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「これで安心!相続の仕方」 市民のための法律セミナー・レジュメ

わかりやすい相続の知識

尾﨑 彰俊

弁護士 尾﨑 彰俊

第1章 相続って何?

1 相続はいつから始まるの?

(1)相続の開始は、被相続人の死亡時です。

Q1 生前に相続することはできませんか?
→A できません。生前の財産移転は「贈与」となり、年間110万円を超える贈与については贈与税がかかります。但し、この贈与税額は、65歳以上の親から20歳以上の子への贈与の場合に、贈与税の相続時精算課税制度という方法で精算される制度があります。

(2)行方不明の場合の相続

Q2 父は25年前に妻子を残して行方不明になりました。父名義の不動産を相続することはできますか?
→A 家庭裁判所に失踪宣告を申立てることができます。最後の生存確認時から7年経過した失踪期間満了時点で死亡したものとされ、相続が開始します。

第2章 相続人の範囲と相続分

第1 相続人になるのはどんな人?

1 配偶者相続人

配偶者は常に相続人となる。

Q1 内縁の妻の場合は相続できるのですか?
→A 配偶者とは法律上の配偶者です。
したがって、相続人にはなれません。他に相続人がいない場合に特別縁故者としての分与の申立てはできます。遺言で遺贈してもらう方法があります。

Q2 離婚した場合は相続できますか?
→A できません。

2 血族相続

血族相続には順位があります。

(1)第1順位 被相続人の子

Q1 胎児にも相続権はありますか?
→A あります。生きて生まれた場合は、相続開始時に生まれていたものとして扱われます。

Q2 養子の場合は養親からも実親からも相続できるのですか?
→A 両方から相続できます。養子も実子も「子」としての相続人です。但し、特別養子の場合は実親からは相続できません。

Q3 被相続人の子が相続の開始以前に死亡していた場合はどうなりますか?
→A 相続人の子が代襲相続します。
例えば、相続開始以前に被相続人の長男が死亡していて、長男に子供が3人いる場合には、長男の相続分は、長男に代わって(代襲)その3人の子供(被相続人からみて孫)に均分相続されること。

(2)第2順位 被相続人の直系尊属

父母がなく祖父母が存命の場合には、祖父母が相続人になります。

(3)第3順位 被相続人の兄弟姉妹
(4)こんな場合はどうしたらいい?

Q1 親に暴力をふるい、親の財産をくいつぶした次男は相続人からはずせませんか?
→A 民法891条は相続人の欠格事由を定めています。殺人(起訴が必要)や詐欺・強迫による遺言作成など、理由は極めて限定されています。
さらに相続人の廃除という制度があり(同892条、893条)、家庭裁判所に申立てるか、遺言ですることが出来ます。これも、子が親を虐待するとか、重大な侮辱を加えたとか、その他著しい非行があったことが要件となります。一般的には、遺言で次男の相続分をなくすことが考えられますが、遺留分減殺請求権はあります。

Q2 父親が亡くなりましたが、兄が偽物の遺言書を作っていました。兄は相続人から外れますか?
→A 民法は相続秩序を侵害する非行をした相続人の相続権を法律上当然に剥奪することを定めています。5つの場合があります。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

第2 相続分はいくら?

1 相続分とは

共同相続において、各相続人が相続すべき権利義務の割合

2 法定相続分(1981年1月1日以降)
(1)配偶者と子が共同相続人である場合

→配偶者1/2、子は1/2を均分(子への代襲相続あり)。

(2)配偶者と直系尊属が相続人である場合

→配偶者2/3、親は1/3(両親とも健在であれば各1/6)。

(3)配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合

→配偶者3/4、兄弟は1/4を均分(子への代襲相続あり)。
 同順位の共同相続人が複数いる場合には、各共同相続人の相続分は均等になります。半血の兄弟姉妹がいる場合は異なります。

(4)違憲判決

結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続分を嫡出子の半分と定めた民法の規定が、法の下の平等を保障した憲法に違反するかが争われた2件の家事審判の特別抗告審で、最高裁大法廷は14裁判官全員一致で、今年の9月4日、規定を「違憲」とする初判断を示しました。すでに決着済みの同種事案には「この違憲判断は影響を及ぼさない」と言及しました。

3 法定相続分と異なる分割をしたい場合

法定相続分と違う分割をしたい場合は、遺言を書いておくことが最良の方法です(ただし遺留分があります)。

第3章 被相続人に遺言があった場合

まず、「遺言」として法的形式が必要です。

また、1年以内に遺留分減殺請求が行使されなければ、遺言通りに相続されます。但し、相続人間の全員の合意で、遺言と異なる内容の遺産分割協議を成立させることは可能です。

第4章 遺産(相続財産)の範囲

第1 相続財産になるものは何?

1 一切の権利義務

動産や不動産、債権・債務、法律関係や法的地位も含まれます

2 具体的には
(1)不動産(土地、建物)
(2)預貯金
(3)現金
(4)株式
(5)賃借権(借地権・借家権)

借り主の地位は相続人に承継されます。
内縁配偶者も相続人が相続した借家権を援用して明け渡しを拒むことができます。

(6)債務(借金・保証人)

法定相続分に応じて債務を相続する。負担割合を変更するには債権者の同意が必要。

(7)香典

香典は遺族への贈与なので相続財産には含まれません。

(8)死亡退職金

職場の退職手当に関する規定が民法の相続人の規定と異なる定め方をしている場合には、死亡退職金は遺族固有の権利となる。

(9)生命保険

原則相続財産ではない。しかし、受取人の指定がない場合は相続財産である。指定された受取人は保険契約の効果として保険金を取得する。但し、相続税の対象となる。

第5章 具体的相続分

第1 特別受益

Q1 父が亡くなりました、兄は父の生前から父から多くの贈与を受けています。兄が作った借金も父が代わりに支払いました。これらのことは相続財産を決定するうえで考慮してもらえるのでしょうか?
→A 考慮してもらえる場合があります。

1 特別受益

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け又は贈与を受けた者があるときは、その価額を加えたものを相続財産とみなし(「みなし相続財産」)、相続分の中からその価額を控除した残額をもって、その者の相続分とする(903条1項)。

2 特別受益の内容
(1)遺贈
(2)生前贈与
(3)高等教育費用・留学資金

被相続人の資産、社会的地位などに照らして相当の範囲内のものであれば、生計の資本としての特別受益には当たらない。兄弟姉妹間で著しい不公平が生じる場合には、特別受益にあたる。

(4)債務の支払い

多額の債務を支払っている場合は当たる。

(5)土地・建物の無償使用による利益
(6)生命保険金・死亡退職金

特別受益にはならない。
相続人の間で著しい不公平がある場合には特別受益となる。

第2 寄与分

Q1 父が亡くなりましたが、私は10年以上父の介護を続けてきました。仮に、私が介護せずにヘルパーの方を雇っていたら、父の財産は減少していました。私が父の介護をしたことは考慮してもらえるのでしょうか?
→A 考慮してもらえる場合があります。

1 寄与分

共同相続人の中に、被相続人の事業に関する労務の提供、財産上の給付、被相続人の療養看護、その他の方法により被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与をした者があるときは、寄与分を控除したものを相続財産とみなし、相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする(904条の2)

2 寄与分の要件
(1)寄与した者

相続人に限られる

(2)寄与の態様

①被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付
②被相続人の療養看護

第6章 相続の承認と放棄

第1 相続人の選択権

1 相続放棄

Q1 父が無くなり相続人となりました。でも、父には借金があるため相続したくありません。どうしたらいいでしょうか?
→A 相続を放棄することができます。

(1) 相続放棄-相続人となることの拒否
(2) 要式行為-熟慮期間内に家庭裁判所に申述する必要がある(938条)

*1 書面または口頭で(家審規3条)-通常は書面(定型書式)
*2 相続開始地の管轄裁判所
*3 申立手数料800円、予納郵便切手80円×5枚
*4 添付書類-申立人、被相続人の戸籍(除籍)謄本

(3) 放棄理由-問わない(債務超過、生前贈与、生活安定、遺産僅少等)
(4) 放棄効果-初めから相続人でなかったことになる
(5) 相続開始前の放棄-無効

ただし、家裁の許可(1043条1項)により、相続開始前の遺留分の放棄の手続きで放棄できる。

Q2 相続開始を知ったときから1年後に多額の借金のあることが判明した場合、相続放棄はできませんか。
→A 相続放棄できる場合があります。
相続開始当時、被相続人に借金がないと思っていたところ、熟慮期間経過後に借金の存在が判明したような場合です。このような場合まで相続債務を引き受けさせるのは酷と考えられ、現在では、相続人が債務を含めて相続財産が全くないものと誤信したために相続放棄の手続をとらず熟慮期間を徒過してしまった場合には、被相続人の生活歴、被相続人と相続人の間の交際状態その他諸般の事情から見て、相続人がそのように誤信したことにつき相当な理由がある場合には、債務の存在を認識したときから熟慮期間が始まるとされています(最判1984.4.27)。

2 限定承認

Q1 父には借金がありますが、預貯金もあり父の財産がプラスになるかマイナスになるかわかりません。このような場合、どうしたらよいでしょうか?
→A 限定承認することができます。

(1) 相続財産の範囲内で、相続債務や遺贈を弁済すること(有限責任)

プラスの財産でマイナスの借金等を弁済し、①残余があれば、相続人が取得し(遺産分割は必要)、②残余がなければ、それ以上に債務等を負担する必要がない-つまり不足債務を相続人個人の債務として弁済する必要がない。

(2) 要式行為、熟慮期間⇒相続放棄と同じ
(3) 共同相続人全員(放棄したものは除く)で行う必要がある(923条)

*共同相続人の一人が単純承認した場合⇒他の共同相続人は単純承認するか、相続放棄するかの選択になる

(4) 限定承認後の手続

ア 相続財産管理人の選任(936条1項)
 共同相続人の中から選任される
イ 相続債権者および受遺者に対する公告と催告(927条)
 公告-相続財産管理人選任後10日以内(通常は官報公告)
 催告-知れたる債権者に対し、通常内容証明郵便で行う
ウ 相続財産の換価・評価
 原則競売(932条1項)
 競売によらない場合-損害賠償の責任(934条1項)
エ 弁済
 ①優先債権者、②申出(知れたる)債権者、③申出(知れたる)受遺者、④その余の債権者、⑤その余の受遺者
オ 不当弁済の責任(934条1項)

*限定承認を選択する場合は、手続が複雑であり、場合によっては損害賠償責任を負うことがあるので、弁護士に依頼した方がよい。

3 単純承認
(1) 法定単純承認(921条)-確定的、包括的に相続財産・債務等の一切の権利義務を承継する(無限責任)
(2) 単純承認の原因

① 熟慮期間内に相続放棄も限定承認もしなかった場合

② 相続財産の全部または一部の処

*1 保存行為は除外
*2 形見分けはどうか
*3 相続財産から葬儀費用を支出した場合
*4 生命保険金の受領

③ 相続放棄、限定承認後の相続財産の隠匿、処分、財産目録への不記載

*1 限定承認後に共同相続人の一部にあった場合(937条)

第7章 相続人の不存在

1 相続人の不存在とは⇒相続人のあることが明らかでないとき(951条)

2 相続財産法人の当然成立

3 相続財産管理人の選任請求(952条1項)

利害関係人(例えば、相続債権者、受遺者、特別縁故者)からの請求により、家裁が選任する-通常は弁護士が選任される

4 相続財産管理人選任後の手続

(1) 相続債権者・受遺者に対する公告・催告(957条1項)

2か月以上の期間をおいて、官報により公告し、知れたる者に対しては個別に催告する

(2) 相続債権者・受遺者に対する弁済(957条2項)

限定承認の場合と同様

(3) 相続人捜索の公告(958条)

6か月以上の期間をおいて、官報により公告する

(4) 相続人等の失権(958条の2)
(5) 特別縁故者への財産分与(958条の3、1項)

相続人捜索の公告期間満了後、3か月以内に家裁に請求する

特別縁故者とは、
① 被相続人と生計を同じくしていた者
  内縁の配偶者、事実上の養子、継親子、子の妻、伯叔父母
② 被相続人の療養看護に努めた者
③ その他被相続人と特別の縁故があった者
*分与財産の範囲や程度⇒家裁の判断による

(6) 国庫帰属(959条)

相続で争いが生じた事例から

奥村 一彦

弁護士 奥村 一彦

第1 相続人かどうか

1 欠格事由の問題

公正証書の隠匿はありうるか(民法891条)

2 廃除

親の財産を費消、横領、強要等の行為を繰り返した事例(同法892条)

第2 遺産の範囲

1 預金債権だけが残されている場合

金銭その他の可分債権は、実体法上は、相続開始と共に法律上当然に分轄されて各相続人に帰属する(最高裁1954年4月8日)。

→ 遺産分割不要。各人が手続きをする。しかし、実務上は不動産などと一緒に協議の対象とされることが多く、実務上は裁判所でも預金債権だけの場合も全員が同意すれば申立を受け付けている。

→ 銀行実務的にも「共同相続人の一人が、一定の根拠を示して、遺言がないこと、相続人の範囲に争いがないこと、遺産分割協議が整わない事情を説明したときは、金融機関としては法定相続分に応じた払戻請求に応ずるべきである」(東京地裁1996年2月23日)としている。

→ 残る問題は、相続人中に特別受益を受けている者がいる場合の公平な相続ができない点である。判例はない。

2 現金

現金は、被相続人の死亡により他の動産、不動産とともに相続人らの共有財産となり・・持ち分を取得するだけであって・・遺産分割の協議が成立していない以上、法定相続分に応じた金員の支払を求めることはできない(最高裁1992年4月10日)。

→ ごく当然の原則。

3 定期預金の期限前解約請求

一部の共同相続人による法定相続分に応じた預金払戻請求は、遺産分割協議の成立の余地が無い場合には認められ、年6分遅延損害金を請求しうる。定期預金の期限前解約は、原則として金融機関の承諾なくして一方的意思表示では認められない(東京地裁2005年12月15日)。

→ 定期預金の解約制限は銀行の利益であるから。

4 定額郵便貯金が通常貯金となり10年が経過して睡眠貯金となった

分轄払戻はできない(東京地裁2001年8月31日)。

→ 郵便貯金法で睡眠貯金(通常貯金に移行して10年間出し入れ等がなかった預金)は「貯金の預入又は一部払戻の取扱いをしない」となっている

5 保険金請求権

受取人を「被保険者の死亡の場合はその相続人」と約定し・・氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも・・被指定者を保険契約において「被保険者またはその死亡の場合はその相続人」と約特定しうる以上、このような指定も有効である(最高裁1965年2月2日)。

→ 生命保険金は、指定があれば固有の権利であることは確立している。相続の対象ではない。「その相続人」という記載も指定であり、従って、遺産ではない。

6 高度障害保険金請求権

相続人の一人が・・高度障害保険金を受け取った場合、その保険金は保険契約に基づくもので、被相続人の遺産にならない(東京地裁2007年1月23日)。

→ 障害者本人の受け取るべき保険金ではない。

7 死亡退職金

相続財産には属さず、退職金支給規程に定められた受給権者である遺族固有の権利(最高裁1980年11月27日)。

→ 遺族の扶養の意義があるから。

8 財産分与請求権

意思表示された後は一般の金銭債権と同様相続される

9 扶養請求権

審判により形成された扶養料は純然たる金銭債権

10 遺産からの収益

相続開始から分轄までに遺産から生じた果実は、当該遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分轄単独債権として確定的に取得し、後になされた遺産分割によって影響されない(最高裁2005年9月8日)。

→ 不動産に帰属するものではない。

11 祭祀の承継者と相続財産の範囲

墳墓に含まれる墓地の範囲は、墳墓と密接不可分な関係にある範囲に限られる(その他は相続財産)。

祭祀承継者は、被相続人が仮に生存していたとすれば、その候補者に指定していたであろう者が同承継者に指定されるべきである。

12 2015年1月1日より相続税計算がかわります。