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賠償金の支払いは一括払いでなく定期金払いでもよいか?最高裁の出した結論は…

1 最高裁判決

交通事故に巻き込まれてしまった場合、後遺障害が残ることがあります。交通事故ですから基本的に損害賠償が認められることになりますが、後遺障害の逸失利益部分について、一括ではなく定期払いを認める判決が、2020年7月9日、最高裁判所で言い渡されました。

定期払いを認める初めての最高裁判決ですので、ご紹介いたします。

2 事案の概要

事案は交通事故で、当時4歳の男の子が路上でトラックにはねられ重い障害が残ったという痛ましい事案です。

交通事故ですから、裁判における争点は損害額や障害の程度、過失割合など多岐にわたっていますが、最高裁判所での審理のテーマとなったのは、逸失利益に関する損害賠償金の支払方法についてです。通常の損害賠償請求訴訟では、「金〇〇円を支払え」と一時に一括して支払うよう命ずる判決が下されるのですが、これを、例えば「令和○年から令和〇年まで毎月末日限り○○万円を支払え」という形で命ずることができるか(=定期金賠償を命ずることができるか)ということになります。

3 損害賠償金の支払方法に関する法律の定め

民法上は、実は損害賠償金の支払い方法については特段の定めがありません。「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。」(民法417条)という規定があるくらいです。

他方で、民事訴訟法には、定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えについての条文があります(民訴法117条)。同条は、変更を求めることができる場合について「後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合」を挙げており、後遺障害については明文で定期金賠償が許容されているともいえます。

4 最高裁判所の判決内容

最高裁判所は、以下のように述べて正面から逸失利益部分についての定期金賠償を認めました。

「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念(注:「不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補塡して、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、また、損害の公平な分担を図ることをその理念とするところである。」)に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解される。」

5 定期金賠償のメリット

いくつかありますが、一番大きなメリットは「中間利息控除」がないことです。一括賠償の場合、対応する期間の利息を控除した形で賠償額が定まるため、大きな減額を受ける場合があります。

例えば本件では、逸失利益について、529万6800円を基礎収入とし、約49年間についての逸失利益が認められています(具体的な期間は平成32年9月から平成81年8月まで。いずれも第一審である札幌地裁平成29年6月23日判決より)。また、過失相殺として2割の減額があります(同)。そのため、529万6800円から2割減額した423万7440円の49年分で約2億0763万円が逸失利益となりますが、一括払いの場合、「中間利息控除」により、実際に支払われる金額は約7698万円となってしまい、約1億2300円もの減額となるのです。

定期金賠償であればこうした「中間利息控除」が行われないため、減額前の約2億円を最終的には受け取ることができるわけです。

6 定期金賠償のデメリット

デメリットもいくつか考えられます。

(1) 加害者側との関係が長く続く

一括払であればその支払いがあれば関係性は終了しますが、定期金賠償の場合は支払いの終期まで関係が続くことになります。裁判で区切りを付けて次へと踏み出していく方もおられますが、そういうことがしにくいかもしれませんし、(3)で述べるような形で裁判が続く可能性もあります。

ただし、支払いという関係性だけであれば、将来介護費用を請求する場合は問題なく定期金賠償が認められていますので、その場合には別途新たな負担が生ずるということはありません。

(2) 将来支払いが滞る可能性がある

保険会社がついていれば大きな心配はいらないかもしれませんが、支払義務のあるものが倒産その他資力の問題を生じるなどの事情により、支払いが滞ってしまう可能性があります。例えば50年間、相手方が存続しているかどうか・・・(保険会社がそう簡単に倒産等することは考えにくいですし、万が一ときにも被害救済が担保されるような仕組みを執るとは思いますが)。

例えば一個人との関係で定期金賠償を選択することについては、支払いが滞るリスクを十分考慮する必要があります。

もっとも、この点についても将来介護費用を定期金方式で請求する場合には同じことなので、別途新たなリスクを背負うということにはなりません。

(3) 将来の事情変更により減額される可能性がある

民事訴訟法が定期金による賠償を命じた確定判決の変更を求める訴えについての条文(民訴法117条)を設けているように、加害者側に障害の状態などを長く観察され、場合によっては再度裁判を起こされる可能性があります。一回の裁判で終わらない(かもしれない)という負担は十分考慮すべきだと思います。

実際本件でも、原判決である札幌高裁平成30年6月29日判決では「本件における・・・後遺障害逸失利益については、将来の事情変更の可能性が比較的高い」と言及されています。判決では労働能力をすべて喪失したと判断されていますので、「将来の事情変更の可能性」というのは回復する方向としか考えにくく、保険会社からの裁判に対応しなければならなくなる可能性が比較的高いといえそうです。

7 おわりに

今回、最高裁判所は正面から定期金賠償を認めました。被害者側の選択肢を拡げ、多様な救済を認めるものとして評価できますが、とはいえデメリットのことを考えるとすぐにこの方法が増えるかどうかは未知数です。

万が一交通事故の被害に遭われ、重い障害が残ってしまうようなことがあった場合、一括払によるのか定期払いを求めるのか、よくご相談を頂ければと思います。