時間や勤務実態を記録した証拠は 重要な証拠となります。タイムカード、業務日誌、パソコンや携帯電話等電子機器上のデータ、事業所の防犯システムの設定/解除の時刻についてのデータ、高 速道路のETCの記録など、様々なものがあります。被災後しばらくすると、会社(事業主)がこれらの資料を回収したり、破棄する場合もあります。また会社 の組織図や同僚の連絡先等の情報が重要な場合もあります。お手元にお持ちの場合はとりあえずコピーを取っておくことが考えられます。

会社(事業主)が手元の資料の隠滅をはかる可能性がある場合は会社(事業主)に対して行動を起こす前に弁護士に相談するのが良いと思います。場合により、裁判所を通じた証拠保全手続等を活用することもできます。電子的なデータで、時間とともに古いデータが消去される可能性があるものについても同様です。

また、被災後、記憶が生々しい間に、被災者の同僚の方などから被災者の勤務状況を伺っておくことが重要な場合もあります。伺った話の内容は記録をとってお くのがよいですし、重要な内容であれば弁護士も関与して陳述書等を作成することも考えられます。

3 労災申請をしたのですが労基署で不支給決定(業務外決定)がされた場合の争い方

労働基準監督署の署長がした(一部を含む)不支給決定処分に不服がある場合は、その処分通知を受け取った日の翌日から60日以内に、各都道府県の労働局の労働保険審査官に対し審査請求ができます。

さらに、労働保険審査官の決定に対し不服がある場合には、決定の通知を受け取った日の翌日から60日以内に、労働保険審査会に対し再審査請求をすることが できます。3ヶ月経過しても決定が出ないときも再審査請求ができます。労働保険審査会は東京にありますが、近年はテレビ会議システムを用いて大阪(各地 方)の労働局からも審理に参加できるようになりました。

そして、労働保険審査会の裁決に不服がある場合は、裁決の通知を受けた日の翌日から6ヶ月以内に、労基署長の(一部を含む)不支給決定の取り消しを求める 行政訴訟を裁判所に提起することができます。再審査請求後、3ヶ月経過しても裁決のない場合も同様です。

当事務所の担当した事例でも、行政段階で業務上とならなかったものが、裁判所で行う行政訴訟で不支給決定処分が取り消され、最終的に「業務上」となったも のが少なからずあります。これは行政における労災認定基準は画一的な基準によって運用されており、必ずしも個別案件の重要なポイントを拾い上げられるとは 限らないからでもあります。

第3 うつ病など精神疾患、過労自死(過労自殺)の労災申請

1 仕事上のことでうつ病など精神疾患になった場合の労災認定基準

厚生労働省は従来の認定指針を廃止して「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(基発1226第1号 2011年12月26日)という基準を策定し、精神障害に関する労災認定を行うこととしました。ここでは大ざっぱに言えば

  • (1) 対象疾病(ICD-10のF0 0F4に分類される精神障害)を発病していること
  • (2) 対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
  • (3) 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと

の要件を全て満たす場合に、その精神障害を業務上のものと認定します。なお、対象疾病の認定については相対的な側面もあります。

この認定基準が作られたことで、従来よりも迅速に精神疾患の労災認定がなされることが期待されます。しかし、この基準も十分なものとは言い難く、引き続き批判的な検討もなされ、基準に合致しない事案でも労災認定がなされるべき事は変わりありません。

2 過労自死(過労自殺)の場合でも労災認定されることはありますか?

過労自死(過労自殺)については、上記「業務上」の精神障害になった上、それによって、正常の認識、行 為選択能力が著しく阻害され、又は自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態で自死(自殺)に至った場合に、業務上の災害として認定されます。

当事務所では、過労自死(過労自殺)の事案でも、労災認定を勝ち取り、会社(事業主)の責任を認めさせた経験があります。

以上