京都第一

世直し座談会 ひと・いのち輝く京都府へ

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子どもを社会的に支える仕組み

大河原 今日は京都民医連会長で、かどの三条こども診療所所長の尾崎望さんにおいでいただきました。尾崎さんは、今回、2014年春に行われる京都府知事選に立候補を表明されました。小児科医として34年とお聞きしています。私も大島も小学生の子どもがいますが、周囲を見ていると、なかなか難しい家庭が多くなっているのかな、とこの頃実感します。

大島 私も離婚事件を扱っていて、お母さんが二重にパートをしないとやっていけないなど、母子家庭が直面する現実をみています。

尾崎 子どもって一人で生きていけないから、家庭という基地がないと生活そのものが成り立たない。だけど、家庭が機能を果たせないとそのまま子どもたちが被害を被ってしまうというのをすごく感じまして、たとえば具合が悪くなっても病院に連れて来ないなど、お母さんやお父さんのしんどさが子どもに現れています。それは、医療という窓口で見ていてもすごく感じます。

大河原 子どもにしわ寄せがいっている中で、社会や政治はどのような役割を果たせばいいのでしょう。

尾崎 保育園や医療機関、福祉の関係機関、さらには法律関係者など専門家が協力してケースごとに対応していけるシステムが必要ですね。例えば、親が精神疾患をもっていて、子どもへの虐待があったケースでは、福祉の担当者、保育園、私たちとがいろいろ話し合って、最後は精神科医とうまく連携できて、強制的な対応をせずにすみました。大変なことが起こってから対応するのではなく、大変なことになる前に手立てをうっておいた方が絶対にうまくいくと思います。

大島 尾崎さんは具体的な事例をよく知っておられるので、いい手立てを考えていただけそうですね。

尾崎 私は障害がある子どもをずっと診ていますが、特別支援学級に入るためのハードルが高すぎると感じています。例えば知的レベルがやや遅れている子は、基本的に普通学級に入ってしまいます。するとついていけなくなって、2年生くらいになると「お客さん状態」で、黙ってしまうか行動化するかのどっちかです。でも、この子たちは就学の段階で特別支援学級に行くと、絶対にうまくいくのですね。勉強の仕方や対人関係などを覚えて、学校が安心できる場になったら、2年生、3年生くらいで普通学級に行ける子は多いと思います。ただ、私たちがそう言っても「やっぱり最初くらいは普通学級に行きたい」とだいたいの親御さんはおっしゃる。だからハードルが高いわけです。

大河原 いまの特別支援学級って、本当に障害の重い子だけが入っていますね。軽度の障害の子は普通学級にいますが、なかなか集団生活になじめない子もいると聞きます。症状に応じた学級が必要になるので、教員の数とか施設とかの問題も大きいのかもしれませんね。

尾崎 本気で少人数学級、例えば20人を切るくらいにしちゃうか、でなければ選択肢をたくさんつくっておくか、最初の段階で学校は嫌なところになってしまうと後が大変です。そういう子も3年生4年生くらいで、ようやく親も理解して特別支援学級に行き出すと、生き生きして変わっていきますけどね。

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ベトナムへの医療支援の活動

大河原 尾崎さんはベトナムの、いわゆる枯れ葉剤で障害を負った子どもたちの支援をずっとされていますね。

尾崎 障害児教育の研究者として知られる藤本文朗さんに誘われたのがきっかけで、かれこれ20年近い関わりです。障害の最大の原因は戦争だということをきちんと学ばなくてはいけない、枯れ葉剤の影響を調べる必要があるのではということで僕に話がきました。最初は調査のためだったのですが、現地の障害者の方から、「日本に連れて帰って治療してくれ」と言われて、悩みました。それで、コミュニティ・ベースド・リハビリテーション(地域内の意識を変え、地域にある資源を活用することで障害がある人の権利を守る取り組み)を進めようと、教育・啓蒙活動をする人を育て、中核病院の力量を高めていく支援をするようになりました。

大島 私は、医療的な支援なのかなと思っていたのですが、調査や、政策的な支援までやっておられたのですね。

尾崎 人育てって、おもしろいんですよ。ベトナムでは、変わっていくダイナミックさを実感できましたね。

大島 そういう経験を、京都でもぜひ生かしてほしいです。

北部・南部の医師不足には

大河原 京都府の医療では、北部と南部の医師不足がいまでも大きく、特に産科、小児科は北部、南部で非常に深刻だと思います。

尾崎 子どもの救急のうち重症な例は5%ぐらいなので、かかりつけ医的な地域の開業医が一般的な病気を診て、そこで対応できない患者さん、より救急・重症な子どもたちに対応できる中核病院をつくるという、両方が必要です。

大島 親の立場から言えば、近くに気軽に診てくれて、子どものことをよく分かってくれている病院があると安心です。

尾崎 人口が減っているのに、保険診療だけで医療機関が成り立つことはあり得ないので、それなりの手当てを国や府が出す必要があります。開業してやっていける展望があったら、田舎でやりたいという人はいっぱいいると思います。

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Xバンド・レーダーには反対

大島 いま丹後ではXバンド・レーダーが設置されようとしていますが……。

尾崎 日本が曲がりなりにも発展できたのは、戦争をしなかったのが大きいと思います。ベトナムを見ていると、戦争をやり続けていたから経済が疲弊しているなと、戦争に手を出したら住民の生活は衰退していくという実感があります。Xバンド・レーダーはかえって府が危険

になると思います。反対の世論で包囲していくことで、地主さんも動いてくれるのではないでしょうか。

大河原 国は、農業で得られる収益よりも高い水準の賃料を提示しています。生業としての農業がきちんとできれば、簡単に土地を貸そうということにならないのでしょうが。

尾崎 基地をもってきて一時的に潤うことがあっても、長続きはしないでしょう。借り物で勝負せず地域を興さなあかんなというのが、この間の実感です。

大島 こうしたい、ここを変えたいという思いは、たくさんあるのでしょうね。

大河原 期待しています。ありがとうございました。

「京都第一」2014年新春号