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ヘイトスピーチに名誉棄損罪を初めて適用して起訴

ヘイトスピーチに名誉棄損罪を初めて適用して起訴

2018年5月11日
弁護士 谷 文彰

京都地方検察庁は、4月20日、朝鮮学校に対してヘイトスピーチを行って学校法人の名誉を傷つけたとして、「在日特権を許さない市民の会」(在特会)元幹部を名誉棄損罪で起訴しました。

ヘイトスピーチにはこれまで法定刑の軽い侮辱罪(刑法231条。「拘留又は科料」のみ)が適用されたことがあるだけで、より重い名誉棄損罪(刑法230条1項。「三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金」)が適用されるのは初めてのことです。

今回の事件は2017年4月23日に起こりました。「在特会」「朝鮮学校」「ヘイトスピーチ」といえば、2009年から2010年にかけて、在特会が当時の京都朝鮮第一初級学校前で子どもたちの在校中にヘイトスピーチを行い、大きな被害を引き起こした場所。それから約7年。民事訴訟(在特会らに対して合計約1220万円の賠償を命ずる判決が確定)や刑事訴訟(威力業務妨害罪と侮辱罪で有罪)でヘイトスピーチに対する厳しい判断が示されたにもかかわらず、再び同じ場所で同じようなことが起こってしまったのです。

元幹部は、拡声器で「ここにね、日本人を拉致した朝鮮学校があった」「この朝鮮学校は日本人を拉致しております」「この・・・横に、その拉致した実行犯のいる朝鮮学校がありました」などと述べ、その様子を今回も動画で撮影してインターネット上にアップロードしました。

事件を把握した私たち弁護団は、すぐに再結集して動き出します。2017年6月に告訴状を提出し、検察官らとも折衝して名誉棄損で起訴するように働きかけました。そうして、初めてヘイトスピーチを名誉毀損罪で起訴するということになったのです。

名誉毀損罪は侮辱罪よりも法定刑が高く、重い罪ですが、その分だけ成立のハードルも高いといわれています。しかも、2009年・2010年と今回とを比べると、発言内容や行為態様においてむしろ前回の方が悪質な面もありました。それでも今回、より重い名誉毀損罪が適用されたのは、さまざまな「変化」があったからです。警察庁が2014年版「治安の回顧と展望」で在特会らによる「違法行為の発生が懸念される」と指摘し、多くの地方自治体で法規制を求める意見書が採択され、国連の人種差別撤廃委員会から繰り返し日本政府への勧告が発せられたことなどを受け、2016年にはヘイトスピーチ対策法が成立しました。警察庁もヘイトスピーチに厳しく対応する旨の通知を発していますし、現在は各自治体でも条例などの制定に向けた動きが活発化しています。このように、ヘイトスピーチというものの存在やその被害の重大さなどについて認識が深まっているのです。

今回、検察が名誉毀損罪を適用してヘイトスピーチに対する厳しい姿勢を示したことは、こうした変化を後押しするとともに、ヘイトスピーチを抑止する効果も期待できます。これを契機として、どうやってヘイトスピーチをなくしていくのか、法規制はどのようにあるべきかといった議論がますます進むことを願ってやみません。