京都第一

特集:事務所事件から見る「橋下改革」の行方

特集:事務所事件から見る「橋下改革」の行方

大阪市の橋下市長が「橋下改革」と言われる制度改変を進めています。中でも「職員基本条例」「教育基本条例」に代表されるように、公務員・教員を厳しい管理と厳しい競争にさらす「公務員制度改革」を行おうとしています。

社会保険庁職員分限免職事件との類似点

当時の自民党政府は「政治家の年金未納問題」に端を発して、業務以外で年金の納付記録を閲覧した社会保険庁職員を激しくバッシングし、常軌を逸する厳しい懲戒処分をする一方、2009年末に社会保険庁を解体し、年金に関する業務の多くを民間法人の日本年金機構に移行しました。その際、職員の雇用は承継されず、懲戒処分を受けた人はすべて不採用とされ、525名が民間の整理解雇にあたる「分限免職処分」を受けました。現在、京都では15名の元社会保険庁職員が分限免職処分の取り消しを求めて提訴しており、当事務所を中心に弁護団が結成されています。

職員の「弱点」を激しく責め、民間と比べても過剰な懲戒処分を濫発する点は社会保険庁問題と橋下市長の共通点です。現在、大阪市では市営地下鉄を民営化する計画もありますが、そうなれば職員の分限免職処分が濫発される可能性もあります。現に大阪府市では「職員基本条例」で職員を免職に追い込む手段ばかりが詳細に決められました。そして、その理論的下地には社会保険庁解体の際の政府の理屈があると思われます。

激しい職員バッシングの末に発足した日本年金機構は、国民のために年金業務を行う機関として機能していません。ベテラン職員を大量に解雇したため、国民年金保険料の収納率は機構発足後にますます下落し、「消えた年金」の照合作業も全件照合が断念され、統合件数は減少し、年金記録訂正申立の門前払いすら起こっています。

事務所事件から見る「橋下改革」の行方

社会保険庁の解体は、公的であるべき部門を公務員バッシングと民間万能論で無理やり民営化して失敗した典型事例と言えます。国民の年金受給権確保のためにも国に誤りを認めさせ、元職員たちを職場に戻すことが重要ですし、大阪で同じ誤りを繰り返させてはなりません。

過労で倒れる先生たち

今日、教育現場では、教育実践そのものが複雑化、困難化している上に、様々な事務処理を要求され、長時間の残業が常態化しています。2010年度は教員の病気休職が過去最高となり、とくにうつ病等の精神疾患が多いのが特徴です。教員の過労死、過労自死の事件も全国各地で頻発しています。当事務所が担当している事件でも、昨年末から今年にかけて相次いで教員の過労死、過労自死等が労災認定されています。

その中の一つが京都市立御所南小学校の大西春美先生が過労死した事件です。御所南小学校は予算の傾斜配分により質の高い施設・設備をそろえ様々な先端的取り組みや御池中学校との小中一貫教育を行ったことで入学希望者が殺到し、児童数が1200人を超えるマンモス校になりました。亡くなった大西先生は2学年の担任と学年主任、研究主任、「読解科」という全く新しい科目の主任、図書館の実質的な責任者等、様々な重責を担っていました。時間外勤務時間は月240時間にも及び、文字通り仕事が生活のすべてとなってしまったなかで、遂に倒れてしまったのです。

大阪府市では公立学校を競争にさらして定員割れした学校を統廃合する計画がありますが、そのようなことをすれば過労死事件がさらに増えることでしょう。先生たちが精神的・肉体的にギリギリの状況で、子どもたちがよい教育を受けられるはずもありません。御所南小学校過労死事件は、橋下市長が進めようとしている競争・選別教育の末には、競争に負けた学校のみならず、生き残った学校でも好ましくない未来が待っていることを示しています。

公務員制度のあり方を考えましょう

橋下市長が主張するような公務員組織の怠慢、堕落ともいうべき現象がごく一部に存在することは事実でしょう。しかしそれを一般化して、姿形の見えない「公務員」をバッシングすれば、上記で見てきたように国民・住民の生活に悪影響が出かねません。私たちは、身近で現に働いている公務員の姿や役割から、もう一度、公務員制度 の在り方を考え直していく時期に来ていると言えます。

大西先生の労災認定後の記者会見

「京都第一」2012年夏号