弁護士コラム

働きすぎの巻

働きすぎの巻

前回、私は、サラリーマンから弁護士に転職したと書きました。働いていたのは、中堅のとある団体でした。圧倒的に女性の多い職場でしたが、その大部分はパートでした。パートは通常1日3~4時間の勤務ですが、主だった部署には1日6時間勤務のパートがいて、「ロングパート」という矛盾に満ちた名称で呼ばれていました。彼女たちは日常的に残業していたので、現実の勤務時間は正社員とほぼ同じ、ただ配置転換はないことになってました。実際には異動するパートもいたし、正社員でも、経理の担当など、異動しない人も少なからずいましたが。

私はといえば、けっこう頻繁に異動していたので、そのたびに、一からスタートしなければなりません。そんなとき頼りになるのは、このロングパートでした。職場滞在歴の長い彼女らは、業務の隅々まで知り尽くしており、非常に頼りになりました。それだけに、彼女たちの給料が、入って何年目かの私の半分にも満たないことを知ったときは、衝撃でした。

他方、男性のパートは1人もいませんでしたが、代わりに「職位3」と呼ばれる正社員が相当数いました。正社員の職位は0からはじまり、3以上になると、相当額の職位給が出る代わりに残業代が払われないという仕組みになっていました。この制度、残業手当が支払われる分、「職位2」の方が、受け取る給与額が多いなんていう矛盾も抱えていました。しかしながら、間違っても職位3は、「残業代出ないんだから定時で帰らなきゃ損」などとは考えないようでした。むしろ職位3は、たばこ吸ったり、お茶飲んだり、適度にサボりつつ、実に長いこと職場に居残っていました。「定時」という概念は完全に消え失せていました。

私自身は、「残業代を発生させないよう、効率よく仕事をして、定時になるとさっくり帰る」というような働き方が理想だと思っていました。会社経営にも子を持つ母にも優しい働き方です。が、どうも、職位3の男性陣にとって私は異分子だったようです。まだ若かった私は、だらだら働いた方がいいなんておかしいじゃないか、こんな仕事辞めてやる~と憤慨し、実際に辞めてしまったのでした。

20年近くたった今になって、かつての職場を思い出しているのは、最近の労働法制をめぐる動きのせいです。今年春に帰国してから、「限定正社員」なる言葉をちょくちょく耳にするようになりました。何これ?と思っていたら、6月に自民党内閣が決定した骨太の方針では、「ジョブ型正社員」という言葉に変わっていました。依然として何これ?ですが、職務、勤務地又は労働時間が限定されている正社員のことをいい、多様な働き方をめざすのだそうです。

さらに、8月に入って、政府が「プロフェッショナル労働制」なるものを導入する方針だと日経新聞が報じました。日経の説明によれば、対象は年収800万円超の社員で、労働時間にかかわらず固定給という制度なんだそうです。「労働時間の規定があるので思い切って働けない」という不満を解消し、生産性の向上を図るのが目的だとか。

だけど、それは逆効果だろうなあと思うのです。人間の集中力は1日8時間が限界のように思います。それ以上長い時間働くことを強いられたら、どこかで力を抜かないと、過労死します。かつて批判的に見ていた「職位3」の働き方ですが、今にしてみれば、彼らは会社に適合しつつ、自身の命と健康を守るため、無意識に労働生産性を下げていたのでしょう。正社員の概念を無理やり二分化したり、労働時間の制限を無くしたりするより、長時間労働を無くす方がよほど効率的に思えます。

とはいえ、晴れて転職した弁護士業も、夕方以降の予定から先にスケジュール帳が埋まっていくという、恐ろしい長時間労働社会でした。子育てのため夕方5時に帰る私はここでも異分子です。さすがに、もうこんな仕事辞めてやる~というわけにはいかないので、なんとか適合する道を探っています。が、先日は、自宅に持ち帰って夜中までかかって仕上げた書類を、見事に置き忘れて出勤し、往復1時間かけて取りに戻るはめになりました。やはり長時間労働は効率悪いです。

「ねっとわーく京都」2013年10月号