弁護士コラム

成年被後見人選挙権訴訟の終結に寄せて~高齢者・障がい者の権利擁護の活動を

成年被後見人選挙権訴訟の終結に寄せて
~高齢者・障がい者の権利擁護の活動を~

1 世論の力で国を動かす

2013年7月17日、成年被後見人選挙権確認訴訟が終結するに至りました。3月14日に東京地裁が下した違憲判決について国側はあくまでも争う姿勢を貫いて東京高裁に控訴していましたが、一転、和解による解決の意向を示したため、同日、東京高裁で和解が成立することになったのです。

これを受けて、京都でも取り組まれていた同様の裁判も、目的を達成して終了することになりました。みなさまのご理解とご支援によって世論が形作られ、国を動かした結果であると考えています。この場を借りて、御礼申し上げます。

2 裁判の概要

「日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」と憲法の一番最初に謳われるように、選挙権は民主主義社会で最も重要な権利です。その権利が、これまで成年被後見人には与えられていませんでした。公職選挙法11条1項1号が後見開始の審判を受けたことを選挙権の欠格事由としていたためです。その結果、成年被後見人の方々は、2012年12月衆議院議員選挙までは選挙に行くことができませんでした。しかし、成年後見制度は本人の権利を護るための制度なのに、なぜ選挙権という重要な権利を奪われるのでしょう。そもそも憲法は、能力によって選挙権の有無を区別することを許容しているのでしょうか。

こうした疑問は長い間取り上げられてきませんでした。公職選挙法の前身となった法律を含めれば、これまで120年以上にもわたって選挙権は奪われ続けてきたことになります。この問題に光を当て、成年被後見人に国民として当たり前の選挙権を認めてほしい、社会に参加したい、そんな裁判が東京や京都など全国4か所で提起され、支援の輪がどんどん広がっていきました。

京都での裁判はいつも支援の人であふれ、裁判の後の報告集会では活発な議論が行われてきました。京都訴訟で国は、「選挙権を誰に与えるかは国の自由だ。裁判所の判断できるような問題ではない。だから、そもそも訴訟の対象とならない」、「成年被後見人は、極めて簡単な事柄さえも判断できない人である」、「選挙権を与えると選挙の公正が害されることは明らか」など、驚くような主張を平然と繰り返し、傍聴席や報告集会ではいつも怒りの声が上がっていました。

3 当たり前の判断をした東京地裁判決

そうした中で2013年3月14日に下された東京地裁判決は、公選法の規定は違憲であると明確に判断したのです。成年被後見人であった原告に、初めて選挙権が認められた瞬間です。

判決は言います。「(選挙権は)国民主権の原理に基づく議会制民主主義の根幹として位置付けられるものである」、「我が国の国民には、望まざるにも関わらず障害を持って生まれた者、不慮の事故や病によって障害を持つに至った者、老化という自然的な生理現象に伴って判断能力が低下している者など様々なハンディキャップを負う者が多数存在する。成年被後見人も含め、そのような国民も、我が国の主権者たる「国民」であることは明らかである。」、「選挙権を行使するに足る判断能力を有する成年被後見人から選挙権を奪うことは、成年後見制度が設けられた上記の趣旨に反する」と。選挙権の重要性を確認すると同時に、さまざまな境遇にある者であっても等しく我が国の「国民」であるとの判断部分は、正に憲法13条が定める個人の尊厳を確認するものといえ、日本国憲法が暮らしの中に生かされた実例としても大きな価値があります。

判決言渡し後に裁判長は、本人に対し、「どうぞ選挙権を行使して、社会に参加してください。どうぞ胸を張って、いい人生を生きてください。」と声をかけたといいます。この言葉には、今回の裁判の意義が凝縮されているといえるでしょう。

この判決を受け、国はようやく重い腰を上げました。成年被後見人から選挙権を奪っていた公職選挙法の規定を削除した改正法を5月27日に成立させたのです。これによって成年被後見人の方々は、7月の参議院議員選挙からは選挙に行くことができるようになりました。その数はなんと、全国で13万人を超えます。「家族みんなで選挙に行きたいです」というのが、原告として裁判を闘われた方の素直な言葉でした。

4 高齢者・障がい者の権利擁護の活動を強化していきます

法令が改正され、裁判も終結しましたが、高齢者・障がい者の権利擁護の取り組みはこれからも続きます。もともとこの裁判も権利擁護の一環として始まったものであり、高齢者・障がい者への虐待や消費者被害、相続や遺言の問題なども、権利擁護活動として重要な分野です。

こうした分野で今、福祉の専門家とも協力して弁護士が果たすべき役割が重要になっています。法律の専門家としてアドバイスを行い、ときには自ら問題の解決にあたり、権利を護っていく活動です。例えば、各地の専門職と連携し、定期的に会議を開いて情報を交換して悩みを共有することや、実際の事案に協力して取り組むことなど、行政が実施する虐待ケース会議への参加、各種相談会への参加などが挙げられます。もちろん、成年後見人としての活動や、相続・遺言の問題などにも、当事務所の50年の歴史を生かして積極的に取り組んでいます。

今後益々増えるであろうこうした権利擁護をめぐる問題に対して、当事務所としては、今回の裁判も1つの契機として取り組みを一層強めていく所存です。また、高齢者や障がい者の方にも気軽に相談していただけるよう、毎週木曜日(午前10~12時、午後1~3時)には顧問先の皆様を対象にした電話相談も実施しております。是非ご活用下さい。

なお、京都での成年被後見人選挙権訴訟の代理人は、当事務所からは藤井と谷が務めております。

「選挙のお知らせ」(はがき)を手に喜びの表情の原告

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