まきえや

出資法・利息制限法・貸金業法の改正

出資法・利息制限法・貸金業法の改正

まだまだ不十分 抜本的改正を

1.改正の概要

日栄、商工ファンドに代表される高利商工ローン業者による過剰貸付や、強引な取立てに対する社会的批判の高まりを受けて、昨年(1999年)末の臨時国会において、出資法、利息制限法及び貸金業規制法の改正法が成立し、本年6月より施行されることになりました。

この改正の主な内容は、次のとおりです。

第1に、出資法の上限金利が年40.004パーセントから年29.2パーセントに引き下げられました。これにより、これまでは年40パーセントという無茶苦茶な金利をとる高利サラ金や商工ローンが、合法的に営業できていたものが、年29.2パーセントを超えると刑事上処罰されるため、これを超える高利での営業は事実上できなくなります。

第2に、これに関連して、利息制限法ではこれまで制限利率(元本が10万円未満の場合年20パーセント、10万円以上100万円未満で年18パーセント、 100万円以上で年15パーセント)の2倍までの遅延損害金が認められていましたが、1.46倍までに引下げられました。

第3に、貸金業規制法が改正されて、次の点が加えられました。

  • (1) 保証契約締結前に保証人に対して必要な書面の交付が義務づけられました。また、根保証契約において、債務者に追加で融資が行われた場合には、その都度保証人に対してその内容を知らせる書面の交付が義務づけられました。
  • (2) 貸付の際の利率について、手数料や調査料などの名目の如何を問わず、利息以外の名目で貸付によって債権者が受ける利益を「実質金利」として表示させることを義務づけました。
  • (3) 保証業者が債務者に代わって代位弁済したうえ、債務者に取立てを行う場合に、その保証業者についても貸金業者と同様の取立てに関する規制が適用されるとしました。
  • (4) 違反の場合の罰金額の引上げや、懲役期間の延長による貸金業者に対する刑罰が強化されました。

2.改正の背景

今回の改正の背景は、日栄・商工ファンドに代表される高利商工ローン業者による被害が社会問題化したことにあります。

高利商工ローンの貸付の特徴は、手形を使った高金利の貸付であることに加えて、連帯保証人を取った上に、その連帯保証人に根保証をさせていることでした。

高利商工ローンから借入を行った債務者は、手形を振り出しているので、いかに高金利であろうとも、不渡りによる倒産をさけるために、手形を決済しなくてはなりません。債務者は、必死で、他の業者から借り入れしてでも、手形決済資金を準備することになります。これにより、高利商工ローン業者は年利30パーセントを超える高金利を容易に手中に収めることができます。そして、これらの業者は貸付金の一部弁済を認めず、根保証の枠いっぱいまで追加貸付を行うため、債務者はいずれは倒産することになってしまいます。商工ローンの元社員の話では、高利商工ローンに手を出した債務者の何と9割が倒産しているとのことです (東京新聞1999年6月8日)。

債務者が倒産すると、高利商工ローンは、その日のうちに回収に走ります。連帯保証人は、根保証の意味を知りませんので、当初借り入れた金額だけの保証と思っていますが、根保証の枠いっぱいを保証させられていたことを、この時初めて知らされるのです。高利商工ローンの債権回収は債権回収専門の担当者が行っていますが、給料が歩合制であることや過酷なノルマが課せられていることにより、手荒な文言を用いて、取り立てを行うことが常態化していました。

「目玉も売れ、2つももったいない」「腎臓1個売らんか。2つも持ってぜいたくな。」「うちの債務者腎臓1個しかない奴多いねんぞ。」「うちの会社は暴力団の○○とつながっているので、それを動かせるんだ」などの常軌を逸した脅迫が行われていたことは、既に新聞報道でもごじのことと思います。そして、このような違法な取り立てのために、連帯保証人は、やむなく貸金を支払っているのが実情でした。

3.不十分なものにとどまった法改正~抜本的改正を!

今般の法改正は、従前よりは一歩前進ではあるものの、高利商工ローン被害や高利サラ金被害の根絶を求める立場からは、なお極めて不十分なものと言わざるを得ません。

当面、次の改正が緊急に求められているところで、京都弁護士会も2000年3月、「高利商工ローン・高利サラ金被害の根絶を求める意見書」を出していますが、抜本的改正を求める世論を高めていく必要があります。

第1に、出資法の上限金利を29.2パーセントに止めることは、今や市場の大半のシェアを占めるに至っている大手サラ金業者の現在の営業金利を追認しているようなものです。この程度の改正では急増するクレジット・サラ金、商工ローン被害の解決には大きな効果は期待できません。公定歩合が年0.5パーセント、銀行の普通預金が年0.05パーセントという超低金利時代においては、出資法の上限金利を利息制限法と同じ水準(15ないし20パーセント)まで更に引下げ、いわゆるグレーゾーン(注)を撤廃する法改正に直ちに着手すべきです。

第2に、今般の出資法の改正では、日賦貸金業者(上限金利109.5パーセント)及び電話担保金融(上限金利54.75パーセント)についての特例措置がそのまま存続されていますが、これは悪質金融業者に脱法策を残しているようなものです。このような特例措置の撤廃が、緊急の課題となっています。

第3に、今般の貸金業規制法の改正では根保証契約を存続させたまま、単に通知義務を課しただけですが、そもそも一般市民にとって、「保証」についての認識は、その契約の時に交付された金銭についての認識しかなく、根保証や極度額といった金融の特殊用語を理解するこを期待するのは困難です。従って、事業代表者が会社の保証をする場合は別として、それ以外の者について根保証を求めることは禁止すべきものです。

(注)グレーゾーン

利息制限法の制限利率を超えるため、民事上は違法ではあるが、出資法等には違反しないため、刑事上は合法となる利率の範囲のこと(下図の灰色部分)。
民事上は違法・無効ですから支払う必要はありません。
グレーゾーン金利

「まきえや」2000年春号